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「話は分かった。つまり、ヴァルキュリアの中から希望者を募り、保育士という子供たちの面倒を見る職に就きたい者を派遣すれば良いのだな?」
「そう言う事。この前、小学生たちのお世話係として一時的に何人か雇ったけど、結構感触も良かったし、子供相手の仕事に就きたい人いないかなって思ったんだよ。保育士には資格が必要だけど、それに関しては、1週間ほどのカリキュラムで基本を詰め込めば発行してもらえる手筈になってるんだ。ちょっと無理やりだけど、その位保育所不足が切迫してるんだってさ」
「そうか……」
俺は、以前クソ集団であるヨーロッパにあったクソ国家の教会から救い出した女性たちが住まう寮へと来ている。
1000人程保護していたこの場所だけれど、堕天使ゼルエルと転生聖女アンナによって組織されたこの部隊、世界中の腐敗した教会組織に殴り込みをかけるヴァルキュリアという武装集団としての活動が粗方完了し、今後は新たなクソ集団が湧いて出てこないように睨みを利かせ警戒をするだけという状態まで落ち着き、尚且つ自分の新しい人生を始めようという決意を持った女性たちが結構離脱しているため、現在では、300人ほどが残るだけになっている。
離脱した方々は、俺とは無関係の一般の仕事に就いている方もいれば、白川郷リゾートで生計を立てるようになった方もいる。
彼女たちの今後の人生の為にも、前向きに新たな人生をスタートするのは、とてもいいことだ。
というわけで、更に手に職を付けるためにも、保育士としてリクルートできないかなと交渉に来ている訳だ。
そもそも保育所とは何か?
幼稚園と何が違うのか?
まず、幼稚園というのは、小学校に入学する前の子供たちに学習をさせるための施設だ。
なので、昼過ぎには終わる。
管轄的にも、小学校や中学校と同じような扱いになっているらしい。
勿論義務教育でもないし、預けられる子供たちは、昼過ぎに保護者に引き渡されるので、フルタイムで働くような人には利用しにくい施設だ。
それと比べて保育所はというと、こっちは小学校入学前の子供たちを保育、つまり預かるための福祉施設だ。
預かる時間も、朝の9時頃から夕方5時辺りまでというのを基本に、24時間預かる所もある。
女性の社会進出を促進するためにも重要であるとされていて、大き目の企業だと、独自の保育所を用意している所まであるそうだ。
中には、幼稚園なのに保育所としての機能も兼ね備えた認定こども園なんてのもあったりするけれど、子供に学ばせるための場所が幼稚園で、保育するための場所が保育園と考えればいい。
そんな訳で、社会福祉の為にも無いと困るんだよ。
ウチのアルテミスを預けたいし。
「というわけでゼルエル、残ってるヴァルキュリアの方々に声掛けお願いできるか?」
「承知した。我も、彼女たちの未来のために協力する事に異論は無い」
このヤサグレ堕天使も、アンナさんと仲良く暮らしているせいか、大分丸くなったなぁ……。
どんだけ丸くなっても、今後一生治安維持組織ヴァルキュリアとして活動してもらうけどな?
話がスムーズまとまって、よかったよかったと応接室のソファーから立ち上がろうとした俺。
だけど、そこでゼルエルに待ったをかけられた。
「すまない、我も其方に相談があるのだ」
「ゼルエルが相談?なんだ?」
「その……非常に聞きにくい事なんだが……」
聞こうとしたのはゼルエルの方なのに、そこから目が泳いだり、チラチラとこちらを見たり、落ち着きが無くなった。
本当に聞きにくい事らしい。
「なんだ?よっぽどの事が無い限り、真面目に聞くぞ?」
「う……うむ……いや、実はよっぽどの事なんだがな……」
「ゼルエルが言うよっぽどの事って何だよ?怖くなってきたわ……」
「我も怖くてな……何分、長年生きてきて初めての事ゆえ……」
そして、深呼吸をしてから目をカッと開き、決心をつけたように話し始めた。
「……そのな……アレが来ないのだ……」
「アレ?」
「アレは……アレだ……」
「いや、アレって言われてもわからないが……」
「女がアレといえば、アレに決まってるだろう!?」
「女のアレ……え!?もしかして、アレか!?」
「恐らくそのアレだ!」
それってつまり、月に1度くらいの頻度で来る女の子の調子が悪くなる日的な?
「待て……。ゼルエルに……っていうか、天使に、アレって来るのか?」
「いや、本来は来ないと思うのだが……。我は、堕天しているからな……。他に堕天使の知り合いもおらず、相談もできん……」
「うーん……」
となると、相手は誰だって事になる。
ヴァルキュリアに男性は1人もいないし、少なくとも俺は、ゼルエルが男と仲良くしている所なんて見たことが無い。
本人は、そりゃもう美女だから、ゼルエル自身が求めればいくらでも男なんて寄ってくるだろうけれど、俺の知る限りだとゼルエルはアンナと百合百合ってるイメージしか無いんだが……?
まあ、アレって、ホルモンバランスの変化とかでも止まっちゃうことがあるっていうし、何とも言えんが……。
「その、ゼルエルのお腹の子の親の可能性があるのって、誰なんだ?」
「そんなの、アンナしかいないだろう」
「いや、アンナさんではないと思うんだけど……」
「何故だ?」
「だって、アンナさんって女性じゃん……?」
「そうだ。そして、2週間ほど前に、とうとう我らは結ばれてな……。初めてチューをしたのだ……」
「チューを……そう……あ?チューを?」
「そうだが?」
「チューで妊娠したのか?」
「だからそうだと言っているだろう?何の確認だ?」
ごめん、俺は何を確認したらいいんだ?
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