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「おお……これが砂利を踏みしめる感触か!!!!」

「玉砂利ですね。見た目も良いし、踏むと音が鳴るんで防犯目的でも使われるらしいですよ。あと、雑草が生えにくくなる効果もあるとかで、すごく便利だって聞きました」

「知ってる!でもよ、やっぱり知識として知っているのと、実際に生身で体験すんのはちがうよなー!あっちの世界にももう少ししっかりした玉砂利敷いてやろうかな?」

「いいんじゃないですか?あっちの世界なら完全にリスティ様のやりたいようにしていいんでしょうし、いっその事完全リフォームしてみては?」

「おいおい……お前天才か!?やっちまおうかなー!?」


 ただ神社の境内を歩いているだけ。

 それだけなのに、リスティ様は大喜びだ。

 やっぱりあの、外部と殆ど交流が無い場所で引きこもっているのは、神様であろうとも辛いようだ。

 目に映る何もかもが新鮮なようで、隣にいるこっちまで楽しくなってくる。

 本当に、今度召喚する時は、もっと計画を立てて色んな所を見せて上げないとな……。


「お!?これ、セミの幼虫が入ってる穴だよな!?ここに水入れたら出てくるんだよな!?」

「あ、良く見つけましたね?これは、知っていても案外見つけるの難しいんですけど、流石女神様ってとこですかね」

「今は、普通の女の子だからそんなでもねーけどよ!こういう豆知識みたいなのを実際に活かす機会が欲しかったんだよなー!あっちの世界だと、そういうチャンス皆無だからよー!」

「あー、ですよねー。因みに、あそこにはセミの抜け殻がありますよ」

「おおお!マジか!すげぇ!本当に抜けてんなぁ!」

「……あ、こっちのは、まだ羽化してない奴ですね。待機してた穴の中に雨水でも入って、仕方なく出て来ちゃったとかですかね?」

「生きてんのか!?おお……おおお!」

「まあ、この時間帯にここに出てきてるセミの幼虫は、大抵カラスとかの鳥に食われちゃうんですけどね」

「だよな……そう言う世界だって事にしてっからしかたねーんだけどよー……」

「可哀想ですけど、それによって他の生き物が生きていけるんですから、必要な犠牲ですよ」

「そうなんだけどな……やっぱり直接見ちまうとな……」


 セミの幼虫だけでここまで興奮できる奴は、実際にこの世界で生きている人間だとしても早々居ないだろう。

 当たり前に接することができない程の存在だからこそ、そのありがたみが分かるんだ。

 俺も、前世でよく食べていたコンビニのメニューがいきなり店頭に並ばなくなって、暫くしてから「美味しくなって復活!」って書かれて再度並ぶようになったと思ったら、ものっそい安っぽい物になっていた時に感じたよ。

 世の中には、当たり前なんてものは本来ない。

 全ての物が、いつ失われるかわからないギリギリの状態で存在しているんだ。

 世界って言うのは、儚いんだ。

 チキン南蛮!てめぇの事だ!

 一枚肉から、ちっちぇ一口大の安い肉になりやがって!


「……ふふっ」


 俺が諸行無常を感じていると、隣から笑い声が聞こえる。

 見れば、リスティ様が俺の顔をまじまじと見ながら、何故か笑っていた。


「どうかしました?」

「いや、いきなりこの世界を管理しろって言われた時には、もう即行世界をぶっ壊してやろうか!ってブチ切れてたんだけどな……。こうやって、ちゃんと頑張って続けてきてよかったなって思ってたんだよ」

「怖い事言わないで下さいよ……」


 転生する前に、転生先が崩壊の危機だったのか……。


「悪い悪い!まあ、これからもちゃんとこの世界を護って行ってやるから、許してくれ」


 そう言いながら、何故か俺の頭を撫でるリスティ様。

 話し方は、男勝りというか、ヤンキーっぽいのに、その手はやけに優しくて、ついついいつまでも撫でられていたくなる魅力があった。

 もしやこれが……何故か犬とか猫を魅了する人が使えるという神のナデナデ!?

 まあ、神だしな。


「でもよぉ、お前もよくこの世界でそれだけしっかり生きていくつもりになったよな?」


 そんな俺のちょっとセンチメンタルな気持ちとは裏腹に、すぐにヤンキーに戻るリスティ様。

 あのさ?そんないきなり印象変えられると、俺のこのピュアな少年心がビックリするから止めてもらえます?


「どういう意味ですか?」

「だってよ?いきなり超常存在にぶっ殺されてすぐにこの世界に転生だろ?普通そんなの、どれだけ優遇されたとしても、精神的なショックで碌な生活できねぇだろ。オレも最初、お前はすぐに自殺しちまうんじゃねぇかって心配してたんだぜ?」


 言われてみればそうかもしれない。

 でも、俺の場合は、割と最初から色々受け入れてたからなぁ……。


「転生する直前に、唯一の親友……あー、多分そいつも神様だと思うんですけど、そいつと会話できましたし、何より両親が俺をすごく愛してくれましたからね。前世の両親には、その親友が何かしら挨拶というか、色々伝えてくれるって言ってましたから、アレで一応のけじめがつけられたんだと思います」

「……そうか」


 そう言って、少しの間静かになるリスティ様。

 俺に何を言うか考えているのか、もしくは何も言わずに一緒にいてくれているだけなのかわからないけれど、そのまま数分、2人で静かに並んで立っていた。


「……っと、そろそろ時間だな」


 リスティ様が口を開く。

 言われてみれば、ゆっくりと神社の敷地内を歩いていただけだけれど、結構時間が経っていたらしい。

 もっと色々な場所に連れていきたかったけど、それはまたの機会にするか。


「楽しめました?」

「なかなか良かった!やっぱり外に出るってのは重要だよなー!」


 心からそう思ってくれているのが分かる表情で、リスティ様はそう叫ぶ。

 これだけ喜んでくれたなら、案内した俺も本望だ。


「なら良かったです。次こっちに召喚する時は、もっと色々計画立ててからにしますね。1時間で案内しないとですから」

「楽しみにしてるぞ!あと、もう少しこまめにお祈りしてこっちの世界にも来いよ!剣ももっと出せ!」

「それは……どうかなぁ……?」

「本当に剣出せよ!折角いっぱい作ったんだから!」

「えー……」

「おーまーえーよー!!!」


 俺の頭を小突き始めたリスティ様。

 それが中断されたと思ったら、また俺の頭を撫で始めた。


「でもまぁ、これだけは改めて言っておくけどよ」


 俺の顔に自分の顔を近づけながら、ニカっと笑って、彼女は言う。


「この世界に来た最初の奴がお前で、オレは嬉しいぞ」


 その言葉を最後に、召喚された時とは逆に、光の粒子になって消えて行くリスティ様。

 最後の笑顔が、俺の脳裏にしばらく刻み込まれて、それが消えてしまったのが少し……とても寂しくて……。




「まあ、普通にこっちくれば会えるんですけどね」

「ったりめーだろ!お土産持ってきたか!?」

「さっき帰って行ったばっかりじゃないですか……。おやつの時間なんで、社務所の冷蔵庫で冷やしておいたプリン持ってきました。俺の分が1つと、白にはもう3つくらい渡してあるんで、残りは全部リスティ様が食べていいですよ」

「いいのか!?このプリン、何故か酒に合うんだよなぁ……」

「酒とプリン一緒に摂取する人、リスティ様しか知らないんですけど俺」

「いやいるって!合うって!ってかオレ神だし!」


 また拝殿に戻って祈ることで神の世界へと戻ってきた俺は、プリンを食べながら、次の女神召喚の儀(あそぶやくそく)についての話し合いをした。


 うーん……やっぱりリスティ様は、酒飲んでた方が様になるなぁ……。

 肉体年齢を俺と同じくらいにすると、残念年上お姉さんじゃ無くて、ただの美少女になってしまうから、緊張するんだよなぁ……。





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