597:
「松永侯爵家派閥が大荒れの様子です」
「なんで?」
「子供に恥じない親になるためと言って、この保育所に通っている子供たちの両親たちの多くが、今回のような恥知らずの指示には二度と従わないと宣言しています。元々、供給する魔馬の頭数で政治を行う程度の派閥だったようですので、その魔馬の有用性が薄れてきた今の世代の当主たちともなると、大恥をかいてまで追従しなくても良いのではないか?という雰囲気が形成されたようですね」
「へぇ……。俺としては、この保育所に通う子供たちが、ある程度大きく成長した時に、その松永派閥を牛耳るんじゃないかなぁ~くらいに考えてたけど、随分早めに影響出たなぁ」
「彼らにとって、犀果様が現在行っている多くの事が衝撃的過ぎたのでしょう」
「そうか?」
「はい」
俺は今、子供たちによって『たいしせんせーゲーム』と命名された遊びの最中だ。
遊びと言っても、子供たちは本気でやっているし、俺は本気で突っ立っているんだが。
制限時間内に子供たちが攻撃で俺に痛みを感じさせたら勝ちという単純なルールの為、やりやすいんだろう。
これには、子供たちに早い段階で敗北を教えて、そこから立ち直る力を養うという目的がある。
同級生位ならともかく、保育所に通うくらいの年齢の子供たち相手に俺が反撃を加えたら大変な事になるため、最終的にこの形になった。
ただ、今のところは殆ど俺の勝ちなので、まあこの無抵抗で殴り続けられる苦行も良しとしよう。
現時点で俺に対し勝利を飾ったのは、アルテミスとメカクレロリっ子だ。
アルテミスは、まあ……体の成長が追いついていないとはいえ、アイたちと同じように超ハイスペックだから当然として、メカクレロリっ子の方は、相手に痛みを与えるスキルを持っているらしく、すぐに負けてしまった。
そんな訳で、派手な攻撃を繰り出していたアルテミスが女子のボスで、それ以外で唯一勝ったメカクレロリっ子がサブリーダーみたいになってるらしい。
そのせいで、この保育所の女子たちは、納豆をよく食べるようになった。
送り迎えに来るお母さんたちが、どうやって子供にここまで納豆を食べさせられるようにしたのかとすごく興味津々に質問されたけれど、「ボスみたいになっている女の子の好物なんです」と答えると、何とも言えない表情になってたなぁ……。
因みに、現在男子側にボスは存在しない。
何度か早食いでボスを決めようとしていたけれど、ヴァルキュリアのお姉さんたちとゼルエルに思いっきり叱られて以来行っていないようだ。
早食い競争はね……人死ぬからね……。
「それにしても、小学校で魔術を習うとは聞いていたけれど、保育所でも使える子は使えるんだなぁ」
「そのようですね」
「うらやましいなぁ。皆火とか水とかポコポコ撃ち出してさぁ」
「本人たちが聞いたら、その魔術を生身で受けて全く痛みを感じていない犀果様に文句を言いたくなるでしょうね」
まあ、神剣いっぱい持ってるせいで、多少の爆撃とか銃撃だったら弾くからなぁ今の俺。
これからの日本の平和を担う子供たちには、是非この体験をバネに強くなっていってほしい。
そんなこんなで、今日も無抵抗なのに子どもたちを軽く泣かせていると、近くでサポートをしていたアイが急遽ゲームの中止を宣言した。
「皆さん、ゲームは中止です」
「「「「「えー!?」」」」」
「さぁ、急いで保育所の中へ入ってください。おやつを出しますよ」
「「「「「わーい!」」」」」
現金なものである。
「ところで、いきなりどうした?」
「何者かが、保育所へと急速接近しております。警戒を」
「は?保育所を襲撃とかか?」
「わかりません。ですが、魔馬に乗っております」
「はぁ?」
パカラッ
パカラッ
アイに言われて周囲を警戒すると、確かに蹄の音が響いてくる。
舗装路を蹄鉄付きの蹄で走らせている音だ。
せっかく舗装したのに、傷つくからやめてくれねぇかなぁ……。
スパイクタイヤよりよっぽどゴリゴリ削れるぞ?
そしてその賊は、保育所の門手前で馬を止め、名乗りを上げた。
「我が名は、松永弾平!侯爵である!犀果大試!貴様に決闘を申しこおおおおおおお」
「うるせえぇ!!!」
そのおっさんは、何かを叫んだ。
次の瞬間、俺はそのおっさんをとりあえずぶん殴って沈黙させた。
子どもたちが怖がるだろうがカス。
感想、評価よろしくお願いします。




