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俺達は、教会で必要なタスクを完了したので、リンゼの指示のもと宿屋へとやって来ていた。
宿泊費用に関しては、教会内の賽銭箱から拝借してきた。
1回だけならペナルティが無いらしいので、遠慮せず奪ってやったさ。
嫌なら、鍵くらいつけろ。
宿屋のベッドに寝る事でリスポーン地点が更新されるそうで、レベル上げでモンスターと戦う前にまず一泊しようって話になったんだけど……。
『おひとり様ですね?』
『いや、2人だけど?』
『おひとり様ですね?』
『バグってんじゃないのかこのNPC……』
リンゼと2人で一緒の部屋に泊まって、落ち着いて作戦会議でもしようと思ってんのに、宿屋の受付のお姉さんが、頑なに俺を1人客にしようとする。
なんだ?
そんなにボッチオーラ出てるか?
これでも女の子と一緒に冒険中なんだぞ!
『……………………………………あ!』
俺が5分以上そんなやり取りをしていると、隣にいたリンゼが弾かれたように声を出した。
『どうした?』
『あのさ、アタシたちって、パーティ組んで無いんじゃないかしら?』
『パーティってなんだ?』
『何人かでチームを組んでプレイするシステムよ』
『小隊みたいなもんか?小隊メンバーの場所をリスポーン地点に利用できたりして便利なんだよな』
『アンタのその偏った知識は何なのかしらね……』
そんな事言われてもさ……。
『そういえば、ファンタジー系のアニメでパーティって聞いた事あるかもしれん。役割が決まってるんだっけ?』
『まあ、絶対にって訳じゃないけれど、盾役と攻撃役とサポート役がバランスよくいるのが一番安定すると思うわよ?』
『でっかい盾だけ持ってる奴は、ぶっちゃけいらないと思うんだよな。なんで都合よく敵がその盾に向かって行くんじゃい』
『それは……盾捌きとかスキルとか、色々あるんじゃない?』
『それでなんとかなるなら、今度はもう全員盾もって盾で殴りに行くのが一番強いと思う』
『そんなMMORPG絶対つまんないわよ……』
『迫力はあると思うぞ』
ムッキムキのオッサン数人が、自分の体と同じくらいのサイズの盾を構えて突撃してきて殴ってくる光景をイメージして、2人で下らないなと笑ってしまった。
『で、パーティ組むか?』
『ちょっと待って。パーティってアタシもわからないのよね。今調べるわ』
『……そうか』
オープンベータからプレイしていた元女神様。
フレンドどころか、パーティすら未体験の御様子。
優しくしてやろう……。
なんて思ってたら、ピコンと音が鳴り、視界に何かの選択肢が浮かぶ。
『はい!パーティ申請出したわよ!ハイって選びなさい!』
『ほいほいっと』
いわれた通りにすると、リンゼの頭の上に数秒間『パーティメンバー ✞黒猫天使✞』と表示されていた。
これで、パーティになったと言う事なんだろう。
パーリィの始まりだ!
『ってことで、2名様だ!』
『畏まりました。お部屋は、201号室です』
『おお!2人と認識されたぞリンゼ!』
『やったわね!』
ボッチでは無いとゲーム側が認めたわけだ。
ははは!
『……部屋行くか』
『……そうね』
自分たちの喜んだ内容があまりに悲しい事に気が付いて、ほぼ無言のまま言い渡された部屋へと入ると、そこはベッドが2つあるだけの簡素な部屋だった。
『宿屋の部屋は、専用チャンネルに作られるから、完全な安全地帯なの。悪質なプレイヤーキルしてくるような奴も気にしなくて済むし、会話が盗み聞きされる心配も無いから、秘密の話し合いなんかにも使われるわね。それよりも、ギルド作ってギルドホーム設置する方がセキュリティ面は確実だし、人数制限も緩いからやりやすいんだけれどね』
『ギルドってかなり優遇されてるんだな。リンゼと偶々会えてなかったら、その良さに気が付きもしていなかったかもしれないわ……』
『アタシに感謝する事ね!』
『お前も俺がいなかったらボッチだったくせに……』
『そんな訳ないじゃない!フレンドポンポン見つけてたわよ!』
『でも、俺達が最初に会った場所、他にプレイヤー誰もいなかったじゃん……。だから俺もあの辺りにいったんだし……』
『……やめましょうこの話。誰も得しないわ……』
不毛すぎるわ……。
それにしても、同じ部屋になるように態々パーティまで組んだけれど、女の子とあまり広くない宿屋で一緒に一泊とか、ドキドキするな……。
しかも、こんな可愛い女の子と……。
前世で俺に止めを刺した女神様だけども……。
「ん?何よ?」
「いや、緊張するなって」
「緊張?なんで?」
「だって、同室でお泊りだぞ?そんなのさぁ……」
「あ……ま、まあでも!このゲームってエッチな行為禁止だから、アンタがどれだけ盛って襲い掛かって来ても安心なのよ!」
「そ……そうか。じゃあ、襲い掛かる分には問題ないのか……。そうか……」
「なんでそうなるのよ!?もういいわ!寝るわよ!このゲームの仕様上、寝たら一瞬で次の日になってるから!アタシは、壁の方向いてるから!何されてもわからないから!」
「そうか。じゃあお休み」
「は?……お休み……」
俺もリンゼに倣いベッドに横になって目を閉じると、本当に一瞬で朝になった。
うん、少なくともこの宿屋で睡眠をとることはできないらしい。
リスティ様のいる世界だと、現実世界だと一瞬でも、問題なく何時間も寝ることができるのになぁ……。
うん、ちゃんと寝れないのはマイナス点です。
あ、逆にここで寝ながらログアウトしないアホが出るのを防いでいるのか?
だったら加点するしかないが……。
「……さ、行くわよ」
「ん?もう出発か?」
「ここに居たってアンタ何もしてこないでしょ!」
「お……おう?」
なんか怒られたけど、とにかくさっさと宿を引き払って外に出た。
リンゼの計画だと、リスポーン地点をこの宿に変更したので、仮に死んでもここから復活できるから、ここからはガッツリレベル上げを行うらしい。
俺は、戦闘メインでやっていきたいわけではないけれど、このゲームの世界で職人として成り上がるためにも、レベルを上げてスキルをゲットしていく必要があるそうなので頑張ろう!
向かう先は、プレイヤーたちの多くがこのゲームで初めて体験するダンジョンである、『迷いの洞窟』という場所らしい。
ふふ……腕が鳴るなぁ!
そして1時間後。
俺とリンゼは、何故か幼女を連れて、洞窟の中を彷徨っていた。
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