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 この道に入って30年。

 私は、様々な女性たちを彩って来たわ。

 服屋をやっていた母の元に産まれた私達は、自然と自分もその手の職についていた。


 母は、オーダーメイドで服を作る職人。

 デザイナーとしては、正直微妙というか、お年寄り向けの服しか作れない人だ。

 ただ、あの人のすごい所は、型紙も無しに立体裁断で服を作る事だ。

 ハッキリ言ってアレは、天才のそれだと思う。

 しかも、お客様の要望を聞いただけで、それを目立たないように即組み込む腕は、娘の私たちから見ても神業としか言いようがない。

 それだけならともかく、あの人は、ドレス1着を1人で1時間もあれば作り上げる。

 そんな職人、日本全国どこを探しても、まずいないだろう。

 いたら、人外の領域に踏み込んでいるもの。


 服飾の仕事に進んだ私達姉妹、長女の姉と、次女の私、三女の妹は、それぞれ別々の道へ進んだ。

 長女の姉は、姉妹の中で自分が一番才能が無い事を早々に自覚していたらしい。

 だからあの人は、人に服を作らせることにした。

 それも、貴族相手ではなく、一般の女性たちをメインターゲットにして、お手頃でオシャレな服を提供するチェーン店を企業。

 ファッションセンターしめさば、それが姉の会社。

 才能が無いと言いながら、家の家族の中で一番儲けているのは、間違いなくあの人よ。


 三女の妹は、母の仕事を手伝いながら、いつか母の店を継ぐつもりらしい。

 その為には、立体裁断を型紙無しでササっと行える技術が必要なので、今でも毎日訓練の日々のようだ。

 大変ではあるけれど、毎日が充実して楽しいと言っていた。


 そして次女の私。

 私は、母のような裁縫技術も、姉のような経営の能力も、妹のような根気も無い。

 それでも、デザインという唯一無二の才能が有った。


 デザイナーとして、私はこの国でトップに立っている。

 まあ、人によって評価はばらけるので、トップとされる人間もまた複数いるけれど。


 私は、私のデザインした服を売るお店を作った。

『プラネル』、そう名付けたブランドは、今の日本で最も人気のあるブランド。

 これもまた、トップが幾つかあるのだけれど……。

 ちょっと背伸びをしたい女の子から裕福な女性まで、プレゼントされて一番喜ばれる確率が高いブランドとは言われている。

 基本的にはレディメイドだけれど、依頼があれば1点物のオーダーメイドも受け付けている。

 服も靴もカバンも、アクセサリーまでも全て私のデザイン。

 私が死んだら、後継者にその座を譲るつもりだけど、きっとそうなったら全く別のブランドになるのでしょうね。

 その位のオリジナリティとやる気がある人間じゃ無ければ、私の後継者だなんて認めてやらないわ。


 そんな私だけれど、今現在、生れて初めてスランプに陥っている。

 今までにも、デザインが浮かばなくて困った事はあった。

 問題は、デザインが楽しいと思えなくなっている事だ。

 女性をキャンバスにして、私の芸術作品を発表する……。

 それが私にとってのデザインであり、私のアイデンティティー。

 女性を気高く、美しく見せて、何より自信を沸き立たせるようなデザインこそ私の好きな物。

 なのに……今の私は、その気持ちを奮い立たせることができていない。

 原因は、ハッキリしている。

 姉の店にここ1年ほど出没しているお客様を見たせいだ。


 姉から、「ちょっと!私のお店にすごい人が来てるらしいんだけど!貴方、何者か知らない!?」と連絡が来て、防犯カメラの映像を見せてもらった。

 そこに映っていたのは、正に美が人の形に顕現したかのような女性。

 しかも、ファッションを心から楽しんでいて、何より自信に満ち溢れたその姿は、デザイナーなら……いいえ、女性なら誰でも憧れる理想の姿だった。

 そして、服飾に関わっている人間で、彼女のような存在にファッションを選ぶというのは、間違いなく最高の体験になる。

 そう言うことが好きでこの業界に入っているのだから。

 もちろん、一般のお客様たちが喜んでくれる顔だって好きよ?

 でも、それとはまったく別の次元の話。

 自らの腕を、発想を、愛を、全力で表現する!しかも、それを身に着ける相手は、そのファッションの力を何倍にも高める美しさを持っている!

 これで燃えないなら、それはもうオシャレに興味が無いと言っても過言ではないのではないかしら?


 とまあ、私も当然そのお客様に夢中になってしまっているらしい。

 ソフィア様と呼ばれているその女性は、しめさばに出没していること以外全くの謎だ。

 雰囲気は、トップ女優のようにオーラがあるのに、芸能界に彼女の存在は無い。

 少なくとも、私と関わりのある業界人は、そういう女性を誰も知らなかった。

 勿論個人情報を教えるのは控えたけれど、あれだけ目立つ容姿だから、心当たりがあればすぐにわかる。


 あんな女性を、私の全力のファッションで彩りたい……。

 そんな想いがずっと頭から離れない……。

 そのせいか、普段のデザインの仕事が手につかなくなってしまった。

 この前、欲求が限界に達して、「お姉ちゃんいいなー!いいなー!私もしめさばにちょっと就職させて!」ってお願いに行ったけど、「ダメに決まっているでしょ!私だってまだ会えてないんだから!」と断られてしまったし、もうどうしたらいいのか……。

 あぁ……!

 どこかに、彼女並みに美しくて、気高くて、スタイルも良くて、可能であれば誰にも染まっていない女はいないのかしら?

 1人でいいの!

 お店に来て!

 そして、私に服を選ばせて!


 そんな事をウジウジ頭の中でぐるぐる考えていたある日、店員がノックもせずに部屋に入って来た。


「オーナー!!!!」

「流石にノックくらいしなさいよアナタ……」

「それ所じゃないんです!今来ているお客様が、『30分以内に、この娘に合う服を4着選んで下さい。1着は、このまま着ていくので、たけ直しとかの必要ない服で。予算は、決めなくていいです。お勧め全部買います。この娘、多分このお店にあるものなら何でも似合うので』なんて言ってるんです!」

「何その無茶振り?帰ってもらったら?」

「絶対ダメです!」

「は?どうしてよ?」

「見て貰えばわかります!!!」


 そう言って店員に腕を引っ張られて向かった先には、私が見たことも無い、新たな女神が立っていた。


 ふむ。

 ふむふむふむふむふむふむふむ。


 えぇ……よくってよ…………?





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