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先週まで夏日だったと思ったら、早朝に気温が1桁になっててびっくりするようになった今日此頃。
俺はまた、鬼一さんに呼び出されていた。
場所は、またまた例の喫茶店だ。
何故か、店員さんの視線が生暖かくなってきた気がする……。
「…………ごめんなさいね、また呼び出してしまって…………」
「いえ……。それで、何かあったんですか?」
眼の前に座っている鬼一さんは、随分憔悴している。
この前まであんなに幸せそうだったのに……。
ツヤツヤしてたのに……。
爽やかイケメンと1日20回もして……。
「……夫が、誠司さんが……。一昨日、亡くなったの……」
「…………はい?」
死んだ?
あの爽やかイケメンが?
鬼一さんに搾り取られて窶れていたあの爽やかイケメンが?
てか、名前って誠司っていうのかあのイケメン。
「事故か何かでしょうか?」
「事故……なのかしら……」
どうも煮え切らない反応の鬼一さん。
原因がはっきりしないんだろうか?
俺に説明するためか、当時を思い出しながら話そうとする鬼一さんをゆっくりと待つ。
「あの日は、私も誠司さんも絶好調だったのよ」
「…………はあ」
また性事情か?
「30回を超えても、誠司は、まだまだデキる!って言ってくれててね……。そして、48回目を終えた瞬間だったわ……」
そう言って、テーブルに肘をついて、組んだ手の上に額を載せて俯く鬼一さん。
「ふぐうぅ!?……彼は、そううめき声を上げたの」
「ふぐぅ……」
「ビクンビクンとしたと思ったら、そのまま私の胸に倒れ込んできて……。とてもすごい絶頂を迎えたのかと思っていたのだけれど……。私の息が整っても彼が動かなくて……」
「…………えぇっと……それってつまり……腹上……」
「警察と検視官さんの話だと、死因は心臓麻痺になるそうよ……」
どうしよう……?
そんな事って本当にあるんだ……?
確かに窶れていたけれどさ……。
いや、48回もしたらそりゃ……。
ああぁあああ!
耐えろ俺の顔面筋!
このタイミングはダメだ!
笑っちゃダメだ!
神妙な顔を維持するんだ!
俺は、激情を耐えることで、死に心を痛める者を演じた。
いや、確かに可哀想なんだけれどさ……。
多分、男にとって理想の死に方の一つだろうし、幸せだったんじゃないかと思うんだよなぁ……。
とてつもない美女と死ぬほどして、本当に死んだなんて、歴史上でもそうそうないだろう……。
てか、それがTS妖怪とだったって条件づけだと、おそらく有史以来初めてなのでは?
んなもん笑うわ!
そして、間接的にとはいえ、その責任の一端を担ってしまった俺の罪悪感も酷い!
よし、このことについて考えるのは一旦やめよう。
これからの話しだこれからの。
「鬼一さん、お葬式とかは終わったんですか?これからのこととか決まってます?力になれることがあったら、遠慮なく言ってくださいね?」
「……えぇ。ありがとう……。でも、お葬式に関しては、家族葬で内々で終わらせることになっているの……。彼のご両親も、こんな事があったのに、私のことを恨むでもなく親身になってくれて……。私……私……」
うん、笑える部分があるとはいえ、悲しい出来事であり、本人たちにとって大変なことであるのは間違いない。
なんとかしてあげられたらいいな……。
じゃないと、またこの超絶美女TS天狗に引っかかる男が出てくるぞ……。
ダメージ食ってる美人の未亡人とか、もうそんなの大人のビデオの使い古されたネタじゃないか……。
そしてまた、爽やかイケメンくんみたいに吸い取られて死ぬんだ……。
てか、爽やかイケメン君さぁ!
まだデキる!じゃねぇんだよなぁ……。
ぶっちゃけキミも大概だと思うんだよ?
性の申し子か何かだったの?
「彼との事が片付いたら、また元の住処に戻ろうと思っているの……」
「そうですか……。それは、寂しくなりますね……」
ぶっちゃけ、あの天狗のおっさんは、俺の中でもういなくなっちゃっているので、すでに寂しさはどうしようもないんだけどもね。
あのおっさんが48回も男としてたと思うより、別人だと思ったほうが心の負担が少ない。
「いつか、前向きに生きていけるだけの元気が沸いたら連絡を下さい。幸い、俺の寿命はかなり長いらしいんで、いつでも待ってますから」
「……本当に大試くんは、いい人ね……。私も、出会い方が違ったら、きっと貴方と……いえ、今そんな事を言ってはダメね。私は、あの人と愛し合って、短い間だったけれど、最後まで共に過ごしたの。それだけよ」
カッコいい大人の女性みたいなこと言ってるけど、TSするだけでなく、頭の中まで薄い本とかに毒されているらしい。
セクシャルモンスターやん……。
「鬼一さんは、とても有能な方です。それは、出会ったときから変わっていません。人間社会で生活しようと思えたなら、こちらとしても是非とも力を貸してほしいくらいですよ。将来に関しては、ゆっくり考えていきましょう。心の傷は、簡単には癒えないでしょうけれど、きっと時間が解決してくれます。だからそれ以外の人間社会の柵なんかは、こちらで解決しますからね。安心して静養して下さい」
「えぇ……いつもいつも申し訳なく思うけれど、また甘えさせてもらうわ……」
そして、鬼一さんは山へと帰っていった。
お土産に女性用下着とか、生理用品とか、理美容品なんかを山のようにもって。
いつか彼が……彼女が、前を向いて歩いていけるようになったら、また人間社会に戻ってきてほしい。
あの薬学とかの知識は素晴らしかったからなぁ……。
そう考えて送り出したんだけれど、その2週間後には、再会することになる。
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