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保育所とは言え、俺の作った保育所は、あくまで私立。
もちろん、不当に高いお値段を要求したりするわけではない。
福祉の観点から作るものなので、そこは大丈夫。
じゃあ、なんで私立なのかといえば、公立の保育所だと、アルテミスを預ける要件が満たし難いからだ。
そもそも保育所とは、やむを得ない理由によって子供を保育してもらわねばならない保護者が子供を預けにくる場所だ。
つまり、使用人だのおじいちゃんおばあちゃんだのが暇しているような家だと、「お前んとこ別に預ける必要ねーじゃん!却下!」って判断がされがちなんだ。
元々募集人数が少ない所に、そんな特記事項まであっては、使用人が何十人も(まあ殆どが同一人物だったりするが)いる我が家の状況から考えるに、公立は難しい。
というわけで、そこら辺を多少自由にできるように私立にしたわけだ。
預けられる子供たちの条件をこちらが自由にしやすいようにルールを作ると言う事は、確かにアルテミスを預けるのには有効な手段だったと思う。
しかし、同時に他の仕事が増えてしまった。
それが、他の子供たちの入園の可否を決めるというとても重要で責任のある仕事だ。
自由には、責任が伴うとかなんとか、マンガとかアニメのヒーローが言っていた気がするけれど、面倒な話だなぁ……。
ちびっ子たちに試験を課すのは、たまに噂に聞く上流階級向けの保育所やら幼稚園じゃあるまいし避けたかったので、保護者同伴の面接によって決めることにした。
別に、難しい質問をするわけじゃ無い。
相手は子供だし、相当な問題児でもない限りは、入園を認めるつもりだった。
この面接、いずれは仙崎さんたちに丸投げしようとは思っているけれど、今回みたいに1000人規模で行うとなると、流石に丸投げするのも心苦しい。
というわけで、時間帯は放課後か休日に限定して、俺と仙崎さん、そしてアイたちで一生懸命対応しましたよえぇまあ。
アイが人数を稼いでくれたおかげで、数日で終わらせることができたんだけれど、その結果がなぁ……。
「……最近の子供っていうのは、あんなクソガキばっかりなんですかね?」
「クソガキだったねぇ……。親も相当だったけれども……」
曰く、「建物が安っぽい!」だの、「調度品が安っぽい!」だの、「平民が我が息子の保育をするとは何事か!?」だの、貴族連中があーだこーだと大騒ぎだった。
子供は子供で、「ボクはきぞくだぞ!」、「へいみんといっしょなんてイヤ!」、「う○こ……!」だのともう煩かった。
なら何でこんなとこに来てんだよ張ったおすぞって言いたくなったけれど、そこはそれ。
なんとか我慢してやり切りましたとも。
全ては、保育所の成功の為!
あと、トイレは早めに行っておけ。
「これも、貴族的な嫌がらせなんですかね?」
「だと思うけれど、随分な人数が動員されていることになってしまうんだよね。貴族の子息子女だけでも200人は申し込んできている。使用人などの平民層まで含めれば、更に多くの人員を投入していることになるけれど……」
「自分の子供をそんな事に使います?しかも、かなり無理に差別意識を植え付けられているような感じでしたよ?将来的にかなり心配ですよアレは。その内後ろから平民に刺されそうな奴等ばっかり」
「例え自分の子供だろうと、政争に使うのが貴族、って考え方の貴族もいるのさ」
「自分の親戚がそんな事言い出したら、問答無用で顔面に拳めり込ませますけどね」
まあ、そもそも去年まで平民として育ってきたうえ、前世もふっつーの一般市民だった俺が貴族の意識に100%の理解を示せる訳でも無いのは分かっているんだけれどもね。
それにしたって、子供を使ってまでネチネチと何をしたいんだか……。
そんな話を俺が仙崎さんに、週に1度の膝枕しながらヨシヨシしてあげるタイム中にしていると、できるAIのアイがお茶を持って部屋に入って来た。
「犀果様、ご報告が」
「どうした?さっきのガキンチョがうん○漏らしたとかだったら、出禁にするぞアイツ」
「いえ、それは問題なかったようです。それより、今回の事で裏で糸を引いている者が判明致しました」
「へぇ……。誰?」
「高田馬場で魔馬の繁殖を手掛ける大貴族の、松永侯爵家のようです」
「松永?茶釜に火薬詰めて自爆したりする?」
「そのような行為は確認できませんでした」
「そう……」
俺の前世の歴史知識は、大抵この世界だと役に立たないなぁ……。
「で、なんでその松永さんちがうちにチョッカイかけて来てんの?何か因縁とかあった?」
「いえ、単純にあちらが近年あまり功績を挙げられていないので、犀果様に嫉妬しているだけのようです」
「え?馬牧場って、普通に考えたら超重要で利権ゴリゴリの優良事業じゃないの?」
「魔道車が発展し、魔馬が必要な機会が減ってきているのが原因かと。魔物を間引く際には、心強い味方となる魔馬ですが、気性が荒い個体も多く、飼育も繁殖もとても費用がかかるため、最近だと余程の大貴族でもない限り数を揃えたりしないそうですので。このままですと、爵位が下げられるのでは……と不安になっている者もいるようですね」
「あぁ……。そういや、家にも気性の荒い馬いたなぁ……。魔熊とどつきあって喜んでるのが……」
舗装路だったら車で良いし、深い森の中だと馬だって中々入って行き難いだろうし、難しいよなぁ……。
昔、王様が開拓村に来た時みたいに、殆ど未舗装だけど開けた場所を行く分には、便利な存在ではあるんだろうけれど、餌代も掛かりそうだしなぁ……。
牛と違って反芻もしないから、家畜の中ではかなりエサ代がかさむ方のハズ。
「まさにその犀果様の家で現在お預かりしている白花が一番の問題のようですね」
「どういうことだ?」
「あの個体は元々、松永家一族が管理を任されている王家の牧場で生み出し、自信満々に有栖様の乗馬として送り出した渾身の1頭だったようなのですが、結局アレですので」
「アレかぁ……」
アレだもんな……。
「そう言うわけで、かなり犀果様の事を面白くないと感じているらしく、何とか脚を引っ張りたかった様子。長い付き合いの馬飼いの家の者たちに、それとなく犀果様の保育所に対して嫌がらせをするように圧力をかけていたようですね」
「馬関係の人たちって多いんだなぁ」
「新規参入が難しい業界ですから、どうしても一族経営になるようです。もっとも、そのせいで転職が難しく、時代の流れに置いて行かれかけているのでしょうが」
「ほんと、世知辛いなぁ……」
何とか自分たちなりに時代に合わせて行けたらいいんだろうけれど、それが出来なくて、逆に周りに対してデバフをばら撒き始めた感じかね?
嫌だなぁ……。
「どう対処いたしましょうか?松永家と関係が深いと思われる家庭の子供は、全員面接試験で弾いたことにいたしますか?」
「うーん……」
「私としては、その方が平和になりそうな気はするけどねぇ。ただ、相手もこちらがそういう手に出るであろうことは予想しているだろうし、『子供たちをえり好みして落として回る不届きな保育所』だのと悪評でもばら撒く積もりかもね。まあ、大試君からしたら痛くもかゆくもないだろうけれど」
「そうなんですよねぇ……。アルテミスを預けられて、保育所を作ったって実績さえあればねぇ……」
面倒だから、本当にそいつら落としてやろうかなぁ?
「逆にそれを警戒して子供たちを受け入れられたとしても、その時はその時で、問題児に仕立て上げられた子供たちによって色々面倒な事を起こさせるつもりかもしれないね」
「嫌だなぁ……」
……いや、待てよ?
よく考えたら、これって逆にチャンスなんじゃないか?
「アイ、仙崎さん、松永家関係の子供たちも、特別問題が無い限り受け入れちゃいましょう」
「畏まりました。犀果様がそう仰るのであれば、私は従います」
「良いのかい?どちらにせよ面倒は起きるだろうけれど、1000人規模の問題児予備軍を預かる方がきっとリスク高いよ?」
「確かにそうかもしれませんが、クソガキ達だからこそ必要だと思うんですよ」
「何がだい?」
俺は、清々しい笑顔で答えた。
「情操教育、って奴が」
皆!5歳で優等生と呼ばれるようになろう!
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