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「へぇ……僕に馬車を作れ……ねぇ……?」
「はい」
「ただの馬車を作れって話じゃないんだろう?」
「当然」
「じゃあ、どんな機能が欲しいんだい?」
「制御できる程度に人間に従順な魔馬の中では、恐らく最強格の個体の全力疾走に耐えられて、どんな悪路でも車内に衝撃が来なくて、ミサイルの直撃にも耐えられて、おまけにノーマルタイプとオープンタイプの両方が欲しいです。バスタイプも欲しいかなぁ?アイツなら引っ張れそうだし。あ、見た目はもちろん大人の女性が喜ぶくらいシックで上品な高級品っぽさマシマシで。カラーは、黒がいいですね」
「その無茶ブリを待っていた!早速作ろう!」
「今回は、何回くらい死ねばいいですか?」
「僕を死神か何かみたいに言わないでくれるかな?でも、10回くらいまでなら許してもらえる程度の仕事はするよ!」
「じゃあそれで」
毎度おなじみマル義兄さんに発注を掛けに来た。
10回かぁ……。
まあ、ぼちぼちだな。
諸々のモルモット作業を終え、家に戻る。
するとそこには、早速ブラック用の小屋がアイの手によって作り上げられていた。
ねじり鉢巻きに腕組みでドヤ顔のアイが仁王立ちしている。
「できました」
「流石仕事が早いな」
「エアコン完備なので、暑さに弱い魔馬でも安心です」
「至れり尽くせりだな」
「本人……本馬の希望があれば、馬用の擬牝台も設置いたしますが?」
「ぎひんだい?」
「所謂ダッチワイフと呼ばれるものです。人工授精で魔馬を増やすことが受け入れられていない日本では、あまり一般的では無いようですが、海外ではよく利用されているようですよ」
「いや、流石に可哀想だろ……」
奇麗な状態で死んだら食ってやろうとすら考えている俺ですら、その……流石にな……?
「どこかから、雌を何頭か貰ってくるかなぁ」
「それは、良い考えだと思います。犀果家印の魔馬を増やしましょう」
おや?アイが随分ノリ気だ。
「ブラックの性欲を治めるために雌用意しようとしただけなんだけど、アイには何か考えがあるのか?」
「はい。折角ですし、将来的に競馬でも行おうかと」
「競馬?ギャンブルは、国営じゃないとダメじゃないか?」
「国営かどうかの基準は、国から許可を得ていて、売り上げの一部を国に上納しているかどうかです。なので形式としては、地方競馬のようになるかと」
「儲け出るのかなぁ……」
「出します」
「確定事項なんだ……。まあ、将来的には、それもいいか……」
「ありがとうございます」
前世だと地方競馬なんて、ネットで馬券買えるようになるまでは、どこも赤字垂れ流しの不良債権みたいな扱いだったらしいからなぁ。
ネットで馬券を買えるようになってからは、ネット業者に物凄い手数料取られてしまってきついけど、それでも地方競馬場を運営する地方自治体は大儲けできるようになったってニュースで見たし、そう言う意味では、情報世界で馬券を売りさばくなんてお手の物なAIたちからすれば、ぼろい商売にできるかもなぁ……。
「それじゃあ、雌を購入する前提で考えると、どこに頼むのがいいと思う?」
「やはり、国内の魔馬生産は、松永家が現状トップシェアを誇っておりますし、そちらに話を通してみては?」
「でも、あの逮捕されていったオッサンの家族だよ?碌でもない奴等っぽくない?」
「それはどうでしょうか?あまり、家族仲は良くなかったようですから、松永侯爵を返り討ちにした犀果様は、逆に感謝されているかもしれませんよ?」
「えぇ……?」
俺は、家族とは仲良くしていこう。
俺が殴り倒されて家族が喜ぶなんて関係になったら、多分生きていられない……。
「因みに、現在松永家からこの場所へ向かい、先触れの使者が走ってきています」
「先触れ?うちにそんなまともな対応する貴族いたのか」
「ですから、感謝されているのですよきっと」
「怖いよぉ……」
ラブアンドピースで行こうよ……。
まあ、俺に嫌がらせしまくって来た厭らしいオッサンだし、家族から嫌われても自業自得だろうが。
そうして戦慄しながら待つ事十数分。
うちの門の前に、これまた立派な魔馬に跨った女性がやってきた。
ん?見た目からすると女性って言うか、女子高生くらいの年齢か?
俺と同い年くらいに見える。
騎馬服を着て馬に乗るその娘は、俺を確認するなり馬から降り、片膝をついて頭を垂れた。
「急な訪問申し訳ございません。この度は、私の父が飛んだご迷惑をおかけしたと聞き、急遽駆け付けました。正式な謝罪と賠償に関しては、今後と言う事になりますが、その話し合いの前に取り急ぎ私共の誠意を見せるため、犀果様と交友のある私が使わされました」
「あーはい、そうですか……」
あのオッサン、大分禿げていたし、腹も出ていたけれど、こんな美少女を娘に持ってたのか。
遺伝子って不思議だなぁ……。
「ん?あれ?俺と交友があるって言った?」
「はい……はい?あれ?もしかして……もしかしてなのですが、私の事を覚えてらっしゃらない……とか……?」
「…………知っている……………よ?」
ごめん、知らないです。
「王立魔法学園2年1組、松永 阿久利です。1年生の時からクラスメイトなんですが……」
「…………正直に言うと、未だにクラスメイトの大半の顔と名前が一致しない……。いや、顔自体覚えてない……。会話しない相手だと、マジで忘れちゃって……」
「……有栖様の為に一時的とはいえ寝食を共にし、桜花祭で共に戦いましたが……?」
「……あの……えっと……もうしわけ……」
相手が謝罪しに来たと思ったら、いつの間にか俺が謝罪していた。
これが……話術か!!
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