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585:

「前田はなこちゃーん?」

「はーい!」

「鈴木たろうくーん?」

「はいはいはいー!」

「はいは、一回でいいですよー!最後に、犀果アルテミスちゃーん?」

「あいれす!」


 小さな子供たちが、保育士のお姉さんに笑顔で手を上げ返事をしている。

 説明するまでも無いかもしれないけれど、ここは保育所だ。


 まあ、保育所だって事はともかく、何でこんな所で月の上級AI様がニッコニコで手を上げて返事をしているのかとか、それを俺が優しい笑顔で眺めているのかとかは説明が必要だと思う。


 あ、ちょっと5秒くらい待って。

 うちの娘……じゃなかった、アルテミスがえへへって笑ってるシーンを堪能したいから。


 切っ掛けは、アイの一言だった。




「ダメですねコレは」


 ふぅぅ……という深いため息とともに出たその言葉は、アイにしては珍しく、いつもの無表情が崩れて苦々しさを感じさせるしかめっ面とセットだった。


「何がだ?」

「ソレです」

「ソレ?」

「犀果様の膝に座って、モッチャモッチャとご飯を食べているAIです」

「私れす?」


 今、俺の膝の上にいるのは、アルテミスしかいない訳だが……。


「うちの娘に限ってダメな事なんてありはしないと思うが?」

「犀果様、気が付いていますか?」

「何を?」

「アルテミスは、アナタの娘ではありません」

「…………は!?」


 そうだった!

 こいつは、AIがアバターとして肉体を生成し、誕生した人口生命体だった!

 いつのまにか、存在しない記憶で娘だと思い込んでたわ……。


「まあいいか」


 まあいいや。

 可愛いし。


「ですから、よくありません」

「何故だ?」

「その位の普通の人間の子供であれば、そろそろ1人で食事位できるようにならなければいけない年齢のはず。それを犀果様は邪魔しているのです。過保護が過ぎると、それは逆に虐待になってしまうんです」

「なん……だと!?」


 俺は、はっとした。


「それはまずい!どうしたらいい!?」

「アルテミスを保育所、もしくは、幼稚園にでも入れてみるのは如何でしょう?日中、犀果様たちが学園に通っている間にお世話を引き受けてもらうためにも、教育の観点からも、その方が良いと考えます。アルテミスは、肉体に引っ張られて精神年齢がかなり下がっているようですから、育て直す必要がありそうですので」

「成程……」


 確かにそれがいいかもしれない。

 一緒にいると、ついつい甘やかしてしまうからな……。


「アルテミス、幼稚園か保育所に通ってもらおうと思ってるけど、大丈夫か?」

「わかんないれす。れも、きっと大丈夫れす!」

「見ろアイ!ウチの娘、めっちゃ良い子だぞ!」

「犀果様、気が付いていますか?」

「何を?」

「アルテミスは、アナタの娘ではありません」

「…………は!?」



 まあ、そんなこんなで、すぐに入れる保育所や幼稚園を探したんだけれど、前世と一緒で、今世でも保育機関は余裕が無い状態だったようで、全く見つからなかった。

 一応俺も貴族家の端くれに位置する人間になったんだから、権力を笠に着て交渉すれば行けるかもしれないけれど、そんな事はしたくない。

 俺は、モンスターペアレントになんて絶対にならないぞ!

 ああいうのになると、本人じゃ無くて子供の方に色んなしわ寄せが来るんだ!

 ウチの子にそんな悲しい思いをさせるつもりはない!


「犀果様、気が付いていますか?」

「何を?」


 難航する事1週間ほど。

 一向に見つからない保育所や幼稚園にイライラしていたある日、王城から呼び出しがあった。

 もういい加減勝手知ったるなんとやらのようにやって来ている城の中。

 王様との謁見は、謁見用の場所でやられていたのに、今となっては大抵王様の私室で行われている。

 なんでかって?

「おう!お前との話し合いに堅苦しさなんていらんだろ!」

 というありがたい鶴の一声でそうなった。

 多分、王様自身がめんどくさくなっただけだと思う。


「なんで呼び出されたんですか?ちょっと今、用事があって忙しかったんですけど」

「まあそう言うな!」


 そうは言うがな……。

 保育所も幼稚園も、空きが出たら早いもん勝ちなんだよ!


「最近、王都は深刻な保育所不足になっている事は知っているか!?」

「知っていますよ。身をもって」

「身をもって?まあいい!話を続けるが、そこで貴族たちが金を出し合って、保育所を作る事に決まった!そこにお前も出資してほしいという話が来ていてな!お前に直接言う勇気が無いものだから、俺を通してというのが実に姑息だ!自分たちのせいで、お前への褒賞が満足に渡っていないというのに!」

「あー、お金は払わないけど、お前はお金を出せと」


 俺は、結構な頻度で面倒な事に巻き込まれる。

 そして、その度に普通の貴族なら一生に1度あるかないかというくらいの成果を出すから、国からの褒美は、試算するだけで相当なものになってしまう。

 だから、一部の貴族が渋って騒ぐせいで、王様の提案する褒美が俺にそのままやってくることはまずない。

 特に、金銭面では。


 だから、何かお金ではなく、替わりになる物で褒美貰えないかなとツケにしているわけだけれど、その面倒な事態を起こしている奴らが、更に俺に面倒を持ってきたというわけか。


「とりあえず、その恥知らずな奴らの資産が、これから謎の大暴落で1割程消し飛ぶという予定を立てておくとして……。金を出せって、具体的にはどのくらいですか?」

「貴族家の儲けに応じて、ということらしいから相当な額だぞ!お前儲けているだろ!」

「えぇまあ……。俺がいなくても、勝手に家のメイドたちがモリモリ稼いでくるんですよね……」


 天然資源、観光資源、ダンジョン資源、どれか一つに絞らず、とにかくあらゆるもので利益を上げようとしているAIメイドたち。

 アイは、最近不動産にまで手を出し始め。

 ピリカは、エルフの集落で培われた出版能力をフルに使って、年齢制限がちょっとある本を出す出版社を作って荒稼ぎをしているらしい。

 「ガチエロだけじゃなく小学生でも買える程度の描写でフェチに全振りするのがコツなのです」とか言っていた。

 意外な事に、一番堅実に儲けているのがイチゴだ。

 新品種の苺を完全自動化された工場で量産していて、全国各地に出荷しているんだとか。

 これを毎日食べるのが貴族のステータスなんていう風潮もあるらしいよ?

 その風潮、ネットで作り上げたのもイチゴなんだけども。


 勿論俺は俺で、魔石とかガンガン集めているし、アイドル事務所も、白川郷リゾートも儲けに儲けていてとても楽しい。

 お金を稼ぐのって楽しいなぁ!


 問題は、逆に使い方があまり思いつかなくて、皆がお金を稼ぐのに必要な出資にばっかり回している事かな……。

 だって、俺が私生活で最大限に贅沢したとしても、1食2000GP行かないし……。

 なんなら、普段は外食するとしても1食1000GPくらいだし……。


「うーん……」

「不服か?別に断っても良いぞ!その位お前はこの国に貢献しているからな!」

「いや、うーん……」


 確かに、払うもの払ってもらってない状況で、こっちばかりが払う筋合いは無いだろうとは思う。

 それに何より、俺が渡した金を俺の家族でもなんでもない奴らに好き勝手に使われるのは非常に不愉快だ。

 かといって、保育所や幼稚園が足りないというのも事実。

 だから、困る……。

 俺も娘がいる親の立場として、そんな人々の事を知らんぷりなんてできない……。


「あ、閃いた」

「何をだ!」

「保育所、作ろうかなって」

「そうか!頑張れ!」


 頑張るぞ!







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