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「いくのれすナイア!あのカキの化け物を倒すんれすよ!」
「美しいわナイア!その尻尾捌き、まるで飯伏銀のレスラーの足捌きみたい!」
「シオリもやる!遠くのはシオリが倒す!」
「きゅるる~!」
3m強のトカゲの上に、女の子たちが何人か代わる代わる乗りながらはしゃいでいる。
その重量を物ともせず、巨大なトカゲ、ナイアは、自動車並みの速度で走り回っている。
余裕があるように見えるので、恐らくだけれど、もっと速く走ることも可能なんだろう。
ただ、背中の女の子たちを考えて手加減しているんだと思う。
加速と減速も、かなーり緩やかにしているし、なかなかやりおる……。
「中々のペット力を見せつけてくれるじゃねぇかあのトカゲ……!」
「大試、気に入ったの?」
「まあな」
「そう、それはよかった」
「アタシが芋を焼いてヘバってる間に、なんであんなのがここにいるのよ……?」
「ソラウが連れてきた」
「たまたま、運よくテイムできただけですよ」
「テイムって……アレは、ドラ」
「トカゲです。大きな」
「えぇ……?」
まあ、素人は驚くよな。
ファンタジーな世の中には、ビックリするくらいでかいトカゲがいるもんなんだよ。
多分。
「大試さん!可愛い動物を捕まえてきました!」
そんな和やかな雰囲気に響く気高き声。
聖剣の所持者、有栖の御登場だ。
「一応聞くけど、その引き摺ってるそれの事か……?」
「はい!可愛いですよね!?」
「……脚を斬り飛ばされて、身動きできない状態にされてなければ、そうかもな……」
「止めを刺してしまうとダンジョンの魔物は消えてしまうので仕方がありません!」
有栖の背後には、デカい羊がいた。
巨大な巻き角をむんずと掴まれて、抵抗もできずに成すがままになっている。
魔物とは言え、ちょっと不憫だなぁ……。
ってか、何に対抗しているんだこのお姫様は?
「ありがとう有栖。満足したよ」
「では、絞めますね!」
あ、見せたかっただけなのね。
俺の言葉に満足したらしく、即首を跳ねて倒した有栖。
残ったのは、ドロップ品の羊毛とマトン肉だけだった。
「大試君、可愛い動物といえば、何か忘れていないかしら?」
「…………えーと、ソ」
「そう!ソフィアね!」
『オス人間!デカいトカゲが走ってる!逃がして!早く!』
今度は、自分のペットを連れて参加していた会長が張り合い始めた。
全くジャンルが違うと思うんだが……。
その猫のソフィアが、少女たちが乗った状態で走り回れる程のサイズとパワーがあるなら話は別だけれど、それではもうただの化け猫か、理衣である。
『ソフィア、ほら、名前は知らんけど、鳥の脂身少なめの肉を茹でておいたぞ』
『よくやったオス人間!食べる!ちょうだい!』
『喉つまらせるなよー?』
「あらソフィア、とても喜んで食べているわね!美味しいのかしら?」
「美味しいんでしょうね。猫がどこまで人間と同じ味を感じているのかわかりませんけど」
「そうね……。大試君、私にもあれと同じものもらえないかしら?」
「いいですよ?ってか、こっちのサラダに乗ってるんで、今皿にとりますね」
「サラダ用なの!?」
「あんまり猫に味が濃い物ばっかりあげるのもなんだなぁって思いまして。かと言って人間にそれだと物足りないし、ソフィア用だけで作ると量少なすぎて逆に面倒だしで、他のメニューに取り入れられる形で作りました」
「成程……。やっぱり自分でお料理をするのも重要なのね。そういう視点、私には無かったわ」
「いや、別にそんな大層な話でもないですし……」
「というわけで、私もこれからお料理するわ!」
「あー……じゃあまずは、カレーからにしましょう。ルーは市販のものを使って、説明書通りに作って下さい」
「隠し味には、何を入れたらいいのかしら!?」
「何もいりません。食べる人への愛があれば大丈夫です」
別に会長の料理の腕が下手だとは思っていないけれど、普段あまり料理をしない人が、テンションに任せてやりたい放題すると碌な事にならない。
だから、市販のものを使ってくださいませ。
あと、猫好きな会長には、カレーは悪くない選択だと思うんだ。
「因みにですけど、カレーの匂いは、猫が大好きらしいですよ」
「そうなの!?」
「まあ、個体差あるかもなんで、絶対とは言いませんが」
「いいわ!試すだけよ!」
カレーからは、マタタビに近い匂いがするとかで、頭が蕩けているような状態になるネコがいるらしい。
まあ、塩分が濃い上にタマネギとかも入っているから、実際に食わせるのはダメだそうだけども。
といっても、ソフィアは既に精霊なので、食わせても問題ないはずだけどな。
会長が、理衣が未だに果物の皮を剥いたりと忙しそうにしている仮設キッチンへと向かって行くのを見送る。
カレールーの箱の説明通りに作れば、変なもんにもならんだろうし、何より理衣がなんとかしてくれるだろう。
会長も器用だし、変に怪我もしないだろ……。
「……なんていうか、平和だなぁ」
「そうだね。はい、大試。アップルパイだって」
「すごい洒落たもん出てきたな……」
「ドロップ品らしいよ」
「何からこんなんがドロップするんだか……」
誰が作ってるんだ?
元になったゲームはともかく……。
料理好きなダンジョンマスターとかいるのか?
俺は、隣に控えていた元ダンジョンボスに聞いてみた。
「これってどういう風にしたら出てくるものなんだ?誰かが作ってるのか?」
「ふむふむ、これは、リンゴギャングの種を破壊した状態で倒さないと出てこないレアドロップ品ですね。何者かの手によって作られるのではなく、ダンジョンの機能として生成されるものであると私は考えております」
「へぇ……。それにしても、そういう細かい条件でもドロップするものが変わるのか……」
「ではでは、他のレアドロップ品についてもご説明いたしましょうか?」
俺にその膨大な知識を披露しようとするソラウ。
ならばと言う事で、さっきから聞きたかったことを聞いてみることにした。
「じゃあさ、あのトカゲをトカゲって言い張って、どこまでなら通用すると思う?」
「おやおや、アレは、トカゲですよ?」
「…………そうか、どこまでもそのスタンスで行くんだな?」
「もちろんです。可愛いですし」
「まあ、そうだな。子供たちにも懐いてるみたいだし、いっか……」
「えぇえぇ、大試様ならそう言って下さると思っておりました」
遠くの方で、ナイアがブレスを放ち、背中の少女たちがキャッキャと騒いでいるのを見ながら、俺はこの平和を嚙み締めた。
何事も、捉え方次第だよな……。
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