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聖騎士隊……いや、うーん……聖歌隊……?
うーん……デスメタル隊?
わかんねーけど、とりあえず、聖騎士のお姉さんたちのライブは凄かった。
所々デスメタルボイスを出したりしながらも、リーダーさんを中心としたヤケに上手いその歌唱力によって場を暖め、ボディラインを出しているタイトめの修道服によって女性らしい美しさをも見せつけつつ、激しいダンスとアピールを繰り出してきた。
最後は、ギター担当の方がステージに持っていたギターを叩きつけて破壊せしめ、他のメンバーは、大昔の金貸しのCMのラストのごとくポーズを決めて終わった。
会場は、大盛りあがり。
お姉さんたちの本気の悪ふざけというのは、女性にはとてもウケるらしい。
何より、どこまでも訳が分からない状況によって、深く理解できないままボルテージが高まっている部分もあると思う。
まあ、みんなが幸せそうなのでヨシとしよう。
「ただ、俺が思ってた結婚式とは違う気がする……」
「いえいえ。結婚式など、人々が幸せならそれで良いのですよ」
「教皇がそういうこと言っていいんです?もっと神を崇めよとか、そんなコト言う方がいいんじゃ?」
「祈りとは、人が幸せになるために行う儀式です。神へ祈りを捧げるのだから、神様はきっと自分を幸せにしてくれるという想いこそが真理。無償の奉仕など、神とて求めておりますまい。神がただ自らに祈るだけの存在として人を作ったのなら、欲などというものが存在するはずがないのです。であれば、こうして皆が幸せを感じ、更に幸せになりたいと願っているこの場所こそが、神への祈りの場なのです。だからこそ、女神様は降臨なされたのでしょう」
「……そ、そうだね……」
いや、女神様は自分もウエディングドレス着てみたかったのと、なんとなく女神っぽい演出で登場したかっただけだと思うけどな……。
それはそれとして、未だ興奮冷めやらぬ会場から抜け出した俺は、外に用意したテーブルへと移動した。
そこには、ウエディングドレス姿の仙崎さんと、わざわざこのイベントに参加したいという理由だけで北海道の開拓村から飛んでやってきた母さん、そして、妹の紅羽の姿があった。
うん、実のところ母さんたちは呼んでなかったんだけど、どこから話を得たのか、クレージュさんに自分たちの用のウエディングドレスまで発注してやってきてしまったんだ。
実母のウエディングドレス姿を見せられるのって、なんていうか……微妙な気分になるな……。
しかも、ものすごく似合ってるのが更にアレ……。
「あら大試!そろそろ私の出番?」
「うん。もうすぐ主役たちがチャペルから出てくるから、それに合わせてお願い」
「わかったわ!せっかく来たんだもの!仕事くらいするわよ!じゃあ、しばらく紅羽を預けるわね?」
「一生預かってもいいんだけど?」
「うふふ、ダメ♡」
俺の唇に人差し指を付けながらそんなことを言う実母。
はぁ……紅羽可愛い……。
『小僧、この白いひらひらの服はなんぞ曰くがあるのか?』
『結婚する女性用の服だな』
『なんと!?では、この歳でこれから結婚させられるのか!?』
『いや、単に悪ノリでみんながその服を着たがっただけだから大丈夫。っていうか、紅羽と結婚したいって男がやってきたら、問答無用で俺が斬り殺すから、安心して独身でいてくれ』
『安心できんが!?』
ははは、お兄ちゃんは、いつでも紅羽のことを思っているからな!
……おや?このウエディングドレスすごいな……。
縫い目が表側に来るようになってる……。
ちゃんと赤ちゃん用の服みたいな製法になってんのか……。
クレーンさんすげぇ……。
「先輩!ではこれを!超強力スモーク発生装置です!」
「ありがとう、じゃあ、行ってくるわね!」
仙崎さんから道具を受け取った母さんが魔術で空に舞い上がっていった。
ロケットみたいな速度で……。
「はぁ……先輩カッコいい……」
『母上様は、本当に人なのかわからんな……』
見る人によって、その評価は変わるなぁ……。
下準備は終えたので、その近くにいたもう一人……いや、もう一頭のところへ向かう。
『さぁブラック、お前の晴れ舞台だぞ。ここで上手くやれば、あの素晴らしい魔馬に、是非うちの牝馬へ種付けしてほしい!なんて依頼がいっぱい来てくれるかもしれないんだからな』
『了解っすボス!吾輩、種馬になるために、精一杯馬車引くっす!』
考えていることは、もう野性的な事のみになっているけれど、見た目はかなり美しく立派な魔馬であるブラックが、とても高級感のあるオープンタイプの馬車に繋がれていた。
彼には、これからハネムーンのために新幹線の駅へと向かうアンナさんとゼルエルの送迎をさせるんだ。
きっと話題になるぞ!
頑張れ種馬!
繁忙期には、一日5回の種付けができるイケオスになるんだ!
そうこうしているうちに、大聖堂の大扉が開いた。
そして、参加していた観客たちが外に出てきて、真ん中の通路に沿うように両脇に並ぶ。
整列ができたら、今度はその中央をアンナさんとゼルエルが進み始めた。
観客の女性たちは、手に持たされた小さなかごから、ライスシャワーと花びらを花嫁に浴びせ始めた。
アレになんの意味があるのか俺はよく知らないけれど、なんか幸せそうだからいいよね。
2人が石畳で作られた通路の丁度中間辺りに来たときに、その側で補助をしていたアイが空を指差す。
みんながそちらを見ると、その空には、大きな天使の翼とハートマークが描かれていた。
うん、母さんがスモーク炊きながら飛んで描いたものだ。
2も観客もこれにはまたまた大盛りあがり。
すこし離れた所からその様子を眺めている俺と紅羽は、
「なんかもう、何起きても盛り上がるテンションになってるなあの人達」
『まあ、結婚式だというのであれば、そういうものなのかもしれんの』
と割と冷静に見ていたけれど、隣の仙崎さんは、
「うひゃああああ!先輩しゅごいいいいいい!」
と誰より興奮していた。
怖い。
観衆で満たされた道を渡りきり、道路へとアンナさんたちがやってきたので、俺が馬車の中へと2人を乗せる。
「では、お二人とも。このあと1週間ほど、新婚旅行をお楽しみ下さい」
「はい、本当にありがとうございます!私とゼルエルのためにここまで……」
「我からも最大限の感謝を……。それと、リスティ様にもお伝えしてくれ」
「わかりました」
総返事すると、ブラックに合図を送る。
御者席に量産型アイが一人乗っているけれど、実際にはブラックが自分で考えて新幹線の駅へと走っていくことになっている。
アイは、万が一この発情雄馬がやらかしそうなときに仕留めるための保険だ。
アンナさんとゼルエルは、今日から1週間白川郷リゾートのホテルのロイヤルスイートに滞在してもらうことになっている。
貴族や王族用のホテルの、更に最高の部屋だ。
これだけやれば、とりあえず満足はしてもらえるだろう。
今度は想像妊娠じゃなく、天使のラブキッスで本当に妊娠できるんじゃないかな?
しらんけど。
「…………あーつかれた…………」
「のう大試」
「なんですかソフィアさん?」
自分だけ姿を消してチャペルの中に残っていたソフィアさんが、いつの間にか側にいて声をかけてきた。
「なんでこんな事になったんじゃろうなぁ?」
「え?あの2人をくっつけるためでは?」
「いや、もともとは、アルテミスを預ける場所を探すためじゃったはずなんじゃよ。いつの間にか、自分で保育所を作り、なぜか大々的な結婚式を開催することになっておったが」
「……そういや、そうだった……」
おかしいな?
保育所に娘を入れるのって、こんなに大変なことだったのか?
解せん……。
「そういえば、ブーケトスって誰が勝利したんですか?」
「聖鎧を持ち出した聖羅じゃ」
「えぇ……?」
ブーケトスは、けが人が出るかもしれないから、みんな自重してくれよ?って言っておいたんだけど、やっぱり本気のやつがいたか……。
「まあいいや!なにはともあれ、娘を保育所にいれるっていう目的は果たせたんだし!」
結果良ければ全て良し!
苦労したけれど、それに見合うリターンは得られた気がする!
それで世は事もなし!
いい笑顔で頷いていると、正面からやってきた量産型じゃないアイが、いつも通りの無表情で話す。
「犀果様、気が付いていますか?」
「何を?」
「アルテミスは、アナタの娘ではありません」
「…………は!?」
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