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俺は、シャワーを浴びて、さっぱりした気分でベンチに腰かけていた。
なんでシャワーを浴びたかって?
血まみれだったからだよ?
まだ、鼻の中に血の匂いが残ってる気がする……。
着替えは用意していたけれど、全部デコバスの中に置いて来ていたので、仕方なく近くの売店で購入してきた服を着ている。
下半身は、安いパンツの上から作業着のズボン。
上は、緑の生地に『浅草ダンジョン』とだけプリントされたTシャツだ。
自分のファッションにあまり興味がない俺でも、流石にこれはどうなんだろうという思いはあるけれど、それはまあしょうがない。
だって、浅草ダンジョン管理協会の売店で売ってた一番まともな服がこれだったんだもん。
そう、俺は今、浅草ダンジョン管理協会の建物の中で休憩中なんだ。
浅草ダンジョン管理協会の建物の中には、現在俺を除いて人間は誰もいない。
おそーじ君が頑張って証拠書類とかを回収しているので、静まり返っているという事も無いんだけれど、従業員の殆どが重犯罪の容疑者だったため、ドローンで回収されていったんだ。
最終的に、この建物内で犯罪に加担していなかったのが、警備員の冒険者3名と、売店のおばちゃん2名のみというどうしようもなさ。
思わず頭を抱えたね……。
『犀果様、他の指示はございますか?』
無駄に渋い男の機会音声が響く。
おそーじ君を統括するおーそーじ君だ。
残念ながら、あのメカメカしい喋り方は封印され、流暢に話すようにされてしまった悲しいクラシックロボだ。
「いや、とりあえずこのまま続けて。引継ぎも無く全員しょっぴいちゃったから、仕事の内容が書かれた書類なんかも全部データにしてアイに渡しておくように」
『かしこまりました』
離れていくキュルキュルと響くキャタピラ音。
とりあえず、これである程度ここで今すぐにやらないといけない事はある程度解決だろう。
明日からは、しばらく量産型アイに急場しのぎで運営を行ってもらわないといけないだろうけれど、そこはまあアイに全力丸投げしよう。
俺が下手に手を出すより、絶対にその方が上手い具合に回るし。
……報酬、何要求されるかなぁ……?
「それはともかく、俺も焼肉食べたかったなぁ……」
終始アイが焼肉を食べているモーションをアバターに反映するものだから、管理協会掃討中にも関わらず、口の中が焼肉モードになってしまっていた。
とはいえ、俺の被っていたピーポー君ヘッドは、スプラッタ系ホラーの怪物の如く血まみれになっており、再使用がほぼ不可能な状態に。
あれを被ってみんなの所に顔をだせば、すぐさま大騒ぎになっただろう。
何より、俺がもうあの忌まわしいピーポー君の頭を血まみれになってまで被っていたくなくて、管理協会の中の掃討が完了してすぐに、着ていた服ごと局所的ボルケーノで消し炭にしてしまった。
その後、管理協会内にあった無駄に豪華なシャワーで体に着いた血や脂を流した後、予め売店で買っておいた服に着替えて今に至っている。
因みに、なんとか焼肉欲を抑えようとして、売店で売っていたダンジョン産魔物がドロップする肉のジャーキーを購入して食べてみたけれど、お前じゃないんだよなぁ……。
「アンタねぇ、血まみれで買い物になんてくるんじゃないよ!」っておばちゃんに怒られたけれど、知らん。
アンタらの同僚が悪い。
おばちゃんたちは、施設を封鎖するために家に帰らせたし、腹パン気絶させた警備員たちは、とりあえず病院にドローン輸送しておいた。
結果、俺は1人で焼肉欲を我慢しながらダサTで寛いでいるというわけだ。
にしても、これからどうすっかな……?
流石に、ダンジョンを管理している団体を丸々1つ潰すことになるとは思っていなかった。
本当だったら、可愛い女の子たちが美味しそうにご飯を食べているのを眺めて、可愛い女の子たちに奢った事に感謝されてえへえへ気持ち悪い笑みを浮かべて幸せな帰宅をキメこむ予定だったのに、なぜこうなったのか……?
ってかさぁ、こんな感じで事を起こすと、王様に今後のこの組織の運営に関しても丸投げされそうな感じがするんだけど、大丈夫かなぁ……?
あのウンコどもを潰している段階では、この責任どうとってくれるんじゃあ!?あぁおう!?ってダンジョン管理している所に怒鳴り込んで、責任とらせるためにウチのアイドル達を宣伝役に起用しろとでもいうつもりだったのに、まさか管理している奴らが全員ダメなんてさぁ……。
こうなると、本当に組織を構成する職員全とっかえになりそうだし、ダンジョン内の治安を良くするためのアイディアも必要になってくるかもしれない。
そんな面倒な事を何故俺がやらないといけないのか?
俺は、命を狙われたのを返り討ちにしただけなんだが?
ゲームをモデルにした世界だから、話を作るためにトラブルが起きやすいのはしょうがないんだろうけれど、何もここまで俺を中心に起こさなくてもいいんだぞ?
何なら、俺は開拓村に引きこもって箱庭ゲーみたいな生活でも全然問題ないんだぞ?
フェアリーファンタジーになんの思い入れも無いし……。
「社長!こんな所にいたんでござるか!」
突然横に気配が生れた。
ビクッとしたけれど、多少は慣れた。
うん、忍だね。
「……あのさぁ、何でここにいるんだ?焼肉に行っているはずでは?」
「焼肉より大事な事があるでござる!さぁ!戦闘訓練も終わりましたし早くデビューさせてください!にんにん!」
「とってつけたようにニンニンいってんじゃねぇよ……。ってか、何で俺が社長だってわかってるんだ?ピーポー君ヘッドも無いし、ボイチェンも使ってないし、服も着替えてるのに……」
「え?匂いでわかりますが?忍者ですし。社長の匂いを辿ってきたらここについたでござる!」
「忍者って便利な言葉だな……」
アイドルより、警察犬のほうが適正あるんじゃないか?
戦闘力もあるし……。
ん?まてよ?
「忍って、ダンジョン配信してた事があるって言ってたよな?」
「はい!してたでござる!アカウント消しましたが!」
「そうか……」
なら、いけるか……?
100レベルに到達していて、忍者で、本人的にも有名になってちやほやされたいと……。
うん、いける!
丸投げできる!
「なぁ、忍。条件付きでなら今すぐデビューさせてやるけど、どうする?」
「条件!大丈夫です!お任せください!必ず世界中からちやほやされて見せますとも!」
「そうかそうか!じゃあ、これから頼むぞ!『ダンジョン警備忍者配信アイドル』として!」
「はい!……はい?」
いやー、よかったよかった
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