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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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624/664

624:

 先週まで夏日だったと思ったら、早朝に気温が1桁になっててびっくりするようになった今日此頃。

 俺はまた、鬼一さんに呼び出されていた。

 場所は、またまた例の喫茶店だ。

 何故か、店員さんの視線が生暖かくなってきた気がする……。


「…………ごめんなさいね、また呼び出してしまって…………」

「いえ……。それで、何かあったんですか?」


 眼の前に座っている鬼一さんは、随分憔悴している。

 この前まであんなに幸せそうだったのに……。

 ツヤツヤしてたのに……。

 爽やかイケメンと1日20回もして……。


「……夫が、誠司さんが……。一昨日、亡くなったの……」

「…………はい?」


 死んだ?

 あの爽やかイケメンが?

 鬼一さんに搾り取られて窶れていたあの爽やかイケメンが?

 てか、名前って誠司っていうのかあのイケメン。


「事故か何かでしょうか?」

「事故……なのかしら……」


 どうも煮え切らない反応の鬼一さん。

 原因がはっきりしないんだろうか?


 俺に説明するためか、当時を思い出しながら話そうとする鬼一さんをゆっくりと待つ。


「あの日は、私も誠司さんも絶好調だったのよ」

「…………はあ」


 また性事情か?


「30回を超えても、誠司は、まだまだデキる!って言ってくれててね……。そして、48回目を終えた瞬間だったわ……」


 そう言って、テーブルに肘をついて、組んだ手の上に額を載せて俯く鬼一さん。


「ふぐうぅ!?……彼は、そううめき声を上げたの」

「ふぐぅ……」

「ビクンビクンとしたと思ったら、そのまま私の胸に倒れ込んできて……。とてもすごい絶頂を迎えたのかと思っていたのだけれど……。私の息が整っても彼が動かなくて……」

「…………えぇっと……それってつまり……腹上……」

「警察と検視官さんの話だと、死因は心臓麻痺になるそうよ……」


 どうしよう……?

 そんな事って本当にあるんだ……?

 確かに窶れていたけれどさ……。

 いや、48回もしたらそりゃ……。

 ああぁあああ!

 耐えろ俺の顔面筋!

 このタイミングはダメだ!

 笑っちゃダメだ!

 神妙な顔を維持するんだ!


 俺は、激情を耐えることで、死に心を痛める者を演じた。

 いや、確かに可哀想なんだけれどさ……。

 多分、男にとって理想の死に方の一つだろうし、幸せだったんじゃないかと思うんだよなぁ……。

 とてつもない美女と死ぬほどして、本当に死んだなんて、歴史上でもそうそうないだろう……。


 てか、それがTS妖怪とだったって条件づけだと、おそらく有史以来初めてなのでは?

 んなもん笑うわ!

 そして、間接的にとはいえ、その責任の一端を担ってしまった俺の罪悪感も酷い!


 よし、このことについて考えるのは一旦やめよう。

 これからの話しだこれからの。


「鬼一さん、お葬式とかは終わったんですか?これからのこととか決まってます?力になれることがあったら、遠慮なく言ってくださいね?」

「……えぇ。ありがとう……。でも、お葬式に関しては、家族葬で内々で終わらせることになっているの……。彼のご両親も、こんな事があったのに、私のことを恨むでもなく親身になってくれて……。私……私……」


 うん、笑える部分があるとはいえ、悲しい出来事であり、本人たちにとって大変なことであるのは間違いない。

 なんとかしてあげられたらいいな……。

 じゃないと、またこの超絶美女TS天狗に引っかかる男が出てくるぞ……。

 ダメージ食ってる美人の未亡人とか、もうそんなの大人のビデオの使い古されたネタじゃないか……。

 そしてまた、爽やかイケメンくんみたいに吸い取られて死ぬんだ……。

 てか、爽やかイケメン君さぁ!

 まだデキる!じゃねぇんだよなぁ……。

 ぶっちゃけキミも大概だと思うんだよ?

 性の申し子か何かだったの?


「彼との事が片付いたら、また元の住処に戻ろうと思っているの……」

「そうですか……。それは、寂しくなりますね……」


 ぶっちゃけ、あの天狗のおっさんは、俺の中でもういなくなっちゃっているので、すでに寂しさはどうしようもないんだけどもね。

 あのおっさんが48回も男としてたと思うより、別人だと思ったほうが心の負担が少ない。


「いつか、前向きに生きていけるだけの元気が沸いたら連絡を下さい。幸い、俺の寿命はかなり長いらしいんで、いつでも待ってますから」

「……本当に大試くんは、いい人ね……。私も、出会い方が違ったら、きっと貴方と……いえ、今そんな事を言ってはダメね。私は、あの人と愛し合って、短い間だったけれど、最後まで共に過ごしたの。それだけよ」


 カッコいい大人の女性みたいなこと言ってるけど、TSするだけでなく、頭の中まで薄い本とかに毒されているらしい。

 セクシャルモンスターやん……。


「鬼一さんは、とても有能な方です。それは、出会ったときから変わっていません。人間社会で生活しようと思えたなら、こちらとしても是非とも力を貸してほしいくらいですよ。将来に関しては、ゆっくり考えていきましょう。心の傷は、簡単には癒えないでしょうけれど、きっと時間が解決してくれます。だからそれ以外の人間社会の柵なんかは、こちらで解決しますからね。安心して静養して下さい」

「えぇ……いつもいつも申し訳なく思うけれど、また甘えさせてもらうわ……」


 そして、鬼一さんは山へと帰っていった。

 お土産に女性用下着とか、生理用品とか、理美容品なんかを山のようにもって。

 いつか彼が……彼女が、前を向いて歩いていけるようになったら、また人間社会に戻ってきてほしい。

 あの薬学とかの知識は素晴らしかったからなぁ……。

 そう考えて送り出したんだけれど、その2週間後には、再会することになる。





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― 新着の感想 ―
愛が重すぎた天狗。回数が減ったらもう私には飽きたんですか?とか言われて限界超えて頑張った結果にも思える。
なんでだろうね?この大試君なら鬼一さんの彼氏の魂捕まえてホムンクルス体に移植できそうな確固たるイメージがあるんだけど と言うか48回て……人間?
こんばんは。 48回…!?(驚愕) そりゃ昇天(物理)しますわなぁ……もう彼女に一生付き合えるのは薄い本によく現れる性欲無限おじさんか、同じく薄い本のNTRものの竿役チャラ男しか居なさそう(笑)
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