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頑張って走ったり跳んだりしてダンジョンを最下層まで突破してきたんだけれど、なんかガラの悪い奴らに絡まれた。
どいつもこいつも頭が、王都に旅立った時のどっかのバカみたいな色してる。
具体的に言うと、牛の小便でブリーチしている感じ。
糞尿野郎だな。
「念の為聞いておくけれど、誰かの知り合いワン?」
「あんなの知らないです」とすごいイヤそうに言うアイドルちゃん。
「後ろに色々な怨念みたいなのついてます……」と美須々さん。
「覚える前に死なせておきたいタイプにゃ」とは猫耳メイド服冒険者。
「あ、あの男、ダンジョン配信者でござるよ。トー……なんとかいう名前だったような?周りの人たちに悪いことしているシーンを配信する、所謂迷惑系配信者というやつですね」
意外な事に、忍だけが具体的な情報を持っていた。
情報収集能力は、流石忍者……ってところか?
「よく知ってるワンね。ダンジョン配信?とかいうのは、僕はあんまり知らないワン」
「一時期拙者もダンジョン配信してたので、人気ランキング高い配信者はチェックしてたでござる。そいつら全員消せば私が一番だなって……ござる」
うん、ある意味忍者らしい発想で納得した。
コイツには今後、できるだけ命の大切さを教えていこう。
「それにしても、ダンジョン配信なんてしてたワン?」
「忍術使ってるシーンを見せれば人気出てウハウハだと思ってたんでござるが、『合成乙』とか『お色気が0、出直せ』とか酷かったんです!あー思い出すだけで腹立つ!」
……アイドル、デビュー目指して頑張ろうな?
お前、野放しにしておくと大変な事になる気がしてきたから……。
「なになにー?コソコソ相談は終わったー?大人しく俺達にヤられるなら生きて地上に帰してあげるけど、反抗するならそれも無理かもな!因みに、俺達としては、反抗してくれた方が盛り上がって嬉しいんだけどなー!?見てるお前らもそう思うだろ!?」
誰に話しかけてんだ?
……あー、アイツの後ろの辺りに何か浮いてるけど、アレか?
配信者って言ってたし、アレがカメラなのかも?
「忍、あのふよふよ浮いてるのがカメラで合ってるワン?」
「そうでござるね。結構高いんでござるよアレ。拙者は、三脚にスマホつけて使ってました」
「……よく考えたら、ここって電波届いてるのか……?」
「今時の民間のダンジョンは、どこでも電波バリバリでござる!」
すげぇなこの世界の技術!?
「つまり、コイツのこの言動を見ている奴がいるって事ワン?」
「そりゃそうでござるよ。世の中そういうゴミみたいな視聴者も多いです。私に『合成乙』とか『お色気が0、出直せ』なんて言ってくるようなカスが!やっぱり腹立ってきました!」
忍の事は、スルーするとして。
あのウンコ髪野郎たちは、どうやらダンジョンで無法を働く常習者らしい。
なんで、そんな存在が許されているんだろうか?
興味が出てきたから、聞いてみるか。
「キミたち、どうしてこんな事しているワン?逮捕されないワン?」
努めて冷静に、うっせーウンコ髪が死ねカス!とか言わないように頑張りました。
「あー?逮捕?逮捕ねー……ギャハハハハ!」
俺の質問に、堪えきれないとばかりに笑い出すウンコ髪達。
後ろの奴らも配信者ってやつなんだろうか?
あんまり喋れないのは、メインの出演者があの中央のウンコ髪だからか?
……全員ウンコ髪だから区別つかないな……。
センターウンコと呼ぼう。
「ダンジョンはなぁ!殆ど治外法権みたいなもんなんだよ!証拠が殆ど残らねぇからな!だから、魔物に殺されようが、俺達にレイプされて殺されようが、自己責任ってやつ!それに俺には、すげーバックがついてんの!だから、仮に証拠が残ってようが、証人が生き残ってようが関係ねーの!分かるか?分るよな!?流石にその変な頭でもよぉ!だから時間稼ぎしてんだろ!?なぁおい!?いいぜいいぜぇ!必死に頑張れよ!後ろの女どもを守るために頭使え!んで、最後に絶望しながらそいつらが俺らに食われる所見て死なせてやっから!」
センターウンコが随分気分良さげに喋っている。
どうやら、奴の口からはウンコしか出ないらしい。
大して有益な情報は出てこなかったけれど、証拠があまり無いから起訴されないし
「ファム」
「何ニャ?」
「俺だけ残して、この部屋を結界で分断しろ。アイツらが、お前たちの方に逃げられないように。その後、ファムたちは事前の予定通りボスを倒して地上へ戻ってくれ。打ち上げは盛大にな」
「良いにゃ?ボスが相手にすること無いと思うニャ。ニャーが結界であいつら覆って、そのまま潰せば跡形も無く消せるにゃ」
「いや、アイツらは殺さない。丁度いい事に、俺は今ピーポー君だ。治安を良くするためにひと肌脱ごうと思う。アイツらは、そのための生贄にする」
「わかったニャ。じゃあ、結界はどのくらいの時間維持する設定にするにゃ?」
「そうだなぁ……」
突発的なイベント過ぎて何も計画立てていないから何とも言えないけれど、見ている奴らもビビらせたいからなぁ……。
「15分くらいかなぁ。人間の集中力なんて、その位しか続かないらしいし」
「……そんだけ時間かけるって事は、服ドロドロになるんじゃないかニャ?」
「良い演出になるだろうし、構わない。まあ、その姿でみんなと一緒に行動するわけにも行かないから、打ち上げに参加するのは無理そうだけども」
「打ち上げは、ボスの奢りで良いんだよにゃ?」
「OK許す。好きなだけ飲み食いして来て良いぞ」
「わかったニャ!」
そう言ってファムが手を前に出すと、俺の後ろに結界が作り出された。
俺達が初めて出会った時に、聖羅ですらすぐには突破できなかったデタラメな性能を持つ結界なので、あのウンコ髪達が突破するのは不可能だろう。
「あの、ピーポー君さん……?」
事態が飲み込めていないらしいアイドルちゃんは、キャラ付けを止めた俺の話し方とか、ファムの結界とか、その辺りの色々について質問したいみたいだ。
だけど、ここから先の事柄については、アイドルである彼女たちに絶対に見せたくない部分が多すぎる。
X810プロは、所属アイドルにキラキラした夢みたいな体験をさせるために存在しているので。
ぶっちゃけて言うと、アイドルちゃんや美須々さんがアイドルってものになりたがっていたから作っただけで、ファンなんて言う存在がどうなろうと興味無いまであるからな!
だから、アイドルが不必要に曇るような場面を見せるつもりは無いんだよ。
「行こう!私たちがここにいても、社長が色々やり辛いだけだし、私たちは私たちのやる事をしないと!何事も無かったみたいに上に戻って、今日を楽しい日だったって皆に思えるようにしないと!」
美須々さんが、俺がこれからやりたい事をわかっている様子で、アイドルちゃんの手を引っ張る。
その姿に頼もしさを感じていると、ウインクを投げてきた。
アイドルのウインクはヤバいって……。
多分ガンは治るけど心臓が止まる……。
「もしかして血祭りでござるか!?拙者も見学したいでござる!」
「ダメにゃ」
「げはっ!?」
少女忍者が猫耳冒険者に首トン決められて気絶し、そのまま小脇に抱えられた。
よくやったファム!
「花梨ちゃん、今の僕は、ピーポー君ワン。悪い事してる人たちがいたら、おまわりさんとしての役割を遂行しないといけないワン」
「でも!男の人がいっぱいいるんですよ!?」
「心配ないワン。本気でやったら、10秒も掛からず勝っちゃうくらい僕は強いワン」
「え!?」
「15分もかけるのは、ただのショーだからワン。そしてそれをうちの大切なアイドルに見せたくない、それだけワン」
あと、ウンコ髪でロン毛の奴らも結構いるから、とりあえず毟っておきたい。
この変な話し方をさせられているストレス発散のために。
しかも、アイツは俺に殺すだのなんだの言いやがった。
美少女ならともかく、ウンコ髪の男に殺すと言われたら、死ぬ以上の苦痛を味合わせないとならん。
開拓村出身として、そこは曲げられんな!
「さぁ、早く行くワン!」
「ピーポー君さん!?美須々さん離して……!ピーポー君さあああん!」
美須々さんに無理やり引っ張られてボス部屋に入っていくアイドルちゃん。
あの娘ホントすごいな……。
よくもまあこの着ぐるみヘッドの不審者相手にあんなヒロインみたいなムーブ決められるもんだ……。
「よくわかんねぇけど、女の子行かせてよかったのかよ?」
「ん?むしろ、キミたちが大人しくあの娘達を行かせないと思ってたから結界まで張ってもらったのに、意外と大人しくしててびっくりしてるワン」
「あー……まあ、凌辱シーンも視聴数稼ぎやすくていいんだけどよぉ、やっぱりトーマスチャンネル的には、お前みたいなイキってる野郎をボコって!指潰して!目玉をくりぬいて食わせて!命乞いさせる方が喜ばれるんだよなぁ!」
「そうワン?」
「そうなんだよぉ!それに、もう上には連絡してあんだよなぁ!俺達の仲間が、あの女どもを転送紋の出口で待ち伏せてるから、どっちみち終わりなんだよなぁ!」
「仲間がいるワンね。アイ、その仲間たちはどうなってるワン?」
俺は、スマホに話しかけてみる。
『そこのウンコヘッドからの連絡通り、今日は解散しました』
「ハックしたワン?」
『しました』
「じゃあ、その勢いで、コイツの配信を繰り返し見て楽しんでた奴らを特定しておいてほしいワン。特に課金してる奴は全員ワン」
『畏まりました』
これで準備は良さそうだ。
相手のウンコヘッドも、ニヤニヤとしながらジリジリ俺に近づいて来ている。
怖がらせているつもりなんだろうか?
それなら、せめて魔熊くらいのプレッシャーを放てるようになってから来てほしい。
「じゃあ始めっかお前ら!」
センターウンコが出したその掛け声に、後ろに控えていた男たちが飛び出す。
手には武器。
顔はニヤニヤ。
頭はウンコ色。
気持ち悪いので、一気に一番後ろにいた手下ウンコの元まで踏み込み、右肩を木刀で千切るように斬る。
俺の動きに誰もついてこれなかったようで、一瞬全員の顔が惚けた。
けれど、次に続いた悲鳴によって、全員の視線がまたこちらに集中する。
「ぎゃああああああああああ!?腕!?おれの!?」
「あ、あんまり喋らないようにしてたから、実は本当にしゃべれないのかとちょっと心配してたワン」
喋れないと、開戦の狼煙を上げれないもんなぁ。
俺は、その名も知らぬ手下ウンコの肩から吹き出す血を浴びながら振り返り、事態に動揺し始めたウンコどもを見渡す。
「さてと……。15分もあるんだし、皆で楽しんでほしいワン」
感想、評価よろしくお願いします。




