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「それで、シオリ先輩様と一緒に白川郷リゾートの食べ放題レストランを制覇しようとしていたのですが、突然リリア……姉上と一緒に京都に行くから戻って来いと言われまして」
「そうなんだ……リコちゃんも、結構食べる方なの?」
「そうですね。ただ、姉上の方が食べますが。シオリ先輩様は、その10倍は食べますし」
「10倍!?」
「少なく見積もって、です」
「あのぉ……私、そこまで食いしん坊ではないつもりなのですが……?」
「王都に来て1年で、そこまで駄肉を付けられる程の食欲がありながら、食いしん坊では無いと?」
「駄肉!?」
「これはこれで一つの女性としての美しさなのれす」
列車のボックス席で、同じ顔の女の子3人が、委員長と話している。
ちょっと頭がバグりそうになるけど、普段の俺の体験に比べれば、まだマシな状況ではある。
だって、俺が痛い思いしてないし。
今は、家を出る前に作ったツナマヨおにぎりを食べながら、水筒で持ってきたお茶を飲んでいる。
優雅な列車旅状態だ。
ボックス席がある列車は、こういうことできるから良いよなぁ……。
都会を走る列車は、ボックス席が無くて、何か食べてたら白い目で見られる怖い乗り物なんだろ?
俺知ってるんだからな!
まあ、俺の住んでいた所を走っていた列車は、動力がディーゼルって場所で、電車なんて殆ど乗ったことが無いんだが。
「賑やかなのです」
俺の隣で稲荷寿司を食べている白が、通路を挟んでワイワイと喋っている4人をニコニコしながら見ている。
あまり普通の人間が多い所が得意では無い様だけれど、実は人外が多めのこの場所では、そこそこ気安くいられるみたいだ。
「そういえばさ、白は晴明さんと最後に会ったのっていつ頃なんだ?」
「最後……うーん……相当前な気もするし、最近な気もするのです。体の半分が妖怪だと、その辺りの感覚が曖昧になるんですかね?」
「そっか。玉藻さんは、京都で巫女してたから会ってはいると思うんだけどさ、白は王都に居たみたいだし」
「1000年以上生きていると、時間の感覚なんてガバガバなのですよ」
「ガバガバかー」
「ですよー」
「確かにそうじゃなー!ワシなんて、10年位前でも、『最近』って表現してしまうしのう!」
「……なんか、1000年ってなるとファンタジーっぽいのに、10年だと、急に年寄りっぽい印象に聞こえますね……」
「ワシのこの姿をみて年寄り扱いは酷いじゃろ!?ピチピチじゃぞ!?ほれ!触ってみるんじゃ!揉んでも良いぞ!」
「酔ってますよね?もうビール控えてもらっていいですか?」
「えー……もう一本は飲みたいんじゃー……」
こっちのボックス席は、俺とソフィアさんと白が占有している。
というか、ソフィアさんが長椅子1つ使って酔いどれてて、俺と白が隣り合って大人しくしているんだけども。
この大精霊エルフ……そろそろ時計の中に押し込んどくか……?
零れ落ちそうな胸が目に毒だし……。
因みに、侯爵とお兄さんは、前のボックス席で静かに酒とツマミを楽しんでいるようだ。
静かだから分かりにくいけど、かなり酔っぱらってるなあれ……。
もう遠くから委員長の顔見ながらニッコニコでガバガバ日本酒飲んでるし。
ツマミも食べようとしているけれど、口と手は動いているのに、指がツマミを掴めていないことに気が付いていない状態。
既に末期だ。
アルコール解毒してやろうかな……?
「晴明さんといえば、この前会ったよな委員長?」
「てふ子様の像のアレね……」
安倍晴明で思い出したけれど、俺達は、この前あの絡繰りに会ってるんだよな。
割と気軽に動けるみたいなのに、王都にやって来ようとは思わないんだろうか?
来ているのに、人々が気が付いていないだけかもしれんが。
「てふ子が何なのです?」
「大魔神てふ子ってでっかい像が、実は安倍晴明が作ったロボットみたいなのでさ、それを定期メンテナンスするために、ロボ晴明が来てたんだよ」
「あー、あの人そんな事もしてたのですね」
「あれ?知らなかったのか。てっきり父親の仕事だし、知ってるのかと」
「あんまりあの人と話したことが無いのです。人間の頃は、かなりカッコよかったですけど、肉体を置き換えてからは……」
そう言ってから、ちょっとだけ言い辛そうに窓の外へと視線を移す白。
「……単純に、気持ち悪いのです……」
「「あー……」」
俺も委員長も、父親が娘に色々言われているとなれば、ちょっとは庇ってやりたくなる気はあるけれど、実際にアレを知っているせいで、納得しかできない……。
これは、思春期に女の子が、「私の服をパパの服と一緒に洗濯しないで!」と言うのとは訳が違う。
純粋なるクリーチャー相手に持つ印象と同質なものだ。
だって、本人もワザとキモくして印象に残るようにしてるっぽいもん。
それでも、もし面と向かって娘にキモイと言われたら、普通の男親は、絶望するか、キレ散らかした後に絶望するかのどっちかだろう。
もし俺が言われたとしたら、家に帰るまでは気にしない振りをして、自分の部屋に入ったら、暫く部屋の隅でうずくまったままになるくらいのダメージを受けるな。
「でも、確かに偶には会いたいものなのですよ。何と言っても、父なので」
「そうですね!私も義理ではありますが、義父さんに会いたいです!妹2人の紹介もしたいですし!」
父親の話題に反応してリリアさんも入って来た。
うんうん。
こういう風に娘に言われたら、どんな絶望の淵に居たとしても、男親は復活できるんだろうな……。
俺にはわかるよ……。
「はぁ……うちの娘が喋ってるな……なんと尊い……」
「父さん……あの瞬き見てよ……もう愛が溢れてる……Eyesだけに……」
そんな酔っぱらい家族の会話を聞いて、ちょっと表情が引きつっている委員長に同情しながら、俺達はまたしばらく列車に揺られていた。
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