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「し~ろ、よくきた~ね!」
「は……はぁ……お久しぶりなのです……」
「他のめんめーんも、歓迎する~よ!」
口調だけは、いつもの通りクソみたいに明るい。
だけど、体育座りしたままの晴明さんは、俯いたままでこちらに顔を向けようとしない。
なんだ?
なんなんだ?
不気味だ……。
「あ、歓迎されています!これは、何か美味しい物を貰える流れれすよ!」
「いえ、その判断は早いですよアルテミス。京都の人間の言うことを真に受けてはいけません。出てきたのがブブ漬け?とか言うのであれば、さっさと食べて帰るべきとデータにありました」
「ブブヅケ?どんな魚のヅケなんれすかねぇ……。マグロというのが食べてみたいれす!」
「私は、魔イカの沖漬けというのが食べたいですね」
人口生命体の2人は、この状況でも明るく楽しく飯の心配をしている。
それ所じゃないんだが?
「犀果君……これ、どうしたらいいのかな?」
「帰るか?」
「ここまで白ちゃん連れて来ておいて、流石にそれはねぇ……」
「私の事はお気になさらず……」
「いや、白の事はちゃんと気にしているんだけど、あの挙動不審のピエロから離れた方が良い気がして……」
俺、委員長、白の3人でコソコソと話し合う。
ここ1年で数回は晴明さんと会っている俺と委員長はもちろん、暫く会っていないとはいえ、実の娘であるはずの白ですら困惑するほどの異常事態のようだし、どうしたもんか……。
「まぁまぁ……ゆっくりしていくといんだぁよ……」
俺達の様子を見たのか、引き留めに掛かる和製ピエロ。
しかし、依然として俯いて体育座りをしたままだ。
怖い。
「ほーら、そっおちの襖の向こ~う側に食事も用意したぁよ。食べてくる~といい!」
「行くれすよリコ!」
「いざ隣の部屋!」
2人餌で釣られてしまったので、即時撤退が難しくなった……。
隣の部屋なんてさっきまで存在もしていなかったというのに、よく怖がりもせず走って行けるもんだな……。
「しょうがない……とりあえず、飯だけ食って帰るか?」
「そうしよっか……」
「私は、もう少し考えてみるのです……」
「そっか。それも良いと思うぞ」
残りのメンバーの意見も統一できた所で、俺達も隣の部屋へと向かおうとした。
が!
「小僧、おーまえだけは残るんだぁよ」
そう言って、俺は肩を掴まれた。
振り返れば、安倍晴明ロボの腕が伸びて俺の肩まで届いている。
怖い……。
「なんで……?」
「ちょっと相談したい事があるんだよ……」
「はぁ……」
助けを求めようと委員長たちの方を見るが、既に2人とも隣の部屋へと行ってしまっていた。
そして無情にも、襖は閉まってしまう。
「一体何なんですか……?」
「……これは、友人の話なんだが……」
あ?
なんだ?
中学生が自分の恋愛相談を友達にするときの常套句か何かか?
「娘から、気持ち悪いと言われてしまったらしくてな……。どうしたらいいかという相談を受けているのだ……」
「どうしたらいいかって……」
あ、これ、さっき現実世界でしてた会話聞かれたか?
でもなぁ……。
アンタ、気持ち悪いもん。
たまに夢で出てくるぞ?
悪夢で。
「その友人は、娘さんにそう言われてしまうような心当たりあるんですか?」
実際に、晴明さん本人は、自分をどう評価しているのかを聞きたい。
気持ち悪がられる原因が自分にあるとわかっているんだろうか?
「……ある……らしい……」
「あんのかよ!?」
「……らしい……」
じゃあもう俺からいえる事なんて一つだけだろ……。
「その原因を解消すりゃいいんじゃないですか?」
「……それがな……もう戻せない部分らしくてな……」
「あぁ……」
あれか?
肉体を絡繰りに変えちゃったこと自体の話か?
そりゃもう残ってないだろうよ!
人の肉体のままじゃ長生きできないからってその体になったんだから!
じゃあもうどうしようもないじゃん!
って言うわけにも行かないので、なんとかこの絡繰り人形ピエロの為になる意見も言っておくか……。
「……これは、友達の話なんですけど」
「……ん……?」
「その友達は、情報だけで構成された存在だったんです。有体に言えば、AIってやつですね」
「……そうか。AIなら知っているぞ……」
知ってんのか晴明!?
「彼女は、自分の肉体を得て、現実世界で色々食べたり、遊んだりしたかったそうなんです」
「……そうか……」
「その娘なんですけど、本当に自分で肉体を作って、そこにAIとしての自分を意識を移して、今、隣の部屋でブブ漬け食ってるんですよ」
「……隣の部屋……?」
「はい、一番ちっこいのです……」
「…………」
ギギギっと音が出てきそうな動きで、襖の方へと顔を向ける晴明さん。
こっわ……。
動きがホラーなんよ……。
「……これは……すごいな……幾重にも術式が組まれていて……ん……?そうか……この技術を陰陽術に転用すれば……」
俺の言いたい事が分かったらしい夜中に校内を走り回る人体模型の親戚さん。
本当にそんな事ができるかはわからないけれど、まあ何もしないよりはいいだろう。
「そうか!無いなら作ればいいんだ!はははは!こんな簡単な事に気が付かないなんて!よし!材料は、最近狩った妖怪共の死骸を使って……おっと、こぞ~うよ!もうとなぁりの部屋で皆と食事してきーていいよ!」
「あ、はい」
よかった……。
やっとこのクリーチャーから離れられる……。
襖をあけて隣の部屋に入ると、既にみんなモリモリ食べている状態だった。
オードブルを。
「どっから持ってきたんだこんなハイカラなもん……」
「さぁ……。でも、ちゃんと美味しいよ?犀果君も食べる?お皿にとろうか?」
「頼む」
「はーい!」
こんな時でも委員長は委員長だなぁ……。
「なんで納豆が無いんれす?」
「客に納豆を出す事なんて早々ないのでは?」
「れすが、月の世界だと今、皆納豆で生きてる状態れすよ?納豆の神タイシンを崇める宗教ができているれす」
「私が飛び出してからあの世界に何が……?」
エビフライを頬張っているアルテミスと、よくわからん野菜とひき肉っぽい物を寄せ集めて固めたようなものを食べているリコがとんでもない事を話しているけれど、今俺の頭の中にその内容が正常に届くことは無い。
もう既に、納豆のインパクトなんてアウトオブ眼中なんだ。
「このイナリ寿司、おかあ……母のと同じ味なのです!」
「へぇ……ってことは、これって玉藻さんが作ったのか?」
「いえ、母は、洋食を作るのはあまり得意じゃ無いのです。キャラが壊れるとかなんとかで」
「キャラ……」
まあ確かに、キツネ耳巫女服美人お姉さんって見た目なのに、ケバブとか作ってたらイメージは壊れるかもしれんが、俺はそう言うギャップも嫌いじゃないよ!
っていうか、キツネ耳の美人が何かしてたら、多分ある程度なんでも受け入れると思う!
とりあえず、ツナマヨとカニカマ、レタス、ついでに卵焼きが入った海苔巻き、所謂サラダ巻きを取る。
うーん……。
「うん、普通に美味い。何か特殊なもんかと思ったけど、そういう感じは一切しない」
ただ、一つの懸念というか、予感ならある。
「これさ、もしかして、晴明さんが作ったのかな……?」
「やっぱり、犀果君もそう思う……?」
「うちの父、お料理できたのですね……」
クッキング晴明。
やっぱりホラーな気がする。
何はともあれ、味は悪くないどころか美味しいので、遠慮せず食べることにした俺達。
そして、そこから暫く経って、俺がさっきの晴明さんの恐怖を忘れ始めた頃に……奴は来た!
開く襖!
入ってくる男!
「ふぅ……やぁ皆さん、お待たせしたかな?」
烏帽子をかぶり、狩衣という平安貴族の服を着た、サラサラ黒髪ロン毛イケメンお兄さんが!
「あ、人だったころの父なのです……」
え?
こいつ本当にやったよ……こっわ……。
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