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ダンジョン周辺の地域一帯は、ダンジョンを中心とした繁華街みたいになっている。
そして、その地域を管理しているのが、浅草ダンジョン管理協会という民間団体だ。
民間団体と言えば大抵の場合、国から何かの業務を委託されているだけの非営利団体なんだけれど、浅草ダンジョン管理協会に関して言うと、ダンジョンからの回収されている資源を流通させるという性質から、営利企業としての側面もあるらしい。
前世で言えばあれだ、なんちゃら局って名前の国の施設に間借りしているなんちゃら協会的な立ち位置。
定期的に使い込みとかでニュースになるちょっと面倒なやつ。
そこにちょっとお邪魔する所です。
「しっ失礼ですが!少々お待ちいただけますでしょうか!?」
「は?こっちは命狙われたワン。だから待たないワン。ここのトップは何処にいるワン?」
「お待ちを!どうかお待ちを!」
血まみれでやってきた着ぐるみヘッドに戦慄する受付のお姉さん2人。
何とか侵入を止めようとするけれど、1人が俺を言葉で制止しようとして、もう片方がどこかに内線で連絡を取っているだけ。
そりゃあね?
普通の女性だと、血まみれでやってきた着ぐるみヘッドを体張って止めるなんて無理だよね?
わかるわかる。
「……ってか、よく見たらキミら2人とも執行対象ワン」
「え!?」
俺を止めようとしていたお姉さんの両脚を折っておく。
汚い悲鳴を上げる相棒に驚愕した内線お姉さんが何とか逃げようとしたけれど、まあ俺から逃げられるわけも無く、仲良く同じように骨折させてあげた。
「あああ!?いだあああああ!?」
「なんでええ!?いやあああああああ!!!」
「閲覧時間的に、この受付に座りながらあの配信見てたワン?いい御身分ワンね」
正直予想外だったけれど、女性視聴者もいたらしい。
俺を怖がっていたのは、血だらけだからって訳でも無かったのかな?
さっきの惨劇も見ていた筈なのに逃げていなかったって事は、流石にここに殴り込みにくるとは思ってなかったか?
でもさぁ、ここには偶々俺が来たってだけで、他の視聴者たちも悪質なのは今どんどん捕まってるからな?
そして地下世界へとご案内中。
未だに増改築が続いているから、まだまだ収容人数増やせるぞ!
「貴様ァ!何をしている!とまれ!」
「ワン?」
のたうつお姉さんを近くにあったケーブルで縛っていたら、オッサンの声が。
服装からするとどうやら警備員らしいけれど、武器は、なんだかファンタジーな槍だ。
冒険者なのかな?
「うーん……キミは、どうやら執行対象者じゃないみたいだから、大人しくしてくれるなら何もしないんだけど……無理ワン?」
「何を言っている!?もう一度言う!そこで止まれ!両手を頭の後ろで組んで地面にうつ伏せになれ!」
このオッサン、まじめに仕事しているだけなんだよなぁ……。
怪我させるのは忍びない……。
ッというわけで、ハイ腹パン!
「ごほっ!?」
こうして、オッサンは気絶しました。
流石は、ゲームをモデルに作られた世界だけあって、首トンとか腹パンで人がちゃんと気絶してくれるんだよなぁ……。
前世の世界でやったら、良くて検査入院で最悪死ってくらいの衝撃が必要なんだけど、この世界ならお手軽だ。
前世の世界だと、気絶って、マジで大変だったからなぁ……。
前世で俺が衝撃で気絶したのなんて、氷で滑って地面に後頭部をヘッドバッドしたときくらいだもんなぁ……。
とりあえずオッサンは優しく床に寝かせてっと。
それにしても、施設内LANで堂々と配信を見ている奴らが多かったみたいだけれど、これならネットワーク関係者も全員クロか?
一応視聴してない奴もいるけれど、わからん……。
そもそも、どんな理由でこの浅草ダンジョン管理協会の職員たちが何人もバカみたいな配信を見ていたのかもわかんないんだよなぁ。
『ピーポー君様』
「どうした?」
『浅草ダンジョン管理協会の職員たちは、どうやら先程の生首の父親と組み、ダンジョン産資源の不当な横流しを行っていたようです。協力者たちは、あの生首たちを下手に周りが訴追しないように様々な手を売っていたようですね。規制資源等を国に届け出ずに売り払っていたので、税金も納めずウハウハだったようです』
「ウハウハ……」
アイが色々調べてくれたみたいだけれど、それよりなにより口がモグモグ動いているのが気になる。
スマホの画面に映るただのアバターだから、口の動きと声が連動する必要なんてまったくないんだけれど、焼肉食ってるモーションなんてもっと必要ないんだが……?
普通は、不正行為の協力者は、情報漏洩のリスクを考えれば少なければ少ない程いいんだけれど、アイが調べたリストによると、この浅草ダンジョン管理協会の職員の内、半数以上が関与しているのがほぼ確実だ。
これだけの割合でやらかしているとなると、そもそものルール自体が不正し放題で穴だらけの可能性が高いな。
王様に文句言ってやろう。
有栖経由で。
執行対象者には重傷を負わせ、非対象者は気絶させるだけにして歩くこと数分。
俺は、目的地である理事長室へとやって来た。
社長とかじゃなく理事長がトップらしい。
一応ノックしておく。
コンコンっと。
「くるな!くるなぁああ!!!」
そんな声が聞こえた。
「あ、いるみたいワンね?入るワン」
どうやら鍵がかかっているようだったので、ドアを破壊する。
部屋の中には、机などでバリケードが作られていたけれど、魔道具とか魔術によるものではないようなので、適当に吹き飛ばす。
理事長室の中には、スーツを着た小太りの男がいた。
頭は、薄い髪を油か何かで必死に撫でつけたように整えてある。
もうそこまで行ったなら、流石に剃った方が恥ずかしく無くね?と思わないでもないが、如何にやらかしている奴相手でも、言って良い事と悪い事がある気がするので止めておく。
小太りの男は、腰が抜けたのか、壁際にへタレこんで後ずさりしようとしている。
「キミが、理事長ワン?」
「貴様は何者だ!?何故こんな事をする!?」
質問に質問で返すとは無礼な小太りめ……。
「キミが、理事長ワン?」
「来るな!私は貴族だぞ!?」
ファイアーボールを撃って来たので、木刀で打ち落とす。
「キミが、理事長ワン?」
「き!きさ」
答えてもらえないのは寂しいから、とりあえずこいつも脚折っておくことにした。
コンコンっと。
「ぎゃあああああああああああ!?」
悲鳴が煩いので、今度はもう少し根元に近い部分を折っておく。
コンコンっと。
「ぎにぇ!?っわ、わかった!まってくれ!まってください!」
「キミが、理事長ワン?」
「そうだ!私が理事長だ!です!」
「なら聞きたい事があるんだけれど、自分が何故こんな目に合っているか、心当たりあるワン?」
「ある!あります!白状します!だから殺さないで下さい!」
「殺さないから安心するワン」
色々聞きたい事があったんだけれど、聞いてもいないのにべらべらと喋り始めてくれて助かった。
しかも、証拠書類とかも丸々残していたらしく、ビックリするくらいスムーズに色々進んでしまった。
これが普通の裁判で用いるのであれば、こんな力推しで手に入れた証拠なんて、証拠能力全く認めてもらえないけれど、今回は王様に直接判断を仰ぐために使うだけだから問題ない。
「にしても、なんでこんなヤバイ書類残してたワン?普通破棄するんじゃないワン?」
「保険です!枡谷社長が裏切る可能性もありましたから!」
「それで自分が早々に裏切ってるんだから、どうしようもないワン……」
枡谷社長ってのは、あのウンコヘッドの父親らしい。
ほんと、今回のやらかし連中はウンコすぎる……。
ウンコウンコウンコ……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「ひぃっ!?お許しを!!」
「いや、ただストレス発散に叫んだだけワン。キミは、これから僕が管理している収容施設で、沙汰が下るまで留置されるワン。異論はあるワン?」
「ございません!ですので命だけは助けてください!」
「だから、殺さないワン。死にたくなるかもしれないけれど、死なせてもあげないワン」
「ありがとうございます!」
いっそ清々しいなこのオッサン……。
「はぁ……。ここまでの割合で不正に手染めてたら、もう浅草ダンジョン管理協会を解体するか、人員総とっかえするしかないワン……」
「ではそちらの隠し棚の資料もお使いください!今回の兼に関わっていない職員の不祥事がまとめられていますから!」
「お前……優秀ワンね……」
相手の組織を瓦解させるのに使う分には、こんな感じの信用ならん奴が相手にいるとすごい助かりそう。
味方には、絶対に欲しくない。
「お褒めに預かり光栄です!」
褒めてないけどな。
理事長とお話していると、外からドローンの飛行音が幾つも聞こえてきた。
この浅草ダンジョン管理協会内にいる執行対象者は、全員行動できなくしているので、すぐに静かになるだろう。
さて、捕まえた奴らをどう利用すっかな……。
有効活用しないとな……。
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