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「こちらの樽なら焼酎なのですから、諦めてそちらを飲んでください!なんなら、一滴たりとも飲まないでいた方がいいんですよ!?王都で学びましたが、痛風は内臓疾患だそうです。つまり、プリン体を全くとらないとしても、自堕落な生活をしていたらまた発作が起きるんです!気を付けてください!完治だってしないんですから!一生ですよ!?」
「うぅ……わかった……焼酎で我慢しよう……」
親子の団欒を邪魔しちゃいけないよな?
という名目……気遣いで、俺達は家の中から脱出した。
「いやぁ……ダメな感じだったな」
「ダメな感じだったね……」
「酒って、ああも人をダメにするもんなんだな……。まあ、俺の実家周辺の大人たちも、割とダメな感じだったけど……」
「うちもそうだよ……。でも、ちゃんと無理のないように飲む分には、そこまででもないんだよ?依存しちゃうくらい飲んじゃうのがダメなんであって……」
「まあ、酒屋で働いている委員長的には、難しい問題だよな」
「うん……。ストレス発散にはいいけれど、体にいいかというとね……」
今俺たちは、京都自治区の街中を晴明神社へと向けて歩いている。
もう日が沈み辺りも暗くなっては来ているけれど、和風ファンタジーな世界観っぽく、赤い灯篭みたいなのが通りには並んでいて、足元は明るい。
仮に灯篭が無いとしても、ぽわっと光る精霊だか妖精だかがふよふよ漂ってる幻想的な場所なので、真っ暗という状態にはならないらしいが。
なんでこんな時間にわざわざ神社に向かっているかといえば、白を連れていきたいからだ。
折角の親子の再会なんだし、サクッと会って即帰るなんて寂しい事はさせたくないし、やっぱり一晩くらいは必要だろうと考えたんだ。
「わぁ……この雰囲気、久しぶりなのです」
「昔から京都はこんな風だったのか?」
「はい。とはいっても、もう少し陰陽師っぽい方々が多かったので、私はコソコソと歩いていたのですが」
「コソコソと?」
「半妖が見つかったら、安倍晴明の娘とは言えど、最悪払われるかもしれなかったのですよ」
「怖いなぁ……」
玉藻さんは、本体は封印されていて、今外にいるのは分体だそうだから、攻撃された所で大したことは無いのかもしれないけれど、いくら長生きとはいえ、完全に少女って背格好の白はなぁ。
どれだけキツネ耳とキツネ尻尾と巫女服が可愛いと言っても、怪異の血が入ってるとなると、排斥したがる人間も多いだろう。
そうじゃなくたって、忌諱の目で見られたかもしれないし。
「俺から離れるなよ?この距離なら、絶対守ってやるから」
「はいです。ですが、今の時代は、陰陽師ももう殆どいませんし、昔と違って私もそこそこ強くなったので、きっと大丈夫なのです!」
えへん!と無い胸を張る白。
可愛い……。
白いキツネ耳最高だなぁ……。
「犀果君って、本当にキツネ耳好きなんだね」
俺が感慨深く白の頭を撫でていると、委員長がそんな事を呟いた。
「誰かから聞いたのか?好きだぞ。すごく」
「聖羅ちゃんがよく言ってるよ?学園の生徒で、知らない人いないんじゃないかな?」
「そんなに俺の性癖が広まってるのか……?」
「あと水着は、ビキニより競泳タイプの方が好きとか……」
「ぐ!恥ずかしいのに、その通りだから否定できない!否定すると俺が俺を否定することになる!」
「そんな重い話なの!?」
小粋なトークを挟みつつ、とうとう辿り着きました晴明神社。
相変わらずクソデカ式神が護っているこの神社に、目的の人物……人物って言っていいのか?
あのクリーチャーがいるわけだが……。
「正直さ、アレに会うのって、心の準備必要だよな……」
「会話していると、心の何かがゴリゴリ削れていくよね……」
踏ん切りがつかず、中になかなか入って行けない俺と委員長。
それを見て、安倍晴明を良く知らないリコとアルテミスが戦慄している。
「そんなに正視に耐えない相手なのれす……?」
「リリアたちがうるさかったから、逃げるためにこちらについてきましたが、私はもしや選択を間違えたのでは……?」
「悪い人では無いのです……。気持ちは悪いですけど……」
フォローになっていないフォローを白がする。
まあな……。
境内を抜けて、賽銭箱の前まで辿り着いた俺達。
よし……やるか!
「前回来た時は、ここでお祈りしたら晴明さんがいる空間に飛ばされたから、皆も気をつけてな」
「気を付けてって……」
「覚悟してから行かないと、色々ショック受けるかもだろ?」
「まあ、そうだね……」
何か諦めた表情の委員長。
恐らく俺も同じような表情なんだろうな。
「うぅ……久々で緊張するのです……」
「安倍晴明とは、一体どんな化け物なのか……シオリ先輩様とどちらが強いのでしょうか……」
「行きたくない気もするのに、チラッとでも見てみたい……これが怖い物見たさという感情なのれす……?」
俺と委員長よりも、ある意味緊張度が高そうな白とリコとアルテミス。
この3人がどんな反応をするかくらいしか、俺には楽しみが無い。
「そういや、ソフィアさんは大丈夫ですか?」
『ワシは、この時計から出んぞ!相変わらずこの辺りはゾワゾワして怖いんじゃよ!』
「あ、はい」
念話で不参加を宣言する大精霊を置いて、俺達はお祈りを始めた。
そしてやって来たあの部屋。
畳が引かれた広間がどこまでも続くココ。
そこにいつの間にか立っていた俺達。
今回は、無事に俺以外のメンバーもこれたらしい。
「……ひぃさしぶりぃであるなあ!」
そこに、彼はいた。
相変わらずの和製ピエロみたいな絡繰り人形へと変じた安倍晴明。
それが……。
「縮こまっているのれす……」
体育座りしていた。
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