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とうとう保育所が正式に始まった。
入園式には、貴族も平民も関係なく子供たちが着飾ってやってきて、大人たちもフォーマルな服装でビシッと決めて来ていた。
無論、うちもだ!
家族引き連れて参加してやったさ!
これでもこの幼稚園の主ですからね!
関係者席が殆どうちの者でしたが、まあそもそも他に関係者がいないんでね。
内輪の集いみたいなものですよ。
「アルテミス―!」
「はいれす!」
娘に呼びかけると、元気に返事をして笑顔で手を振ってくれた。
この時の為に買った一眼レフカメラと望遠レンズで余すところなく撮影しました。
隣では、アイが改造したウルトラ量子ビジョンビデオカメラを使って聖羅が動画を撮ってくれたので、何時かアルテミスが大人になったら一緒に観よう。
子供たちは、まだ入ったばかりということで、動物園の動物を全部一つの部屋にぶち込んだような騒ぎになっている。
貴族と平民で一応席は分けたけれど、ガキンチョだから、親たちの目論見なんて関係なく大騒ぎだ。
大人たちは大人たちで、様々な表情を見せている。
平民の大人たちは、やっと保育所が見つかった安心感と、自分たちの子供が正装でニコニコしている姿に心を打たれているのが分かる感動顔。
貴族の大人たちは、まさか本当に子供が受け入れられると思っていなかったのか、物凄く困惑している奴もいれば、これから何か邪魔をしようとしているのかニヤニヤしているハゲもいる。
何人かは、既に何かにつけて難癖をつけようとしていたけれど、まあ所詮は難癖でしかないので、後ろから出てきたソフィアさんとかアイに即行論破され、ぐぬぬりながら退散していった。
というか、相手が美人ばかりだからか、その難癖も温いし、対応されるだけでちょっと喜んでいる節がある。
大丈夫?隣に奥さんいるよ?
まあ、本番は今日からだ。
開園の翌日である本日から、我が『犀果保育所』のカリキュラムが始まる。
保育士は、ヴァルキュリアの女性たちだ。
今日まで短いながらもしっかりと保育士としての教育を受けさせてきたし、サポートとしてアイもつくから大丈夫だろう。
調理室には、驚くことにゼルエルがいる。
子供たちへの償い方として、ごはんを作ることにしたらしい。
アレルゲン物質として有名な物を入れないようにするとか、栄養価が高く美味しい物を作るとか、結構大変な作業なんだけれど、ヴァルキュリアの人員と力を合わせてやっていくんだとか。
近々産休に入る予定なので、ワンオペではなく交代要員を付けておいた。
「では、朝礼を始めます。おはようございます!」
「「「「「おはようございます!」」」」」
保育士の制服に身を包んだ女性たちが、俺に挨拶を返してくれる。
彼女たちは、美人なせいで色々酷い扱いを受けて捕まえられていた方々なので、当然ここには美人だらけ。
しかも、外国から連れてきているので、それはもうアレよ。
そんな彼女たちに、俺の中の保育士のお姉さんのイメージに合う服を制服として着てもらっているので、ここで彼女たちの姿をみているだけでとても幸せな気持ちになる。
具体的に言うと、下はタイト目のジーンズ。
上は、リブセーターにおそろいのエプロンだ。
夏になったら、全員Tシャツになる予定。
そして髪型は、ポニーテールだ。
これ重要なんだ。
これからチミっ子たちには、この服装を見たら、自動的に幸せな気持ちになるように刷り込みをしていく。
そう!刷り込みだ!
洗脳と言っても良い!
そもそもだ、小さい子供たちというのは、1から人格を形成している最中の不安定な状態。
そんなときに、気に食わない奴の妨害をするために多少のクソガキ化を施したとはいえ送り込むなんて、ちょっと考えが甘いんじゃないですかねぇ?
俺さぁ、そういう事されちゃうと、『良い子』にしてあげたくなっちゃうんですよ。
「それでは、今日も一日、子供たちに『愛』と『友情』と『敗北』と『勝利』を教えて行きましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
そして始まる動物園。
「おい!そのつみきおれのだぞ!おれきぞくなんだぞ!」
「きぞくとかわけわかんないこというな!おれがさきにもってたんだ!」
「わーん!このこがたたいたー!」
「ちがうもん!わたしのにんぎょうとろうとしたからだもん!」
「そろそろ納豆が食べたいれす!」
阿鼻叫喚。
夜の部にも分かれているとはいえ、1000人近くも一遍に受け入れると、大騒ぎだな。
「では、練習の成果を発揮しましょう。突撃!」
「「「「「はい!」」」」」
保育士となったヴァルキュリアたちが駆けていく。
そして、喧嘩している子供たちや、泣いている子供たち。
その他訳わからないことをしているガキどもの元へ。
「こら!圭太くん!自分が貴族だからって平民の子供を虐めたらダメなんだよ!」
「うるさい!パパはいいっていってたもん!」
「なら、圭太くんは、平民を虐めるのが良い事だと思ってるの?圭太くんが好きなヒーローは、自分たちが強いからって、弱い人たちを虐めてる?」
「え?で……でも……パパが……」
そこで、ヴァルキュリアさんが子供を抱きしめる。
「大丈夫。わかってるよ。圭太くんは優しい子だもんね。ちょっと周りの人から言われた事を勘違いしちゃっただけだよね。本当は、海斗くんとも仲良くしたいんだよね?」
「……うん」
家族以外で、初めて女性に抱きしめられて、顔を赤くしているガキンチョ。
しかも、相手は美人で、とても包容力がある。
だって、めちゃくちゃ練習させたもん。
オスガキは、大体これで堕ちるからって、オスガキ人形を抱きしめる特訓を全員に課した。
その成果は、如何なく発揮されているらしく、今この瞬間、1人のオスガキの初恋がハントされた。
「お、おれはなかよくなんてしたくないもん!」
「海斗くん、そんな事言ったらだめだよ?ほら、海斗くんもこっちにきて」
「や、やめろよせんせい!だっこしないで!」
「どうして?」
「だって……はずかしいもん……」
「海斗くんが嫌ならもうしないけど、私に抱っこされるの嫌?」
「……いやじゃない……でもはずかしい」
「そっか!なら続けちゃう!」
「やーめーろーよー!」
あっちも墜ちたな。
一方女の子たちの方だけれど、こっちは男子とは全く違う教育を施す必要がある。
何故なら、どこまで行っても頭の中ガキンチョの男子と違って、女子は、割と早くから頭の中を大人の女にしたがっているからだ。
なので、彼女たちには、大人の女らしい教育を施してあげた方が喜ぶんだ。
「あのね皆、男子って言うのは、馬鹿なの」
「「「え!?」」」
「そう思ったことない?」
「ある!」
「いじめてくる!」
「でしょ?でもね、そういうのって大抵、女の子の事が好きなのに、素直になれないだけの馬鹿な行動なの」
「「「そうなの!?」」」
「うん。だからね、生暖かい目で見守ってあげようね」
「でも……」
「いたいことしてきたりもするし……」
「もちろん、嫌な事ばっかりするなら怒っていいんだよ?先生たちに言ってくれれば、ちゃんと助けてあげるから。その上で、男の子たちを手玉にとれるいい女になろうね」
「「「いいおんな!?なる!」」」
あっちはあっちで教育が進んでいるようで、中々いい感じだ。
差別意識を持たせた子供を送り込む?
ガンガンやってこいよ!
ちゃんと澄んだ目にして送り返してやるから!
「納豆はまだれす?」
「アルテミス、まだご飯の時間じゃないぞ」
「おなかすいたんれす」
「……1パックだけだぞ」
「はいれす!」
時間外にご飯を与えるなとゼルエルに俺が怒られた。
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