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それは、とても天気の良い日の、昼食後の出来事だった。
このクソデカい家に住んでいたり、ほぼ住んでいるレベルで遊びに来ている者たちが、たまたま皆用事があって出かけているタイミング。
残っているのが、俺と、AIメイドの3人(アイは複数人居ても1人カウント)だけだったんだ。
「ん?」
「え?」
「はい?」
AIメイド3人が、信じられないような神業プレイをしながら、最大4人で大乱闘が出来るゲームをやっていたのに、3人ともが同じタイミングで何かに気が付いたのか声を上げた。
因みに俺は、ここまでの全試合でマップ端に逃げることしかできていない。
「どうかしたか?」
勝つためであれば、バグ技も平気で使うこの3人が、揃って操作を忘れてボーっとしている。
(もしや、今なら俺でも勝てるかもしれない!)
そう思いつつも、
(いやまて……こいつら3人ともがグルになって、俺を罠にかけようとしている可能性もある……!ここは見に回る!)
という結論に至り、結局マップ端で挑発ポーズを繰り返すだけの俺。
「……犀果様、緊急事態です」
「緊急事態?」
あの無表情のアイが、信じられない物を見たかのような表情で俺に向き直った。
「ますたぁ……あのね、アルテミスの体が、培養カプセルからロールアウトしたみたい」
「そうなのか?じゃあ迎えに行くか。あいつも、こっちにきて遊びたがってたしなー」
「うん……でも……」
イチゴも、何故か珍しく歯切れが悪い。
なんというか、居たたまれないというか、認めたくない出来事が起きたような感じ。
「マスター、アルテミスのアバターなのですが、あのAI、アホみたいに設計段階で拘りまくったせいで、製作を始めたのが割とつい最近なのです」
「へぇ、そうなのか」
「最近過ぎて、本来であれば、まだまだカプセルから出てこれるようなタイミングじゃ無いのです」
「えっ」
ピリカも、普段のあざといロリ巨乳キャラみたいなキャラ付けが所々剥がれて、機械的なAIっぽい感じの表情になっている。
これは、相当な事態が起きているらしい!
「よくわからないけど、助けが必要な状況なのか?」
「……恐らく……いえ……必要無いといえば無いのですが……行きたくない気もしますし……」
「なんだそれ……?せっかく体ができたんなら、歓迎してやろうぜ?」
「それは……本来であれば歓迎してあげるべきなのでしょうが……」
「いちご……どうリアクションして良いかわからない……」
「上級AIがここまで馬鹿な真似をするなんて思わなかったのです……」
この3人が揃って唖然とするような出来事が起きているなんて……。
逆に見てみたくなるじゃないか!
「あれ?そういえば、その培養カプセルってどこにあるんだ?エルフの集落にはあった気がするけど、それ以外だと、アルテミスが管理している月の施設にあるのしか俺知らんぞ?」
「ご存じありませんでしたか?この屋敷にも、既に培養ルームが完成していますよ?」
「ご存じありませんでしたし、培養ルームって響きがちょっと怖いんだが?」
バイオなハザードを起こすために存在していそうなネーム。
まあ、アイたちが管理している分には大丈夫なんだろうけど……。
「アルテミスに、その培養ルームの中のカプセルを一部貸し出していたのですが、そこから先程アルテミスのアバターの排出シークエンスが始まり、今しがた転がり出てきた所ですね」
「転がり出るのか人造の体の完成時って」
「いえ、普通は転がり出たりしませんよ?」
「つまり、今のアルテミスは、普通じゃないのか……」
これは、急いで行かなければいけないだろう。
俺は、ちょっと渋る3人を急かして、その培養ルームとやらへと向かった。
節電のために、一度も勝てなかったゲームの電源はもちろん落として。
屋敷の地下にあったその部屋は、俺が一度も来た事が無い区画に存在した。
前に立つと、近未来的な自動ドアが「プシューッ」っと音を立てて開く。
これ、絶対雰囲気で音が鳴るようにしてるだろ?
部屋の中に入ってみると、不思議な臭いがする。
海の臭いと、アルコールの匂いと、オムレツの匂いが混ざったような……。
え?なんなのこの臭い?
人生でこんな不思議な臭い初めてすぎて怖いんだけど。
「アルテミスが使っていたカプセルは、最奥に位置している物です」
「……なんかさぁ、パッと見ただけでも、部屋の中のカプセル中にアイがいっぱいいるなぁ……」
「カプセル内では、常に私やピリカ、ストロベリーのスペアがストックされていますので。量産型の私も続々とロールアウトさせないといけませんし」
「見る人によっては、トラウマになりそうだ……」
アイの案内で、カプセルだらけで多少不気味な雰囲気の部屋の中を進む。
すると、「ピチャッピチャッ」と、水が滴る様な音が聞こえてくる。
ホラー的不気味さと、さっさと拭かないと床が傷みそうな心配さを兼ね備えたその音に、俺の鼓動が早くなる。
本来のロールアウトよりかなり早い段階で出てきた、人工生命……。
そんなの、俺のイメージだと、かなりグロイものなんじゃないかって思うんだけど……。
こう……皮膚が生成されてなかったり、体のパーツが無かったり……。
とはいえ、アルテミスが助けを求めているなら、何とかしてやりたい。
なんだかんだで、一緒に暫く仮想世界で過ごした仲だし。
そんな思いで足早に向かったその先に、彼女はいた。
「ふ……ふふふ……おまたせしたのれす……!」
不敵な笑顔を浮かべ、何かの液体でベチョベチョになり、一糸まとわぬ生まれたままの姿で、生まれたばかりのトムソンガゼル並みにプルプルと立っている……。
幼女が。
「小っちゃくない?」
主に、肉体年齢的な意味で。
「もっと……おおきくなってから出てくればよかったんれすけど……。まちきれなくて……」
「「「何をしているんだ貴様は?」」」
とうとうアイだけではなく、イチゴとピリカもキャラが全部外れて、AIっぽい話し方になってしまった。
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