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「よぉ!今日も予告通りトーマスチャンネル始めるぞ!」
:待ってました!
:今日もやらかせ!
:被害者早く来い!
:何この調子乗ったヤンキー?
:新参か?調子乗ったカスヤンキーだぞ
「よくわかってんじゃねぇかお前ら!じゃあ早速、今日も獲物を探しに行くぜ!」
:イエー!
:Yay!
:YEAH!!!!!!
:ヤれ!ヤれ!!!!!!
冒険者と呼ばれる職業がそこそこ一般的となった現在、冒険者の活動をインターネット上で映像配信するサービスが脚光を浴びていた。
『ダンジョン配信』、そう呼ばれるようになったそれ。
ダンジョン内はもちろん、ダンジョンでは無く、魔物の領域での撮影であっても、『ダンジョン配信』と呼ばれている。
一般人では、中々見ることができないであろう魔境の要素は、老若男女問わず、視聴者を熱狂させる。
とは言っても、あくまでそれは一般人相手の話であって、魔物と実際に相対することもある貴族たちにとっては、欠伸が出るような内容ではあるのだが。
しかし、全ての配信者が冒険している所を配信している訳では無い。
中には、ダンジョンや魔物の領域という、人の法が及びにくい場所であることを利用して、碌でもない行為行い、その様子を配信することで人気になっている者もいる。
今、丁度配信を開始したトーマスチャンネルの主役であるトーマス、本名、枡谷 島吉も、そんな禄でもない配信者の一人だ。
もっとも、その碌でもない配信者の中では、トップクラスに人気がある人物でもある。
何故なら、彼の配信する内容が、とても過激だったからだ。
特に、配信が佳境に入り、有料プランに加入している視聴者限定の部分が。
「お?おいおい!滅茶苦茶可愛い娘が固まってんだけど!?1、2、3……4人も!ってことはぁ……今日俺が連れてきている仲間たちにも分け前やれるって事だよなぁ!?あ、でもこっち2人余るから、あの娘たちのうち何人かは疲れるかもなー」
:あ!本当に可愛い!
:今から課金します!
:今日は5人も冒険者仲間つれてんのか
:あーあー可哀想にこの娘達
:とか言いながら見るんだろ?
女性への性暴行。
男性への重度の暴行。
それらの、普通であれば唾棄すべき行為を映像として配信するのが、このトーマスチャンネルの売りだった。
本来であれば、視聴数によって得られる広告表示分の収入で稼ぐのがメインになるダンジョン配信だが、有料プランという限られた者しか視聴できないようにし、更に儲けられる配信者は少ない。
枡谷 島吉も、元々の配信では普通の冒険行為を映していた。
しかし、たまたまダンジョン内で行われている犯罪行為の現場に居合わせ、その映像が映った事によって視聴者が増えた事により、その手の映像の方が儲かるのかと考えてしまってからは、碌でもなさがエスカレートするばかりとなっている。
それでも、犯罪行為が行われている場所がダンジョン内や魔物の領域であるため、刑事事件として立件されにくい為、未だにこのスタイルが続いていた。
特に、わざわざ有料プランに加入してまで視聴したがる人間は、枡谷と同じように碌でもない人種ばかりな為、警察にも軍にも通報されずに済んでいる。
「そんな配信をお前は何故見ていたんだ?」と言われてしまえば、通報した側まで危なくなるからだ。
とはいえ、何度か匿名でインターネット上で告発されたこともある枡谷。
それでも彼の父親が貴族の為、関係各所に圧力が掛けられると、すぐに事態は沈静化していった。
枡谷自身は、平民だ。
父親である貴族が羽目を外してしまった時に出来た子供である彼は、父親である男爵の男の脛を齧り、しゃぶり倒すことに躊躇は無かった。
今回も、自分の欲望のままに行動し、それを配信しておけば、馬鹿な視聴者が金を落としてくれる。
万が一誰かに告発されたとしても、父親から圧力をかけて貰えばいいだろうし、第一被害者たちには最後に消えてもらうので、何の心配も無いと考えていた。
「にゃー……ダンジョンにいい思い出が無いから早く出たいニャー……」
「もうちょっと!もうちょっとだから!ファムさんお願い!」
「後で何かごちそうするから!事務所のお金で!」
「事務所の?ってことは……ボスの金にゃ!なら好きなだけ食べてやるニャー!今夜は焼肉にゃ!」
「「はい喜んで!」」
「……拙者が言うのも何でござるが、そんなの勝手に決めていいんですか?じゃない!いいんでござるか!?」
枡谷とその仲間たちが向かう先には、猫耳メイドと、どこかで見たことがある様な少女(メガネ装備)が2人。
そして、どう見てもコスプレだと思われる完成度の女忍者がいた。
周りに他の冒険者の姿は無い。
ここは、ダンジョンの最下層であるボス部屋の前だからだ。
こんな所までやってくる冒険者など早々存在しない。
何故なら、冒険者になる者の多くは、普通の職業につけないか、一発逆転を狙う割とどうしようもない奴か、冒険者に夢を見ちゃった厨学生か、貴族の血が流れているだけの平民であり、最後の者たち以外は、そもそも大した強さも持たないからだ。
冒険者として活躍している者たちは、ほぼ間違いなく貴族の血が流れていると言われている。
枡谷のように。
だからこそ、ダンジョンの深部ともなれば、枡谷にとってとても都合のいい狩場となる。
ここには、獲物を助けに現れる者なんてまずいない。
証拠も残らない。
そんな場所に、遠くから見ただけでもヨダレが出そうな程に魅力的な女性たちがいれば、枡谷がとる行動は一つしか無かった。
ボス部屋の前で待機している女性たちの元へと、ズンズンと無遠慮に近づいていく枡谷たち。
恐らく彼女たちは、ボスに挑戦しようとしたけれど、先客がいたせいで待たされているんだろう。
このダンジョンのボス部屋に、少なくとも3パーティも同時に到達しているなんて事は、今まで経験が無いが、これは枡谷にとって好都合。
なにせ、相手には逃げ場がない。
ついでに言うなら、先行してきたパーティの方が、後からくるパーティたちよりも多く戦闘している場合が多く、彼女たちは今疲労している可能性も高い。
枡谷が自分の幸運を天に感謝しようとした時、隣を強風が吹き抜けた。
この場所でこんな風が吹くことなど、未だかつて無かったため、多少の警戒をしながら前を向いた枡谷は、先ほどの女性たちの元に、先ほどまではいなかったはずの男がいることに気が付く。
その男は、何故か趣味の悪い帽子?着ぐるみの頭?をつけていて、顔はわからない。
少し不気味ではあるが、それでも人数ではこちらが勝っている。
まずは、あの男をズタボロにしてから、女たちを頂こう。
枡谷はそう考えた。
考えてしまった。
「待たせたワン。じゃあ、お代わり行くワンよ!」
「ボス、その変な喋り方何とかならないニャ?」
「……ファムちゃん、キミも見た目が美女じゃなかったらかなり痛々しい喋り方だって事自覚してるワン?猫耳で美女キャラじゃなかったらただの痛い奴ワンよ?」
「だからこれはキャラ付けじゃ無くてただの方言にゃ!」
:うわ、ピーポー君だ
:頭だけピーポー君wwwwwww
:何でピーポー君?
:自動翻訳なのか?声は公式の合成音声とそっくりだな
:こんなとこにピーポー君に詳しい奴いるとか笑うわ
ピーポー君というのが何か枡谷は知らないが、有名なキャラらしい。
だが、まあいい。
どうせこれから、あの着ぐるみの頭は血に染まるんだ。
良い小道具になってもらおう。
枡谷はそう考えた。
考えてしまった。
「へいへーい!キミたち可愛いねー!俺達と気持ちいい事しなーい!?そこの頭おかしい頭してる奴は殺すけど!」
「ワン?」
木刀を持ったピーポー君が、そこにはいた。
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