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「園長……ですかねぇ……」
「園長ですか」
「こればっかりは、経験のない方々だと大変かと……」
王様に、「保育所に詳しい人いたら紹介してくれないです?」って聞いたら、王城の中にあるこども課に話をつけてくれて、そこの課長さんとアポイントがとれた。
因みに、『子供』ではなく『こども』らしい。
漢字じゃない辺りが、面倒な立場である事を臭わせる。
王城こども課は、一般の客が来るような場所ではなく、日本中に存在する役所のこども課の取りまとめをする部署らしい。
言わば、日本のこども課のボスだ。
あんまりカッコ良くは聞こえないな?
まあ、その上にも沢山の課を纏めるオバサンとか、そのオバサンたちを纏めるオッサンとかもいるんだろうが。
「自治体や、我々王都こども課とのやり取りは、基本的に園長、もしくは施設長と呼ばれる保育所のトップが行うことになっています。ですから、ある程度そう言う事に慣れた方じゃなければ厳しいと思います。大抵は、引退された学校の教師の方や、役所で管理職になった方の再雇用先となる場合が多いですね」
「天下り……ってヤツです?」
「そう言うと聞こえが悪いですが、そう思って頂いて構いません。ただ、そもそもあまり人気がある職ではありませんので、定年退職後の再雇用の職員であり、賃金を安くできるそれらの方々は、雇う側からしてもありがたいんですよ」
「あー、世知辛いですねぇ……」
「自治体が運営する保育所の職員となりますと、基本的には公務員ですので、国民の皆様から頂いた税金を無駄にしないためにも、節約できるところは節約しようというのが我々のスタンスですからね。私立の保育所の場合は、その限りではありませんが」
公務員がホワイト職と呼ばれていたのも今は昔。
俺の前世でも、地方の公務員ともなると、中々ブラックな場所も多かったと聞く。
残業代は出ないわ、その分振替休暇を請求しろと言われてもそんな余裕が無いから残業してるんだわとか、ネットでは散々な事を言われていたなぁ……。
国政選挙で選挙管理委員会の仕事が入ると、残業代が全部出るから美味しいとかなんとか。
まあ、それでも経済的には安定していたんだろうけれど。
「更に申し上げますと、職員の人事、保護者の方々からのクレーム対応、休日のイベント参加、職員への指導など、やる事が多く責任も重大なので、意外と人気が無いんですよね……」
「へぇ。なんとか長って呼ばれる役職って、人気なのかの思ってました」
「保育士からのステップアップで園長になる方が少なく、全く新しい分野でのチャレンジになる場合が多いので、疲れてしまったり、心を病んだりすることも多いですから……」
「夢が無いですね」
「無いですね。間違いなく」
その他にも、昼食を作るための設備と調理師が必要だとか、万全を期すのであれば保険医もいた方が良いとか、色々な事を教えてもらった。
流石は、日本のこども課のボス!
助かったぜぇ……。
「犀果様が保育所を新設して頂けるのでしたら、我々としても大喜びです。どれだけ作っても、まだまだ足りていない状況ですから。毎日、保育所に子供を預けたくても預けられない保護者の方々から、呪いの電話を頂いているので……」
「……お大事に」
「ありがとうございます」
最後にそう言うやり取りをして、こども課ボスとは別れた。
メガネの下に見える濃い隈が印象的な人だったなぁ……。
でも、園長かぁ。
ある程度お堅い人たちとの話し合いが出来る人ってなると、この国のシステム的には、やっぱりある程度偉い貴族じゃないと厳しいかな?
それでいて、できれば俺の知り合いが良いなぁ……。
よく知らん奴に園長を任せたら、貴族連中の言うとおりに保育所に金出してたのと変わらんし。
うーん……。
爵位が上の方の貴族家出身で、今暇してて、頭が良くて、俺の頼みを聞いてくれそうな人かぁ……。
できれば美人って条件も追加したいけれど、そもそもそんな都合のいい相手なんて……。
「…………そういえば、うちに暇そうにしている人いたわ」
俺は、ある人の事を思い出していた。
その人は、美人だし、頭いいし、金持ちだし、子供の事も好きという完璧な女性だ。
そして、今ちゃんとした仕事をしていない。
肩書的には、社長とか色々もってるのに、実際の仕事はあんまりせず引きこもっていることが多い。
つまり、面倒な仕事を押し付けても大丈夫な状態にある訳だ。
俺は、テレポートゲートで家へと戻り、その女性の部屋のドアをノックする。
「………………はぁい………?」
「大試です。入っても良いですか?」
「………え?………だめぇ……」
構わずマスターキーで鍵を開けて中へと入った。
「うぁ……大試君……乱暴だねぇ……」
「………せめて、昼前に起きませんか?」
「昨日……寝たのが朝の4時でねぇ…………」
「それもう今日でしょ……」
そこで俺のジャージを勝手にパクって布団にくるまりながら、何度目かの眠りに就こうとしていたのは、仙崎さんだった。
とりあえず、パンツとブラジャーをそこら辺に投げ捨てておくのは止めてくれねぇかな……。
でっか……。
「それで仙崎さん。ちょっと保育所の園長になってもらっていいですか?」
「…………ほいくしょぉ……?何いっているんだい……?」
「この契約書にサインしてくれれば、今日からあなたは保育所のボスです」
「ん~……よくわからないけれど……大試くんのたのみならサインするよぉ……」
まだ寝ぼけているのを良い事に好き勝手をする俺。
くくく……もう二度とこんな不規則な生活ができねぇようにしてやるからなぁ!
悪い笑顔を浮かべながら、俺は、仙崎さんの部屋の中を掃除し始めた。
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