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駅で列車から降り、そこから舗装もされていない森の中を只管歩いて、やっとの思いで京都自治区へと辿り着いたのは、もう夕方になってからだった。
京都周辺は、式神が妖怪をボッコボコにしていたので、別に戦闘で時間を食った訳じゃ無い。
ちょっとね……。
運動不足気味の人と、幼女がいるからね……。
「着きました!久しぶりの我が故郷です!」
「いえ、リリアの故郷は月れすよ?」
「記憶に殆ど無いので京都です!」
「月れす。譲れないれす」
「俺の頭の上で議論しないでくれ」
「やはりそのボディ以外は、私の方がオリジナルより優れているのでは?私は全く疲れていませんし」
「それは貴方が飛んでいるからです!歩いてから言ってください!」
食べ歩きばかりしていて、運動を殆どしていなかったせいか、早々にバテて俺に背負われたリリア。
そして、最初から俺に抱っこされてたアルテミス。
早々に歩くことを断念したふよふよ浮き始めたリコ。
彼女たちが、あーだこーだと仲良さげに揉めていたり、張り合って俺に背負われるのをリリアが我慢して歩こうとしたのにすぐダウンしたり、それはもう大変だった。
兄弟3人くらい居たらこんな感じなんじゃないかな?って感じ。
「犀果君も大変だね」
「いやいや、こんなの全然でしょ。ちょっと移動に時間かかっただけだもん」
「それだけ世話焼いてそう言えるなら、良いお父さんになりそうだね……」
「娘3人か……楽しそうな家庭だな……」
あ、でも俺の場合、婚約者いっぱいいるから、もっとぽこぽこ子供増える可能性も高いのか?
それは……楽しみなような……不安なような……。
9:1で楽しみだな!
「それはそれとして、リリアたちの義父さんに会いに行かないとなぁ。元気にしてるかね?」
「私が栄養管理やお酒の節制をさせていないのが少しだけ不安ですけれど、まあ、大丈夫だと思いますよ?とても優しくて、理性的な人なんです!」
そう笑顔で自分の義父を評価するリリア。
さて、どうなっている事やら……。
「だが、天皇様も酒にだけは弱かったはずだが……」
「父さん、今はそっとしておこう……」
侯爵親子がそんな事をヒソヒソと言っているけれど、俺はノーコメントで。
「やぁ、リリア……。久しぶりだね……」
「義父……さん……?」
リリアさんが持っていた合鍵で入った天皇様のお宅。
その中で、当の天皇様は、病人のように布団の上に居た。
「どうしたんですか!?いったい何が!?」
事と次第によっちゃ、即聖羅案件か?
「いや、なに……ちょっとね……」
「隠さないで下さい!どうしてこんな……!」
1日2日寝込んでいたという感じではない。
最低でも1週間は、この布団を中心に生活していたように見える。
お世話する人間だって、リリアさんがいなくなってからは、息子夫婦が定期的にやってくるか、他の京都自治区の人間が定期的に家事に来る程度で、常にいる訳でも無いだろうに。
「……そうだな。折角帰ってきてくれた娘に、こんな姿で、何も無かったと言った所で更に心配させるだけか……」
そう言って、弱弱しい笑顔で語り出す天皇様。
「いや、先週久しぶりに痛風の発作が起きてね……。あまりに痛くて起きて歩くのすら殆どしていなかったら、歩き方を忘れてしまって……」
「はいはい、解毒しましょうねー」
とりあえず、てめぇの尿酸値を下げてやんよ。
ってか、痛風の薬渡しといたよな?
食生活を改善して、運動しておけば、そうそう発作も起こらんって聞いたんだけど……?
それについては、リリアさんにもちゃんと伝えてあった。
「……義父さん、まさか……!」
リリアさんが、ハッとしたような表情になって、台所の方へと走っていった。
なんだろうか?
って思ってたら、すぐに戻ってくる。
「やっぱりビールの空き缶が大量にゴミ置き場にありました!義父さんは、プリン体が入ってない焼酎しか飲んだらダメと言っておいたではないですか!」
「だってねぇ……。リリアがいないと、ついつい塩っ辛いものばかり食べたくなって、そうなると焼酎よりビールの方が合う気がしてねぇ……」
「だってではありません!」
思ったよりダメな感じだった。
「リリアさん、こればっかりは、仕方がないかもしれないよ。酒の好みは、人から理性を奪うからね」
「あまりに酒が手に入らなくて、失明の危険があるとわかっていながら、消毒用アルコールに手を出す人間まで世の中には五万といるからね」
そんなダメな感じのオッサンを庇いにカットインしてくる侯爵家親子。
ダメな感じ。
「リリアの義父さん、ダメ人間っぽいれすね」
「データだと、オリジナルの父と仲良くしていた頃は、ここまででは無かったようですが」
「そのデータを集めたのは私れす」
「おや?リリアと同じ顔の女の子が2人?」
天皇様が、やっとリコとアルテミスに気が付いた。
普通に考えたら、リコとアルテミスに関する事柄の方が何倍もショッキングな内容な気がするんだけど、まさかプリン体の話だけでここまで大騒ぎになるとは……。
「義父さん、この2人は、私の妹で、月から来たらしいです」
「へぇ……よかったねリリア。家族が増えて」
「はい!」
…………あれ?人口生命体を受け入れるまでの話、これで終わり?
「あ、犀果君、腰にシップも頼むよ……」
「ギックリまでっすか?」
「あぁ……。息子夫婦がいない時に地下室からビールを持ってこようとした際にね……」
オッサン……。
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