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「いや、アンタ、アタシがここに来なかった1週間くらいの間に、何してんのよ?」
「何って……魔馬の繁殖体勢を整える算段を付けたくらいか?」
「何がどうしたらそんなことになるのよ……!」
「いやさ、松永のオッサンが襲撃して来てさ。返り討ちにしたはいいんだけど、オッサンが乗って来た魔馬は無事だったし、かといって警察も魔馬の管理なんてできなかったっぽいし、だったら家で預かるよってさ。そして、俺知らなかったんだけど、同じクラスに松永阿久利さんっているんだろ?あの人が先触れで来たから、まあ知らない間柄でもないんだし……一応な、あっちは俺の事知ってたから……家の中に入ってもらって、謝罪と賠償についての交渉をしてたらさ、流れでその雄の魔馬と、追加で雌馬貰えることになってさ。代わりに、その雄の魔馬の種付け料は無料ってことにしたんだけどね。ガンガン名馬を増やしていく事で合意したわけだ。これから来るぜー!競馬の時代が!」
「説明聞いても理解ができないわ……」
久しぶりにリンゼが来たので、折角だし新しい住人でも紹介しようとブラックの所まで案内したら、ビックリするくらいリンゼが驚いていたので、ここの所の重大な出来事を色々説明しておいた。
説明すればするほどあきれ顔になっていくのは何故だろう?
俺は、こんなにも真面目で誠実な対応をしているというのに。
「あのねぇ……。アンタは、知らないんでしょうけれど、魔馬の繁殖要素なんて、フェアリーファンタジーシリーズでもオンライン版にしかなかった要素な上に、しかも重課金要素だったのよ!具体的に言うと、3000円で1頭しか手に入らない魔馬が、最低でも2頭いないと繁殖させられないし、その魔馬の性能というか個性も、ガチャ要素というか、ランダムなのよ。そして、良い性能を持っている魔馬を親にすると、子供にもいい性能を持った魔馬が生まれやすいの。ただ、1頭産ませるのに1000円課金が必要って言うイカれっぷりよ?それでも、性能の良い魔馬は、乗ると本当に速いし、雑魚敵なんて突っ込むだけで倒せるから、マップ移動時にはすごく便利だったのよ。だから、皆こぞって課金しまくって、良い馬が出てほしいって祈りながらいたのよ」
女神が何に祈るんだよ……。
「なのに……なのに……」
そこまで説明して、何故かとても悔しそうな顔をするリンゼ。
久しぶりに我が家に遊びに来たんだから、そんなに騒がずゆっくりすればいいのに。
「どうして最高性能の黒影がここにいるのよ!!!!???」
「え?アイツ最高性能なの?あんなにアホみたいに交尾してぇって騒いでんのに?」
「何普通に魔馬と会話してんのよ!!!!???」
そう言われてもな……。
精霊の血が混ざってるからか?
「ってかさ、白花の方が性能高いんじゃないの?アイツの方がブラックより強いらしいぞ?」
「白花は、ゲームの方では出てきてないわよ……。有栖が生存したせいで発生したイレギュラーかもしれないけれど、アタシにもわからないわ。ただ、白花は、アンタが飼育しているとはいえ、あくまで有栖の所有する魔馬だから、ノーカンといえばノーカンなのかもしれないわ。あんなの出て来てたら、ゲームバランスなんて崩壊しちゃうでしょ……」
そんなもんかね?
そのゲームをやったことが無い俺には、よくわからんな。
「それでだ。リンゼも将来的に魔馬欲しいか?」
「…………欲しいわよ」
「雄か?雌か?」
「…………雌ね」
「毛の色は、どんなのがいい?」
「…………銀色」
「その条件に合う奴が産まれたら教えるな」
「…………うん」
冷静そうな顔をしているけれど、明らかに機嫌がよくなった。
ただ、素直にそれを表現するのは恥ずかしいので、ブスっとした表情になろうとしているらしい。
愛い奴め。
「大試、私も馬が欲しい」
「聖羅、食べるわけじゃ無いよな?」
「食べない。大試は、私を何だと思ってるの?」
「因みに、俺はブラックを食おうか生かそうかちょっと迷った」
「やっぱり食べるという選択肢もあったかもしれない」
分かってるよ聖羅。
予後不良になった馬は、結構馬肉にされるらしいから、万が一の時は食べて供養してやろう。
「雌、毛の色は黒。名前は、サイハテタイシンにする」
「随分具体的だなぁ聖羅……」
「うん」
リンゼと違って、ほぼ毎日家にやって来ている聖羅。
しかし、リンゼが俺から魔馬を貰うと聞いて初めて、自分も魔馬が欲しいと思ったらしい。
これがそこらの子供だったら、「そんなノリで生き物を飼おうとするんじゃありません!」って注意をされるところかもしれないけれど、聖羅の場合は、ちゃんと責任もって飼うから、その辺りは安心なんだ。
昔から、俺が何かの生き物を飼いだすと、自分も自分もと言い出して、ちゃんと死ぬまで面倒をみてたからなぁ……。
懐かしいなぁ……。
カエルの卵……子熊……ガキだったとはいえ、俺も聖羅もすごい量取って来たなぁ……。
因みに今日までに身近な人間に確認は粗方済ませている。
有栖は、白花がいるから暫く他の新しい魔馬はいらないらしい。
会長は、猫がいるから魔馬はちょっと……と言っていた。
魔馬を大人しくさせるのに、猫と一緒に飼うのは悪くない方法だとかで、案外相性がいいらしいけれど、猫側のストレスは相当だろうからな……。
理衣は、自分用の魔馬はいらないから、俺が乗る魔馬は、2人乗りが出来る大き目の奴にしてほしいと言っていた。
顔をちょっと赤くしながら……。
あざとい奴め!
好き!
絢萌は、魔馬なんて恐れ多いのでいりませんわ……と丁重にお断りされてしまった。
そんなこんなで、我が家全体でも自分用の魔馬が欲しいと言い出すメンバーは少数派だったりする。
割と上位の貴族出身が多い婚約者たちですら及び腰だった。
まあ、生き物を継続して面倒見るのって、想像よりも大変な事だからね。
しかもそれが魔馬ともなれば、そりゃ尻込みもするだろう。
俺だって、自分で飼育しようとしているわけじゃなくて、飼育員も雇うつもりだからこそ魔馬の繁殖なんてしようと考えたわけだし……。
「はぁ……名前はどうしようかしら……?ズィルバー……?いいえ、ここは敢えて漢字にするのもいいわね……。白銀……これね!」
リンゼが楽しそうで何よりだ。
リンゼの場合、釣りの時のお供にも丁度いいかもしれないし、大切にしてくれるだろう。
「そういえばアンタ、かなり無茶な性能の馬車を注文したらしいわね?馬車用の魔馬も用意するの?」
「いや、ブラックに引かせるぞ?」
「最高性能の魔馬に何させようとしてんのよ!?」
「本人は、割と喜んでたぞ?」
「だから何普通に魔馬と会話してんのよ!!!!???」
前世でフェアリーファンタジーとやらをやり込んだ女神的に、ブラックに馬車を引かせるのはナンセンスらしい。
そんな事をガミガミ言われながらも、忙しい中来てくれたリンゼと久しぶりにイチャイチャできて楽しかったなぁ今日は……。
この安らぎの時間を堪能した後は、ブラックの種付けスケジュールをオンラインで話し合おうと食い気味に約束させられたので、阿久利さんと会議しました。
種馬の馬生を甘く見ていた事をここに白状します。
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