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「違う……俺は……こんな地獄を作ろうとしたわけじゃ無い……!ごめん……!ごめんみんな!」
「ふぅ!傑作っすねぇ!こんな感じで良かったっすか?」
「あー、良いんじゃないですかね?特に、弟の王子くんの頭が半分皮膚無い辺りが」
「恐縮っす!」
見ていたら具合と精神の状態が悪くなりそうな表紙絵が完成した。
これは売れる。
間違いない。
決して、こんな恐ろしい物を皆が楽しみにしているイベントにぶち込んだらどうなるのかという破滅的なワクワク感に酔っている訳じゃない。
ただただ芸術作品として、これは秀逸だと思う。
だって、絵を見ただけで心をこんなに動かされたの初めてだもん。
早くここから逃げたいって魂が叫んでいる。
なのに、この絵を他の奴らにも見せないと気がすまないって考えも湧いてくる。
不思議だなぁ……?
「では、ジブンはまた他の絵を描くっす!」
「頑張ってください。聖羅も喜びます」
「画家冥利に尽きるっすね!」
冥利って、仏教用語だと、良い事をした事で得られる幸運な事とかそんな感じだっけ?
あの地獄を顕現させる行為が、仏教的に良い事なのかは知らんが、確かにミナミ画伯は天才だ。
それだけは分かる。
だが、あまり世には出さない方が良い気もする……。
まあ、出すんだが!
この絵を見るのが俺だけなんてもったいない!
世界中で味わってもら……布教しないと!
「ということで、ミナミ画伯が今までに書いた絵で作った画集を即売会で売ってみることにした。一時期、時間経過で消滅する絵ばかりだったけれど、生前の絵と、最近油絵の具を与えてからの絵はちゃんと残ってるし、大丈夫だろ多分」
「待ってください。何故私の可愛い弟をスプラッタな怪物として描いた女性の画集を出すことにしたのか、私にはまったくわからないのですが?」
「可愛い弟を物理的に目に入れようとするお姫さまには言われたくないんだよなぁ……」
「いいえ、アナタにだってわかる筈ですよ大試さん。確か……紅羽ちゃんでしたか?妹さんが目の前で初めて言葉を発し、しかもそれが『お兄ちゃん』だったとしたらどうします?目に入れたくなるでしょう?」
「いや、抱きしめたくはなると思うけど、流石に目にはいれねぇよ……。可哀想だろ……」
「くっ!アナタまで私を否定するんですか!?」
迫真の演技だけど、絶対コイツ俺を揶揄ってるぞ?
大体、否定なら割といつもしてるし……。
「逆に聞くけど、受け入れられる目算が少しでもあったのか?」
「8割がた受け入れてもらえると思いました」
「すげぇ自信だな……」
「まあ、私の行いを否定しつつも、私を見放さない所に好感は覚えますが」
「流石に、外国から俺に任される形で来てる女の子を簡単に見放せんだろ……」
ギリギリだけどもな……。
弟を目に入れようとするのは、本当にぎりぎりだ……。
「ご主人様、私の事もどうか見捨てないで下さい……。お望みなら、何でもしますから……」
「正気に戻ってほしいって望みは叶います?」
「私は正気ですよ?」
テーブルを挟んでソファーに座りながら話していた俺とルイーゼ。
このソファー、俺側もルイーゼ側もまだ2人くらいは座れるスペースあるんだけれど、何故か俺の脚元で割座の体勢で待機しているベティさんの姿があった。
なんだろう?
だんだんとメイド服が体の一部みたいに違和感が無くなって来てんなこの人……。
「ルイーゼ、ベティさんがヤバそうなんだが」
「慣れない地での任務で疲れていたのでしょう。可哀想に。もう少し回復するまで待ってあげてください」
「それって疲れの原因は、お前って事になるんだが?」
「安心してください。ベティは強い女性です。きっと自力でまた立ち上がってくれるでしょう」
「それらしいこと言って終わろうとしてんじゃねぇよ。やり切った顔しながら緑茶飲みやがって」
「餡子というのはすばらしいですね。お饅頭もお団子もお餅も、餡子がある事で完成する気がします。そこにこの緑茶で更にドン」
「十勝産小豆で作られているらしいからね……」
多分これ以上何かを言っても意味が無さそうなので、相手の話に乗ってやった。
エルフたちが作った小豆で作られた餡子だから、ソフィアさんも納得する美味しさだぞ。
「話を戻すが、画集も一緒に売ることで、ミナミ画伯のヤバさを広めようと思ってるんだ。それで、ミナミ画伯が描いた表紙を使っている数少ない本として、この本も売れないかなと」
「そんな抱き合わせ商法みたいな事しなくても、人々の目にさえ触れれば、きっと買いたい人がモリモリ湧いてくると思うのですが……」
「それは無いから安心しろ」
「どうして無いと言い切れるのですか?」
「説明されたいか?」
「いえ、流石にそれは本気で泣きそうなので遠慮しておきます」
「…………まあ、ちゃんと同人誌として完成させたことは凄いと思うぞ?同人誌を描いてみようと思った奴はいっぱいいるだろうけれど、それを実際に描く所まで頑張れる奴ってそうそういないだろうし」
流石に内容について酷評し過ぎた気がしてきた。
どんなにクソつまらないとしても、頑張って作られたものをあんまり貶すのもなぁ……。
クソみたいにつまらないけど。
「……………………………………………………………………」
「どうした?」
なんか、いきなりルイーゼが固まったんだけど?
クールビューティーな感じというより、凍った感じだな。
「大試さんって、ツンデレってやつなのでしょうか?」
「違うと思うが?」
「では、私が勝手に大試さんのツンとデレにやられてしまっただけなのでしょうか?」
「何がだ?」
「いえ、きっとこれは、初めて自分が本気で作りたくて作ったものを、これまた初めていきなり褒められたせいで私の頭にバグが発生しているだけだと思うのですが……」
そう前置きをしながら、ルイーゼは俺の右手を手でつかんで、自分の顔の方へと持って行き……。
「私の目に入ってもらえませんか?」
「嫌だよ!?」
危なく弟王子と同じトラウマを抱える所だった……。
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