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「はぁ……私はとうとう大人の階段を上ってしまいました……」

「すっきりした顔で変な事を堂々と言い放つな」


 映画館でクソ映画を堪能して劇場を出た瞬間、彩音が変な意味で取られかねない事を言い放つものだから焦った。

 その階段は、俺だってまだ上ってないぞ!


「さて、この後は何か希望はあるか?なければ、元々映画の前に行こうと思ってたカフェにでも行こうと思ってんだけど。女子高生に人気あるらしいぞ」

「カフェ……トール……ふふふっ」

「まだ引っ張るのかそれ……?」

「だって……ふふふっ!」


 随分とツボに入ったらしい。

 失礼な話だ!

 笑顔が可愛いから許すが。


 そのまま映画館を出て、とりあえず俺が事前に調べていたカフェへと向かう。

 途中に、何か気になる場所があったら入ってみようと決めて。


「あれも気になっているんですよね、カラオケ」

「カラオケかぁ……。まあ、陽キャしか許されないようなイメージがあるよな」

「はい、私からすると、魔境です」

「でもな……実は、カラオケはそこまで陽キャしかいないわけじゃ無い!」

「そうなんですか!?」

「1人カラオケって聞いたこと無いか?」

「無いです」

「文字通り1人でカラオケに行く事なんだけどな、これが中々良いんだ」

「犀果先輩もご経験が?」

「ある。複数人で行くカラオケと違って、1人カラオケは、自分の好きな曲を好きに歌えるんだ」

「カラオケって、そう言う物ではないんですか?」

「本来はそうなんだろうけれど、実際に何かのイベントの打ち上げとかで連れていかれたら、自分の歌いたい曲を他の奴らがどう思うかとか、俺の歌は果たして鑑賞に堪えうるものなんだろうかとか、そういう事が気になって中々楽しめなくてな……」

「地獄ですね……」

「それに比べて1人カラオケは、他人にどう思われるかを考える必要も無いから、歌いたい曲を歌いたいように歌いまくれる。アニメの曲でも、男が女ボーカルの曲を熱唱しても、誰にも文句を言われないんだ」

「それは、気持ちが良さそうですね」

「ただ……歌うのが自分1人であるにもかかわらず、常に演奏が掛かっている状態にしないともったいない気がしちゃって、ドリンクバーに行くのも躊躇ったり、歌っている間に頑張って次曲をいれたり、短いスパンで歌を続けるせいで喉に負担が掛かったりと、大変な面もあるんだけれど、それでも気持ちがいいぞ!」

「へぇ……そうなんですね……。1人カラオケに慣れているっぽい犀果先輩に安心します……」


 うん、こいつ、大分遠慮が無くなって来たな……。

 可愛いから許すが。


 そんな風に、気分良く話していたせいか、前から俺達に興味ありげに近づいてくる存在に気が付くのが遅れてしまった。

 早めに気が付いていたら俺と彩音は、打ち合わせも無しに即行方向転換して離脱していただろうに……。


「すみません、そこのカップルの方、少し宜しいでしょうか?」


 カメラを持った女性がそう話しかけてきた。


「えっ……?」

「なんですか?」


 ビクッとする彩音と、知らん奴に話しかけられてちょっとイラっとする俺。

 コミュ障舐めてっと痛い目見るぞ?

 街中でもお構いなしで走って逃げるからな?


「私、Storyeetストリートという雑誌の記者をしている柴田と申します。これ、名刺です」

「これはどうもご丁寧にワン。僕は……じゃなかった」

「ワン?」

「先輩、ワンって……」

「何でもない。俺達は、名刺とか持ってないんで交換できませんよ?」


 危なく普通に名刺交換をするところだった。

 くっ……!あの着ぐるみが精神のどこかに住み着いている気がして嫌だ!


「実は、お2人にお声を掛けさせていただいたのは、是非Storyeetにお2人の写真を載せさせて頂けないかと思いまして、こうしてお願いしにきたんです」

「俺たちの写真を?」

「何故?」


 あのクソ映画を金払って観た数少ない馬鹿とかそういう記事か?


「お2人の楽し気な様子を見て、これはもう交渉して雑誌に載せないと世界の損失だ!と私の直感が言っているんですよ!」

「えぇ……?」


 直感って言われてもな……。


「そもそも、そのStoryeetって雑誌は、何の雑誌なんですか?超常現象とかのアレ?」

「先輩、超常現象の雑誌なんてあるんですか?」

「あるぞ。アレが滅びずに続いているのが最大の超常現象だと俺は思ってる」

「へぇ……」

「えーと、お2人は、Storyeetをご存知ないんでしょうか……?割と有名だと自負していたんですが……」

「「知りません」」


 雑誌とか読まなないし。

 漫画雑誌がギリギリかな。

 それだってたまに間が空いて買い続ける意欲が消えたりするし……。


「Storyeetは、日本で最も有名なファッション雑誌の1つです。よくテレビでも取り上げられますし、有名な女優さんやタレントさんたちがモデルをすることもあるんですよ」

「「へぇ」」


 俺と彩音の態度から、その手の雑誌に一切興味が無い事を察したらしい柴田さん。

 咳払いをしてから、本題へと話を戻した。


「Storyeetには、創刊当初から続いている『Storyeeter』という人気コーナーがありまして、街頭で見つけたオシャレな素人の方にお願いして写真を撮らせてもらい、掲載しているんです。今回は、そこにお2人の写真を使わせて頂けないかとお願いしたかったんです」

「「へぇ」」


 オシャレさん?

 まあ、婚約者を始めとした家族に服を選ばれている俺がオシャレさんに該当するのかという問題はあるけれど、少なくとも横にいる彩音は、まごうこと無き美少女にして、先ほどプロのファッション関係の人たちに服を選ばれてたから、確かにファッション関係の記者からみてもオシャレさんに見えてもおかしくないわな。


「どうする?」

「私は別に……」

「彩音がいいなら、まあいいか。いいですよ、載せてもらっても」

「そうですか!?ありがとうございます!お似合いのカップルの写真は人気が出るんですよー!」


 ん?


「そういや、何か誤解しているみたいですけど、俺達別にカップルじゃないですよ?」

「友達です」

「えぇ!?あんなにラブラブな感じだったのに!?」

「ラブラブな感じ……?」

「1人カラオケの話ならしていましたが……」

「1人カラオケ!?何故!?」

「その前は、ビックリするくらいのクソ映画を観てきた所ですし」

「カップルみたいな感じありましたかね?」

「クソ映画って、何を見てきたんですか?確かに恋愛映画は、私から見てもクソだと思うようなモノも多いですが……」

「「寄生中」」

「あの世紀のクソ映画を!?」


 柴田記者は、現在出版業界では、『寄生中』のあまりの酷さがとても話題になっているらしい。

 そういうの俺たちに教えていいのかね?ってレベルで。


「それにしても、寄生中ですか……」

「あ、じゃあ俺たちの写真のアオリにこういうのどうですか?」

「ほうほう、いいですね……。逆に話題になるかも……」


 そんなこんなで、俺達は慣れないファッションモデルの真似事を柴田記者の指導の下行い、多少のギャラを貰ってからカフェへと向かった。

 あまりにオシャレな雰囲気が強すぎて、俺も彩音も場違い感に苛まれたり、そんな店で彩音が注文したのがずんだ餅だったり、色々とあったけれど、とりあえず2人とも楽しめたっぽいので良かった良かった。


「犀果先輩、送ってもらってありがとうございました。今日、本当に楽しかったです!」

「それならよかった。今度は、クラスメイトの女子でも誘ってみたらいいと思うぞ」

「善処します……」


 無理だなこれ。


「ではまた今度!」

「おう、おやすみー」


 寮へと彩音を送り、廃教会のテレポートゲートから俺も家へと帰る。

 そして今日あった出来事を聖羅たちに話しながら、楽しくその日は過ぎて行った。



 その少し後、ファッション雑誌『Storyeet』に、見開きで記事が載った。

「寄生中(クソ映画)観てきた!」

 という煽り文に飾られた俺と彩音。

 俺に関しては、ぶっちゃけそこまで注目は強くなかったらしい。

 ファッション自体は、うちの家族が選んでくれたやつだから褒められてたみたいだけど、中身の俺が地味な見た目だからなぁ……。

 問題は、超美少女の彩音と、その彩音の着ているファッション。

 それらによって、ビックリするほどプラネルのブームが起きたり、1人カラオケが流行って規制されたり、あまりにひどいと言われたせいで逆に寄生中の酷さを体験してみたいと観客がビックリするくらい増えたりと、社会現象が巻き起こったらしいのだが、それはまた別の話。






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ベルトを叩いて装着!と叫ぶと頭だけピーポー君が空から現れて合体しないのかワン?
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