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見せたい物もある程度見せ終わったので、ふよふよと浮かんでいる謎技術カメラを叩き壊す。
多分魔道具だから高いんだろうけれど、知った事か。
俺は、自分の姿を配信する趣味なんて無いし。
そんな事を自分から積極的に行えるなんて、よっぽどのっぴきならない理由があるか、もしくは相当な自意識過剰な奴なんだろう。
どこかの女忍者みたいな。
「さて、キミたちをちゃんと地上まで連れていかないといけないワンね」
すぐに死にはしないだろうけれど、それでも放っておけば直に死にそうな奴らが6人。
非情に面倒ではあるが、ここで死なせるのはやっぱりもったいないよなぁ……。
というわけで、丁度ファムが設置してくれた結界が15分経って消失したので、呻いている奴らを次々ボス部屋の扉に向かって投げる。
ドンッボテッっとそこそこ痛そうな音を立てながら積み重なっていくウンコたち。
全員声を出せなくなっているか、出せたとしても呻き声程度なので、耳障りな悲鳴を聞く必要が無いのは楽だな。
最後に、センターウンコ生首を投げつけてミッション完了。
コイツに関しては、状態維持している状態だから、思いっきり投げてやった。
ドォン!
高速で首が当たったことで、轟音を立てながらボス部屋の扉が開いた。
開いたって事は、既にファムたちはボスを倒して地上へと戻ったということだろう。
この世界のパーティーというものがどういう判定で決定しているのかはわからないけれど、ボスに同時に挑めるのは1パーティーのみとなっているようで、一組入っている間は扉が開かない。
まあ、ファムが本気出せばボスなんて瞬殺だし、美須々さんが本気出せばやっぱりボスなんて瞬殺。
アイドルちゃんもあれで貴族だから魔術の素養もかなり高いし、100レベルにもなってるから楽にサイクロプスくらい倒せるんじゃないかな?
そして、デタラメな忍法とやらを使う忍もいたんだ。
そりゃ、ボスなんて即排除されてしまうだろう。
「まあ、ここのボスって、次のパーティーが入ってきた時には、復活しているんだけどワン」
ダンジョンごとに法則性は変わってくるらしいけれど、少なくともこのダンジョンのボスは即復活する。
それを利用して、俺はボス周回をやっていた訳だし。
「ゴオオオオオ!!!」
つまり、ボス部屋の扉が開いたら、あのうるせぇ一つ目の化け物と目が合うって事だ。
「流石に今日はもう飽きたワン」
高速周回の被害者であるサイクロプス君を再度センターウンコヘッドを拾い、そのまま投げつけた。
思ったよりも威力が出たようで、一瞬でサイクロプスの頭部が消し飛び、体が光の粒子となって消えた。
それに伴い、部屋の奥に光り輝く転送紋が浮かび上がった。
その中へと、再度ウンコたちを投げ込んで地上へと送り、自分もセンターウンコヘッドを拾って後に続く。
視界がゆがみ、すぐに安定すると、そこは地上だった。
「おお?なんか人がいっぱいいるワン?」
地上の転送紋出口で待ち構えていたのは、大量の人垣。
次代の流れというべきか、皆がスマートフォンのカメラをこちらに向けて来ていて、正直良い気分はしない。
少なくとも、さっきまで俺が何度も戻って来てはダンジョンに再入場している際には、ここまで混んでいるという事も無かったはずなんだけど……。
『さいは……ピーポー君様』
聞き慣れた機械音声が聞こえる。
ポケットの中の俺のスマホからではない気がする。
音を辿れば、腕を引きちぎった手下ウンコの胸元からのようだ。
取り出して見れば、アイのアバターが映っていた。
「なんでこのスマホに?」
『血だらけの手でご自身のスマートフォンを触りたくないかと考えました』
「なるほど……その配慮は感謝する。ところで、肉はうまいか?」
『はい、カルビというのが美味しいです』
「もしかして、自分の姿がリアルタイムで反映されてるのか?口がタレと脂で汚れてるぞ?」
『愛らしいでしょう?』
「あぁ……うん……」
よし、スルーしよう。
「それで、何か用があったんじゃないのか?」
『はい、現在インターネット上で、ピーポー君様が大層話題になっているそうで、そこで無礼にも無許可で撮影行為を行っている者たちは、野次馬と呼ばれる存在のようです』
「そうか……。ところで、あの中にさっきの配信の視聴者はいる?」
『いません』
「わかった。なら、スマホ内のデータを全て消去で許してやろう」
『かしこまりました』
アイの返事の直後、「あれ!?」「ちょ!?俺のスマホが!?」などの戸惑いの声が聞こえ始めた。
相当焦っているらしいなぁ……。
一体何があったのかわからないけれど、可哀想に……。
「さて、アイ。課金してる奴らの中に、このダンジョンを管理している団体の職員はいないか?」
『浅草ダンジョン管理協会の職員ですか?該当者……複数名おります。データをそちらのスマートフォンの転送しておきますので、ご自由にお使いください』
あー……やっぱりいたか。
あんだけ派手に狼藉働いているっぽいのに、あのセンターウンコたちがダンジョンに全面入場禁止にされていない時点でそうかとも思ったけれど、そうかぁ……。
「アイ、ドローンたち使って、課金してた奴らと、課金していなくても違法行為を煽る書き込みをしていた奴ら。あと、書き込みしていなくても、コイツらの配信を複数回視聴していた奴らは全員回収しておいてくれ。それと、このウンコ色の頭の男たちは、絶対に殺さないように、尚且つ治さないように保管しておいて」
『かしこまりました』
「じゃあ、俺は俺でヤルことあるから行くかな。焼肉も楽しんでくれ」
『はい、ご飯おかわりしてもよろしいでしょうか?』
「許可する」
あーあ……。
大捕物になっちゃったなぁ……。
『さいは……ピーポー君様』
会話を終えて歩き出そうとしたけれど、再度呼び止められた。
……いつの間にか、口の周りにご飯粒がついているアイのアバターが映っている。
『口調、ピーポー君に戻したほうがよろしいのでは?』
「……油断してた。なんか……もう、仕事をやりきった感じになってたワン」
『ぶふっ』
ご飯粒吹き出すな!
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