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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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634:

『ムービーにも出てきたこの教会の中に入れば、自動的にオリジンの欠片が手に入って、それをトリガーにしてマナバーストを習得できるわ!』

『ほほう……、自動的に……。ん?ってことは、またムービーが入るのか?』

『そうよ!良かったわね!』

『……そうだな!』


 リンゼ曰く、このゲームのムービーには、物凄い金がかかった豪華な物らしい。

 らしい……というのは、俺はそもそもムービーを一度たりともまともに見ていないのと、事前情報を全く集めずにプレイしているので、その辺り良く知らんのだ。

 ただ、嬉しそうにしているリンゼが素晴らしいので、それだけでもそのムービーとやらには価値がある。

 感謝を送ろう運営スタッフたちよ!


 そして、早速とばかりに教会の中へと入る俺達。

 そこに躊躇など無い。

 リンゼは、ムービーが見たいらしいし、俺はといえば、即スキップだからだ。


 中へと足を踏み入れた瞬間、またもや体の自由が奪われる感覚が……。


「異世界からの来訪者……勇者よ……私の声が聞こえますか……?」


 なんか、すごい美人っぽい声が聞こえてきた。

 これは……ちょっとスキップを待とう。


「私は、マナのフェアリー……。名を……メルティと申します……。貴方がここに来るのを……数千年……数万年……数えきれない程の時を……待ちました……」


 おやおや、美人系ですね。

 オッパイが大きいし、顔も優しい系。

 これは、とても無難に男が喜ぶ系のキャラデザですわ。

 服も、無駄に体のラインが分かるような薄いレースみたいな生地とデザインだし、痴女ですかね?

 フェアリーって事は、妖精か?

 妖精だからこういう格好でもOKという理屈ですかぁ……。

 なるほどぉ……。

 しかも、仮想空間にダイブして見ているようなムービーだから、おっぱいの僅かな揺れまで再現されている。

 匠の技術だな……。


 よし、スキップっと。




 俺は、教会の中へと戻って来た。

 当然だけど、リンゼはまだ戻ってきていないらしい。

 ムービーをしっかり見届けているんだろう。

 リンゼがムービーを見終わって戻って来た時に、ここからいなくなっていると、「ちょっと!ムービースキップしたんじゃないでしょうね!?」ってプリプリ怒り出す事請け合いなので、この場所から動かずに周りを確認だ。


 教会の中は、俺のイメージとちょっと違った。

 てっきり、やって来た信者が座ってお祈りするベンチが並んでいるもんだと思っていたけれど、そういう物は見当たらない。

 大理石の床があるだけだ。

 壁は、真っ白な素材で作られているようで、汚れ一つ見当たらない。

 なんというか、教会より神殿って表現した方が近い気がするな。


 神聖さを感じる空気を肌で感じ、ステンドグラスなどの造り込みがすごいなぁと感心していると、リンゼが戻って来た。

 かなり上機嫌なので、今回のムービーも満足の行く出来だったんだろう。

 良い事だ。


『大試!オリジンの欠片を手に入れたから、マナバーストが使えるようになっている筈よ!コマンドで選ぶこともできるけれど、折角だしマナバーストって唱えて使って見なさい!』

『おお!等々俺にも剣を具現化する以外の魔力の使い道が出来たか!』


 ファンタジーの世界にやって来たのに、来る日も来る日も木刀しか使えないという悔しい日々を過ごした思い出が読みがる。

 辛かったなぁ……。

 その後、すごい性能の剣がいっぱい手に入ったけれど、それでもやっぱり自分自身の体から火とか水を飛ばしてみたいっていう欲求は、ずーっとあったんだ。

 ゲームの中とは言え、それが叶うなんてなぁ……。

 よし!やってみようじゃないか!食らえ!


「マナバースト!」




 何も起きない。

 ここが、教会の中だからだろうか?

 マナを使用するような技が禁止されているとか?

 なら、町から出てやり直してみるか!


『……えーと、大試?ちゃんと今、マナバーストって叫んでいたわよね?』

『え?うん。ただ、ここが非戦闘エリアか何かで、発動しなかったみたいだけどな』

『そう……かしら?』

「マナバースト!」


 リンゼがマナバーストと叫ぶと、リンゼを中心にして何かの怪しく光る圧力の壁が周りに広がり、俺を押し出した。

 ほー、これがマナバーストかぁ。

 ノックバック的な機能があるんだろうなとは思ってたけど、見た目割と派手だな……。


『あれ?リンゼは、ここでマナバーストを発動できるのか?』

『当然できるわ。だってここ、タイミングによっては、モンスターだって出てくる場所だもの。戦闘スキルくらい使えて当然なの。なのに、アンタ……』

『……まさか……まさかなんだけど……。このゲームの中ですら、俺には魔術どころか、魔力を使う行為ができない……とか……?』

『…………』


 リンゼが無言になり、そっと俺から視線を逸らした。

 その無言のしぐさが、何よりも俺の置かれた状況の残念さを表していた。


 リンゼが、言い辛そうに口を開く。


『あくまで私の予想だけれど、神剣を具現化する事に関しては、このゲームの際限の範疇にないけれど、魔術とそれに準じた魔力を使う行為が行えないっていうアンタのデメリットは、ゲームの機能的に再現可能だったって事なのかもしれないわ。となると……残念だけれど……』

『そんな……そんな事が……』


『まあいっか』

『いいの!?』

『元々そんな事期待してゲーム始めた訳でも無いしな』

『えぇ……?アンタがもうゲーム辞めるとか言い出さないかとちょっと不安になったんだけど私……』


 もちろん、魔術目的でこのゲームを始めたんだとしたら、もう辞めてしまっていたとは思う。

 だけど、俺がこのゲームに求める物は、もっと他にあるんだ。


『逆に聞くけれど、アンタって、このゲームの何が楽しみで始めたの?MMORPGどころか、ファンタジーなゲーム自体あんまりやったこと無いんでしょ?』

『いや、このゲームって、戦闘以外がメインのプレイもできるってCMで説明されてたからさ。素材集めて、剣とかのアイテムを作り出し、他のプレイヤーに売りつけて、伝説の職人的な感じで持て囃されてみたくて……』

『厄介な楽しみ方しようとしてるわね……。廃人路線よそれ……』


 我が家で最もゲーマーなリンゼに呆れられてしまった。

 そこまで言う程か……?

 そう言われると……ちょっとやる気出ちゃうじゃん……。





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