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「そんな事になってたんだ……」
「はい……すみません……」
「え!?別にいいの!寧ろ、ゼルエルの事が好きなのは事実だし、同性の私たち2人の赤ちゃんなんて諦めてたから嬉しいんだけど……」
「けど……?」
「……私がゼルエルとのチューの間に、舌を入れてた事まで大試君にバレてるのがちょっと恥ずかしかっただけで……」
「すみません……」
ゼルエルとの会合が終わった後、俺はもう1人協力を取り付けなければいけない人物に会っていた。
無論、転生聖女のアンナさんだ。
「それに、あんなに嬉しそうなゼルエルに、想像妊娠だったなんて言うのは、確かに辛いよね……」
「はい……。俺のガラスのハートでは無理でした……」
「私もできれば避けたいかな……。最近、やけに大人びた優しい顔でお腹を触ってるから、一体どうしたんだろうとは思ってたんだけど……」
「すみません……」
痛い……。
心が痛い……。
でも俺は嘘を現実にするんだ!
目の前で決壊するような号泣なんてされたくないもん!
「お詫びと言っては何なんですが、2人のその……子作りチューのために、イベントを企画しようかと思ってるんですよ」
「子作りチューって……。そっか……私、ゼルエルと赤ちゃん作るんだよね……。ふふふ……。でも、イベントって?」
「そりゃ、チューといえば、アレでしょう?奇麗なドレスを着て、ヴァージンロードを歩いて……」
「……え?まさか!?」
「そう!」
「「結婚式!」」
そうだ!
泣かせないように幸せにしちゃえばいいんだ!
さすれば、俺の心の傷も癒える!
多分!
そして、恋人たちの幸せなイベントといえば結婚式!
多分!
俺も結婚したこと無いから分からんけど!
「でも、そんなに責任感じることも無いのに……。私たちは、あくまで貴方の善意で生かされているだけなんだから」
「確かに元々はそうだったかもしれませんが、ちゃんと真面目に役目を熟しているアンナさんとゼルエルに俺はちゃんと好感を持っていますし、これからも頑張ってもらうために福利厚生はしっかりしておきたいんです。費用全部持つので、希望する内容を考えておいてください。その分、保育所作る方で協力してもらいますから、覚悟してくださいね?」
「そう言って頂けるなら、私も甘えさせてもらいます!えっと、ゼルエルは、背中に翼があるし、背中側が大胆に開いたドレスが良いと思うんです!あと、清楚な雰囲気なのに、歩くとスリットが開いて妖艶な印象が出てくるのもいいなぁ……。でもでも、他の人にゼルエルのそんなえっちな所を見られるのはちょっと嫌かも……?あー、それと同時に『私のゼルエル奇麗でしょ!?』って自慢もしたいなぁ!どうしようどうしよう!?悩んじゃう!それに、流石に公に子作りしているって教えるわけじゃ無くても、皆の前でチューしちゃうんだよね!?うー!恥ずかしい!しかも、実際には子作り行為!つまり交尾!うぅぅ!ゼルエルぅ……ちゅきぃ…………」
何かがトリガーになったようで、軽く目が逝った状態で早口で話し始めたアンナさん。
途中から俺がいることも忘れてあーだこーだと言い続けているので、とりあえず用事は済んだという判断をして部屋をソローっと脱出した。
これで、多少は俺のメンタルリカバリーもできたな。
何にも知らない状態でアンナさんと子作りさせるわけにもいかないし、何よりお互いに求めていないと子供ができないみたいだし、最低限の準備が整ったわけだ。
それにしても、まさかこんな展開になるとは……。
俺はただ、俺に敵対的な貴族に邪魔されずに、保育所を作りたかっただけなのに……。
保育所作るのって大変なんだなぁ……。
そりゃ、数も増えねぇよ……。
今既に出来ている保育所を作った人たちって、どれだけの苦労を味わったんだろう……。
尊敬するぜ……。
さてと、結婚式かぁ。
突発的に思いついたからそう言ったけれど、現時点では、まだそっちはほぼノープランなんだよなぁ。
アンナさんとゼルエルから希望を聞くのはもちろんだけれど、その前にある程度下準備はしておかないとな。
一番重要なのは、会場か?
結婚式の会場……。
神前式なら、たぬきたちの神社があるから問題ないな。
だけど、チューする結婚式ってなると、やっぱりチャペルでやるタイプだよな?
学園の廃教会は、テレポートゲートもあるからあまり大っぴらなイベントごとに使いたくないし……。
他に教会っぽい施設かぁ……。
教会といえば、宗教の方の教会に協力してもらうか?
いやぁ、ゼルエルとアンナをつれてあの教皇がいる場所に行くのはちょっとなぁ……。
あ、じゃあ聖羅に何か良い案が無いか聞いてみるか!
教会が最重要視する人物である聖女聖羅!
俺の婚約者!
絶対に何か良い案を考えてくれる!
さす聖!
俺は、家で今日もテレビ見ながら煎餅齧っているであろう美少女の元へと向かった。
「それなら、シスターたちの所に行く?」
「シスター?誰だ?」
「教会から離れて私たちの所にきた女の人たち」
「あー、いたね女性騎士の皆さん」
最近あんまり会ってないけど、あの人たちはあの人たちでウチの敷地内に建物を作って暮らしてもらってたはず。
流石に元の教会に戻るのは難しいし。
ってか、聖羅も一応建前的には、そこの寮に住んでいることになっている筈なんだけれど、毎日こっちで生活しているんだよなぁ。
だから、彼女たちに会う機会も少ないのかもしれない。
あれ?じゃあ、あの人たち普段何やってんだ?
聖羅の護衛として仕事してたはずだよな?
「今あの人たち何やってんだ?聖羅と一緒にいる所あんまり見ないが」
「私が催し物に行くときには、今まで通り護衛として一緒に来てくれてる。でも普段は」
そこまで言って、聖羅は何かを思い出したのか、部屋の隅に置いてあった雑誌の束から一冊引っ張り出してきた。
『ザ・ロック 8月号』と書かれていて、表紙にはギターを掻き鳴らす男が載っているので、どうやら音楽雑誌らしい。
聖羅は、その雑誌をパラパラとめくり、あるページを開いて俺に見せてきた。
そこに乗っていたのは、修道女姿で楽器を演奏する女性たちと、同じく修道女姿でダンスしながら歌っているらしい女性たちの姿が。
「音楽活動してる」
「何してんだあの人ら」
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