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節目を記念するような話になったことがあんまりないな……。
『ぎえええええええええ!?何故ここに出荷されていった白花の姐御が!?雄を殺して回ってるって噂のあの白い悪魔がああああ!?』
『おや?黒坊ではないですか。元気でしたか?戦いますか?』
『戦わないっす!絶対に戦わないっす!』
『私に種付けさせられるために来たのではないのですか?』
『種付けとバトルはイコールではないっす!我輩は童貞のまま死ぬつもりはないっす!』
『そうですか』
我が家の裏庭。
そこにいる白いデカい馬に、暫く預かることになったブラックを紹介しておこうと連れてきたんだけれど、どうやら顔見知りだったらしい。
そりゃよかった。
そのお陰で、事前に戦いを挑んでいったりしないようだし。
白花は、ブラックへの興味を無くしたらしく、また熊とのキャットファイトに戻って行った。
うん、来た段階では、キャットファイト中だった。
近寄ったらこっちが大怪我しそうな迫力の。
『いやぁ、お前が変にイキって絡んで行かなくてよかったよ。流石に、預かった初日からサクラ鍋はどうかと思うしな』
『シャレになってないっすわ!マジシャレになってないんすわ!』
思ったよりも、白花との出会いは、ブラックにとって衝撃だったらしい。
脂汗というか……白い蝋みたいなのがいっぱい出てきている。
馬って、動揺するとそんな感じになるのか……。
『とりあえずさ、アイツらの近くには近寄らない方が良いぞ。離れた所にお前用の小屋作ってやるから、そっちで好きなように走っててくれ』
『頼まれても近寄らないっす!なんなら、あの姐御がいるって知っていたら、ここに来なかったかもしれないっす!』
『そんなに怖いのか……。ってか、随分下っ端みたいな話し方になったな?』
『魔馬なんて自分より強い相手みたら本能的に部下になっちゃうんすよ!姐御をペットにしてるって事は、それ以上にアンタが強いって事っすよね!?』
うーん……?
まあ、多分……?
倒そうと思えば倒せるけど、もし街中とかだったら、倒す前に大きな被害が出てそうだなぁ、くらいのパワーバランスか?
お詫びにサクラ鍋を配って歩かないといけなくなるな。
『それはそうと、今後のお前の処遇について考えないとな』
『処遇?飼ってくれるんじゃないんすか?』
『いや、警察……さっきの人たちだと、お前の面倒を見るのが難しいだろうから、一時的に預かっただけだ。これが正式な戦とかだったら、松永のおっさんが攻めてきて、それに対して俺が反撃して勝ったんだから、お前の所有権を俺が主張しても問題ないだろうけれど、現状よくわからんからな。もしかしたら、俺の保有する保育所に魔馬で乗り付けるなんて危険な事をした賠償として、金銭の代わりにお前を要求するって事もできるかもしれないけど……』
そこまで伝えてから、俺はブラックの全身を眺める。
『うちってそんなに魔馬必要としてないからさぁ。お前がどのくらいの価値になるのかもわからんし……。100gあたり300GPくらいか?』
『そんな事言わないでほしいっす!優秀っすよ!?あのデブ雄が飼ってる群れの中で一番強くて一番速かったんすよ!?』
『って言われてもなぁ……。ぶっちゃけさぁ、俺の方が速く走れる気がするし……』
『それはボスがヤバイだけっす!きっと役に立って見せるんで見捨てないでほしいっす!』
『えぇ……?ってかさぁ、お前だって元の場所に戻りたいんじゃないのか?』
『嫌っすよあんなとこ!だっていっぱい他の魔馬もいるから狭くてあんまり走り回れないし、何より交尾させてくれないんすもん!同じ群は雄ばっかりっすよ!雌とは離されてるんす!遠くから見る事ならできるっすけど、生殺しっすよ!』
『交尾したいのか?うちに白くて丁度いいのが……』
『だからシャレになってないっすわ!マジシャレになってないんすわ!』
すまんなアイ。
どうやら、暫くはサクラ肉を食べる機会は無さそうだぞ。
『ボスの伝手で、輝くような毛並みの雌とか用意してくれないっすか!?そうしてくれたら、いくらでも力になるっすよ!』
『っていわれても……なぁ……。多分その最大の伝手になりそうな相手は、さっき殴り倒したところだし……。王城にでも聞いてみるか?』
『おうじょう!聞いた事あるっす!白花の姐御が出荷されていったとこっす!きっとマヴいメスがいっぱいいる筈っすよ!』
『マヴい……』
まあ、言葉遣いにかんしてはもういいけどさ……。
『お前が俺の家に住み続けたいって言うなら、仕事はしてもらうぞ?』
『仕事っすか?我輩にもできることならやるっすよ?種馬として頑張れっていうなら望むところっす!』
前世のサラブレッドなら、競馬の大きなレースで勝った牡馬は、1回の交尾ですごいと数千万円稼いでたらしいし、それを1日に複数回していたっていうからなぁ……。
うーん……。
『それは、まあ、おいおいで……』
『残念っす……』
『我慢できないなら、その時は白花を連れてくるから』
『大丈夫っす!ホント大丈夫なんで!』
とはいえ、じゃあ何をさせるかなぁ……?
うーん……。
俺は、馬に乗ったりしないしなぁ……。
それ以外で馬を使う機会となると……。
『あ、そうだ。ブラックは、馬車を引いたことはあるか?』
『馬車?あの馬を馬車馬の如く働かせるアレっすか?』
『如くって言うか、そのままだけど……。それだな』
『無いっすねぇ。アレは、あのデブ雄の群れだと、期待されていない下っ端がやらされる仕事っすから』
『そうなのか?じゃあ、ブラックは、馬車を引くのは嫌か?』
『全然かまわないっす!あのデブなクソ雄が勝手にそう決めてたっぽいだけで、我輩は馬車引っ張るのちょっと憧れてたっす!』
ほうほう……。
それなら、利用方法もあるな……。
あのオッサンが魔馬で乗り付けたのだって、安全を確保してからであれば問題なかったんだ。
こっち側からしたら、どの程度気性の荒い個体かもわからない魔馬でやってこられたから対応せざるを得なかっただけで、大人しくしている分には、ただの雑食性で魔物とタイマン張れる馬だしな。
白花は、流石に開放する訳にはいかなかったし……。
『よし!じゃあブラックの事は、松永家から何とかもぎ取ってみよう!』
『頼むっす!もぎもぎしてほしいっす!』
『そうと決まれば、ブラック用の馬車を作らないとな!』
『黒いのが良いっす!黒くてテッカテカのがいいっす!』
『黒かぁ……。高級車っぽい感じが出ていいかもな……。あ、そういや、近々馬車を使って演出したいイベントが予定されてたんだった。丁度いいから、それ用にしてみるか……?』
『よくわからないっすけど、力になって見せるっす!だから、早めに雌を……』
『え?何か言ったか?』
最後の方、少しだけ難聴系主人公を気取りながら、我が家での魔馬の有効活用法を模索していった。
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