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「城之内 忍です!X810プロでアイドル候補生やってます!そろそろデビューさせてください!お願いします!……あ、違った!お願いでござる!」
「……あ、はい、ワン」
何だこの娘?
とりあえず、他の娘達は私服なのに、何でキミだけ忍び装束なの?
もしかして、それがキミの私服なのかい?
しかも、本格的なデザインじゃなくて、コスプレクノイチ的な感じだよね?
文化祭かハロウィンくらいでしか許されんぞ?
「……確かに僕は社長だけど、アイドルのデビューとかは全部天Pに任せてるから、僕に何言ってもデビューは早まらないと思うワン」
「そこを何とか!」
「何とかって……えぇ……?困るワン……」
圧が強い……。
「そもそも、なんでそんなに焦ってるワン?見た感じ、中学生くらいワンよね?まだまだ焦る時期じゃないと思うワン」
いや、アイドルの適齢期なんて知らんけど、中学生から高校生くらいじゃないの?
落ち着いてじっくりやれよ。
焦ってデビューした結果、話題にならずに鳴かず飛ばずで終わるより、満を持して大型新人としてデビューした方がよくない?
「そんなの嫌です!早くデビューしたいです!」
「どうしてワン……?」
「ちやほやされたいんです!」
「ちやほや……」
こいつ、ちょっと馬鹿かもしれない。
「私の承認欲求が!承認欲求がああああ!」
「いや、ちょっと落ち着くワン……。大声出さないで……」
そこからダンジョンに着くまでの1時間ほど、俺は、この全く忍んでない女忍者の相手をすることになった……。
「……すみません、落ち着きました……」
「うん、やっと会話できる状態になったワン?」
「はい……」
「じゃあ、ちゃんと詳しく説明してほしいワン」
「ええとですね……。あ、回想シーンにしますね?」
「は?」
ポワポワポワワーン
私、城之内 忍、14歳!
中学2年生の美少女!
特技:忍術!
趣味:お料理(兵糧丸作り)!
1年位前から始めたSNSで、自撮り写真をあげるようになってから、承認欲求が急上昇中!
コスプレ写真ばっかりだったけれど、段々こんないいね!数じゃ満足できなくなってきちゃった!
それで、そろそろ下着くらいなら良いかな?って思い始めたタイミングで、X810プロの書類選考が通ったってお知らせが!
大変大変!遅刻しちゃう!
あ!路地裏で交差するように、イケメンって評判の先輩が走って来てるのが地面の振動でわかっちゃった!
わーん!このままだとぶつかっちゃう!急がないといけないのにー!
もう!土遁!アスファルト潜り!
そんなこんなでX810プロの面接に間に合った私は、なんとなんと1発合格!
見事アイドル候補生になれたのでした!
でもでもー、周りの候補生の娘達も可愛い娘ばっかり……。
当然だよね?
だって、皆アイドルの卵なんだもん!
だから私考えたの!
自分だけの属性を身に着けようって!
私が、私だけが体現できるアイドル像って何?
そう考えた時に頭に浮かんだのは、やっぱり忍者!
私の家は、代々忍者の家系なの!
だけど、忍び過ぎてもう誰もうちの事なんて知らない!
知らないから、仕事の依頼も来ない!
だから、家族皆すごく強いし、誰にも気が付かれずにどんな情報でもすっぱ抜いてこれる実力あるのに、忍者として食べていく事なんてできない!
ママは、スーパーでレジ打ってるし、パパは電気屋さんに出向して携帯電話売ってるんだって!
私は、そんな両親みたいな普通の人生なんて歩みたくない!
2人の事は大好きだけど、私はもっと……もーっと!ちやほやされたい!
だから、アイドルになるね!
そして、忍者として身に着けた技術をバンバン使っちゃうね!
がんばるぞー!
ポワポワポワワーン
「っということなんです……ござる……」
「…………は?」
え?
何今の?
脳に直接イメージが転写されたような、すごい違和感があったんだけど……?
「あ、思念伝達の術は初めてでしたか?最初の内って、違和感あって気持ち悪いんですよねー」
「……術……?忍術……?」
「そうです!こんな事できるアイドルなんて、きっと私だけですよ!?さぁ!デビューさせてください!早くしないと、そろそろ……その……えっと……パンツ……アップロードしちゃうかも……?」
……………………………………そうか。
よくわからん。
「うん、デビューは保留ワン」
「えぇ!?なぜですござるか!?ここまで言ったのに!」
「キミは、とりあえずネットリテラシーとか、そういうことを先に学んだ方が良いワン」
「学んでますよ!現役JC舐めないで下さい!その上で何が何でもちやほやされたいんです!」
「なお悪いワン……」
天P!事務所にカウンセラーを常駐させることも考慮する必要があるかもしれんぞ!
「はぁ……忍ちゃんだったかワン?」
「ハイ!私……拙者、忍でござる!」
「忍者たるもの、耐え忍べないとダメワン。とりあえず、今日の所は、デビューの事を忘れて、ダンジョン探索で戦闘訓練する事に集中してほしいワン」
「えぇー?女忍者なんて、おっぱいブルンブルンさせながらストリートで戦ったり、お風呂で乳首出してナンボでござるよ?我慢なんて二の次でござる!」
「……」
よし、黙らせるか。
とりあえず、デコピン!
が、回避された。
というか、消えた。
そしてすぐ隣にいつの間にか移動している。
「ふっふっふ!残像でござる!」
「…………」
デコピン!
「なんの!」
デコピンデコピンデコピン!
「あ!ちょ、まってほしいでござ!あん!連続だと2回までしかこれ無理で痛ああああ!?」
…………デコピンしても黙らない、というかうるせぇのか……。
やるじゃねぇか……。
そのやる気、嫌いじゃないぞ?
ただ、あんまり近くにはいてほしくないかな……。
「ところで、何でそんなに口調が安定しないワン?」
「いたた……え?いや、だって、忍者アイドルするためにしてるだけの話し方だも……でござるし」
「あれ?素だと普通にしゃべるワン?」
「そりゃそうですよー。忍者が普段からニンニン言ってる訳ないじゃないですかー!すぐばれちゃいますし!」
「その格好の時点で隠す気無い気がするワン」
「あ、これでござるか?裏返すと、ちゃんと可愛い服なんでござるよ?」
その場で服を脱ごうとする忍ちゃん。
咄嗟に止めたけれど、少しだけ見えた上半身の服の裏側が少しだけ見えた。
それは、Tシャツだった。
白Tに、『NINJA』とだけプリントされた……。
事務所の専属スタイリスト、追加で募集しておくか……?
「はぁ……やっぱり私も、社長みたいにしっかりキャラ付けして喋れるようにならないとダメなんですかねー?……でござる」
「…………」
俺の血を吐きそうになるこの喋り方って、この似非忍者のござると同類なのか……?
マジか……。
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