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560:

「そうかそうか、白が楽しくやれているようで、私も嬉しいよ」

「は……はいデス……」


 胡坐をかいた脚の上に自分の娘を座らせて、近況報告を聞く父親。

 一見ハートフルな光景に見えるけれど、その父親が、さっきまで動くマネキンみたいな、ヤバイクリーチャーだった事を踏まえてから見てみるとあら不思議。

 途端にホラーか何かに思えてくるでしょう?

 その証拠に、一見仲良さげにしているように見える白の尻尾がピンピンにまっすぐ伸びて、更に毛が逆立っている。

 あんなに感情が表に現れる器官なんだな……。


 とはいえ、それをあのおっさんに伝えるのは流石に可哀想なので、言わぬが仏とばかりにスルー。


「カニの甲羅にグラタンが入ってます!これは、きっと王様とかしか食べられないやつれすよ!」

「こちらなど、大きなエビが半分に割られて、さらにグラタンが盛られていますよ?」

「なんという……グラタンは強いのれす……!」


 すごいなあの人口生命体2人……。

 この状況で全く動じてねぇ……。

 それはそれとして、なんでオードブルってあんなにホワイトソース使ったメニュー多いんだろうね?

 カニの爪使って作られたクリームコロッケとか。

 って、甲殻類ばっかじゃねぇか。

 美味しいから良いけど。


「犀果君……あれって……」

「委員長、このローストビーフ美味いぞ」

「……そっか、スルーするんだね……?」

「何のことかわからないな。ほら、こっちの卵焼きとか、ちゃんと寿司屋のやり方で焼かれてるぞ」

「うん……美味しいよ……」


 ほら見ろ人口生命体たちよ!

 これが普通の女の子の反応だぞ!


 まあ多分、楽しく生きる分には、人口生命体たちの反応の方が正解だと思う。

 正直羨ましい。

 俺なんて、ちょっと怖くて尿意が刺激されちゃったもん。


「晴明さん、ちょっとトイレ行きたいんだけど……」

「あぁ、その襖から出て、右側に行けばあるよ。男子トイレと女子トイレで分かれているから間違えないようにね」

「……はい」


 襖から出たら、あの畳がどこまでも続く大広間じゃないのか?

 ホラーか?

 そう一瞬思ってしまったけど、それよりも尿意が主張してくるので気にしないことにする。


 しかし、襖を開けて目に飛び込んできた光景により、再度俺の脳内は恐怖が優勢になってしまった。


 カタカタカタ……


 そこには、先程まで安倍晴明と名乗っていたロボがあった。

 そう、あったんだ。

 糸を切られたマリオネットの如く、地面に打ち捨てられて。

 それでも、まだ何かの反応があるのか、カタカタと動いている……。

 こっわ……。


 そして俺は気が付いた。

 その人形から、黒くて細い線が伸びている。

 向かう先は、人間晴明さんの黒髪ロング。


 あ、これ、接続されてますわ……。


 アイたちに散々大昔のとんでも技術を見せられた俺にはわかる。

 これは、アイたちの技術レベルを瞬時に陰陽術で再現しようとして、されど完璧では無い物であるという事を。

 完璧に再現できていたとしたら、こんな接続を維持する必要はない。

 それに、元のロボをこんな所に置いておく必要も無い。

 にも拘らず、こうしてロボと接続しているという事は、恐らくこの人間晴明は、アイたちの作り出した人口人体をかなり劣化させたものであり、尚且つ無線状態で操ることはできない。

 そして、ああして娘と触れて語らう以外の機能も殆ど無いんだろう。

 そのくらい妥協しなければ、流石の晴明さんと言えど、この短時間でアバターを作り上げる事はできなかったと考えられる。


 もしくは、長年ロボってた晴明さんにとって、娘と触れ合う以外の機能なんて必要ないって考えなのかもしれないけれども……。


 まあいいか!

 怖いから考えないようにしよう!

 他のメンバーがトイレに行こうとした際に、このホラーマリオネットを見たら漏らしてしまいそうなので、仕方なくいつの間にかできていた向かいの部屋に元晴明さんを投げ込んでおく。

 襖も閉めたけど、黒い線は切れて無いみたいだし、晴明さんもちゃんと元気に動いているから大丈夫だろう。

 ……もし、この黒い線が切れてたら、人間体晴明さんが、さっきの崩れたマリオネットみたいなポーズになってたんだろうか……?

 それは、阿鼻叫喚だっただろうな……。

 ここでは、もうちょっと慎重に行動しよう……。


『カツドウゲンカイマデ アト 3ジカンデア~ルネ』


 さっき、晴明ロボを投げ込んだ部屋から、襖越しにそんな機械音声が聞こえた気がした。




「あ、犀果君お帰り!トイレって場所わかりやすかった?」

「ただいま。トイレは……まあ、わかりやすかったよ。広いし、清潔だし、ウォシュレットついてたし……」

「ウォシュレットついてるの!?わ……私も見に行ってみようかな……?」


 そう言って立ち上がる委員長を見送る。

 大丈夫、彼女が怖がるようなロボは、既に隔離してあるんだから。


「私も行きます。1人じゃ上手くトイレれきないので、お手つだいしてほしいれす」

「アルテミス、貴方は……いえ、まあわかりました。仕方ありませんね……」


 人口生命体2人も席を立ち、委員長に続く。

 女子って何でトイレに行くとき、徒党を組むのかな?


「あ……あの……私も行きたいのです……」

「おや?なら私が連れていってあげよう」

「……やっぱりいいのです……」

「ん?そうかい?」


 この晴明、娘から嫌われる事いっぱいしそう。


 そんな事を考えつつ、軽く涙目になりながら、俺に助けを求める視線を送ってくる白を眺めていた。

 あ、耳の毛もあんなに逆立つんだなぁ……。

 いつか何かの参考にしよう……。





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― 新着の感想 ―
イケメンクリーチャー怖いよね 目と目を合わせて笑顔で一言「すっごく怖いので離れて♡」なんて言ったら自爆するのかな?
娘からしたら人間やめて気持ち悪くなった父がいきなり生身に戻ってスキンシップとってきたホラー。どう接していいか分からず借りてきた猫みたいになってる。
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