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誰とは言わないけど薫子と薫子で被ってしまった事に今更気が付きました
苗字とメガネと性癖しか覚えてなかった
まあええか……
「では社長、これからダンジョンに挑むうちの者達にお言葉をお願いします」
「……ご安全に……ワン」
「「「「「ご安全に!ワン!」」」」」
X810プロの事務所で、所属アイドルと社員たちが一堂に会している。
整列した彼女たちの前に立つのは、2人の人間。
1人は、この事務所をけん引するプロデューサーである通称『天P』。
もう1人は、頭にピーポー君を被った不審な男。
俺です……。
この事務所も、ずいぶん大きくなったなぁ。
と言っても、まだまだ量産型アイがコスプレしているだけの社員も結構いるので、まだまだ人材は足りていないけれども。
事務員だけで17人(内10人がアイ)。
デビュー済みのアイドルが、現時点で12人。
候補生が、8人。
ドームを観客で一杯にするアイドルが何人も在籍している芸能事務所であることを考えれば、特別人数が多い訳では無い……どころか、むしろ少ないだろうけれど、だとしても0から作り上げた事を考えれば、中々の成長具合だと思うんだ。
だからこそ、厄介なファンや、同業者の嫉妬なんかで危害を加えられる可能性も考慮して、当初はアイドルだけの戦闘訓練の予定だったけれど、全社員で行うことになったわけだ。
そりゃあね?
女性アイドルに絞って雇っているからね?
スタッフも皆女性にしたからね?
自衛のためにもこういうのはやった方が良いと思うんだよ俺も?
でも、だからってこの忌まわしい着ぐるみをまた装着しなければならないなんて……。
あれだけ派手に吹き飛ばしてすっきりしてたのに……。
「はい!」
俺からの激励の挨拶が終わり、これでもうダンジョンに向かうだけかというタイミングで、アイドルちゃんが元気よく手をあげる。
それに反応し、天Pが発言を促した。
「仙崎さん、どうしましたか?」
「今回は、ピーポー君さん社長が一緒に行ってくれるんですか!?」
「はい。社長は、我々、社員一同を家族同然に考えてくれています。ですから今回、ダンジョンで戦闘訓練を行いたいという要請を快諾し、それだけではなく自らも私たちを護衛するためにやって来てくれたのです」
「……まあ、そういうことになってる……ワン……」
「そうなんですね!ありがとうございます!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
アイドル達が、何故かこの不審な着ぐるみ男をキラキラした目で見ている。
大丈夫かお前ら?
頭が着ぐるみの男だぞ?
通報されても文句言えない出で立ちなんだが?
しかも、語尾が『ワン』。
「次に、今回社長と共に私たちに同行して頂ける事になった冒険者の方を紹介します。ファムさん、お願いします」
「わかったにゃ」
今度は、ファムが紹介されるようだ。
「ファムにゃ!社長は、ニャーのボスニャ!お金とごはんと緩い職場を維持するためにお前らを護ってやるからありがたく思うニャ!ご安全に!にゃ!」
「「「「「ご安全に!にゃ!」」」」」
ファムの発言は、普通に考えたら碌でも無い事しか言っていない筈なのに、その出で立ちからタダ者ではない雰囲気を感じ取ったのか、こちらはこちらでアイドル達の目がキラキラしている。
まあ、顔はすごい美人だし、胸大きいし、そこらの女性たちと比べて筋肉も発達していて強そうだし、何より猫耳だからな。
そりゃ、見つめる方も目がキラキラするわ。
普段の生活を見たらビックリするだろうなぁ……。
メイドなのに、昼間からソファーに横になってマンガ読んだり、大して面白くない再放送のテレビ番組をボーっと見てるだけのお姉さんだから……。
いや、その姿すら割と様になるくらいのハイスペックビジュアルなんだけれども。
「今回は、こちらの方で事前に班を作っております。最下層に向かう道中に関しては、全員纏めて行動することになりますが、ボス部屋だけは訓練のために少人数での入場を予定しています。各自、今から班分けを書いた書類を渡すので、確認しておいてください」
「「「「「はい!」」」」」
すごいなうちのアイドル。
軍隊の訓練風景並みにハキハキと挨拶するじゃん。
まあ、真面目でやる気がある奴しか選考通していないってのもあるんだろうけれど、かなりしごかれているんだなぁ……。
うち、実力主義だからなぁ……。
可愛いだけの女じゃ、偶像にはなれんのよ!
「ボス部屋に侵入する際は、社長が皆さんを率いてくれます。彼の指示には絶対に従うようにしてください。因みに社長は、ソロでダンジョンのボス部屋を1日に何度も周回できる程の実力なので、油断するのは論外ですが、あまり気負わないようにしてください」
「「「「「イエスマム!」」」」」
え?
軍隊式挨拶?
「それでは、全員!事務所前に停めてあるバスに乗り込みなさい!」
「「「「「はい喜んで!」」」」」
あれ?
今度は、軍隊でもなんでもない、飲食店か何かになった?
エレベーターを使わず、階段を駆け下りて1階へと向かうアイドル達を見送ってから、窓から下を覗き込む。
そこには、電飾でデコレーションされたバスが止まっていた。
デコバス、当然アイの手による物である。
これから俺たちは、あのバスでダンジョンへと向かう。
行き先は、民間団体が管理するダンジョンである、『浅草ダンジョン』だ。
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