546:
夏場の清楚な女の子と言われれば真っ先にイメージされる様な白ワンピースに、少しフリフリを追加したような服を着ている少女が目の前にいる。
まあ、ちょっと引きこもり気味の女神様なんだけど……。
リアルでこの服を着こなせるほどのスタイルと美貌を持った人間なんて早々いないから、逆に新鮮だ。
だけど落ち着かないのか、目線は泳ぎ回り、髪の毛を指で弄っている。
そりゃそうだよね?
だって15~6年外に出てなかったのに、いきなりスペックを人間並みに落としてから現世に来ちゃってるんだもん。
そりゃ落ち着かないよ。
俺だって落ち着かないもん。
目の前に、特大の厄ネタが転がって来たんだから。
何度でも言う!そんな大事だと思ってなかったんだ!
軽い気持ちで言ったんだ!
それはそれとして、リスティ様にはお世話になっているし、それが無くてもこの心細そうで、にも拘らずワクワクしているっぽい女の子をほっぽりだす気にもならない。
折角この世界に来たんだから、目いっぱい楽しんでもらわなければ!
とはいえ、今日リスティ様が降臨していられるのは、残り59分しかない。
何をしてあげればいいんだ!?
リスティ様が喜ぶことって何だ!?
剣?現世でまで鍛冶をさせろと?却下!
酒?人間の女の子にまで身体能力を下げている上に、俺と同じくらいの肉体年齢の女の子に飲ませろと?却下!
そもそも、今俺たちがいる場所は神社。
神様の家ともいえるこの場所を案内して、果たして彼女は喜ぶんだろうか?
かといって、街まで行くには遠い。
テレポート……一番時間が節約できるルートを考えたとしても、ここから家まで走って、そこから学園の廃教会に飛んで、更にそこから街だからなぁ……。
俺一人なら駆け抜けられるけれど、普通の女の子になってるリスティ様にそれは無理だろうし、抱き上げて走ったとしても衝撃を完全に消すことはできない。
ボロボロになっちゃうだろうなぁ……。
よし!
もう知らん!
本人に聞こう!
「リスティ様、何かしたいことあります?できる範囲で付き合いますけど」
「したい事?あー……あんま考えて無かったからなぁ……。とりあえずこの世界に呼んでもらえりゃ、なんとかなんだろって……」
「そうですか……」
流石リスティ様!
後先考えない行動力は正に神!
「ただ……」
だけど、神はそこでは終わらない。
だから質が悪い。
「お前と散歩できるだけでも、オレは別にいいぞ……?生身でこの世界体験するの初めてだしよ……」
そんな事を顔を赤くして上目遣いでこの特A級美少女状態で言われれば、俺に選択の余地なんて無い。
「わかりました!今日の所は、とりあえずこの辺りを散策しましょう!1時間しかありませんし!」
「お……おう……!」
よし!これ以上考えたってしょうがない!
今日が時間切れで堪能しきれなかったとしても、明日以降にまた楽しんでもらえばいいんだ!
って思って歩き出そうとしたのに、何故かリスティ様が動かない。
なんで?
「……な、なぁ……」
「どうしました?」
「折角だし……手……つなぎたい……」
そう言って手を出しだしてくる女神様。
本当に質が悪い。
美少女と手をつなぎながら歩く神社の境内。
こんな所を聖羅たちに見られたら、一体何を言われるだろうか……。
いや、多分聖羅は、俺の顔を数秒見ただけで「……成程」って勝手に全ての事情を把握するんだろうけれど……。
一番やばいのはリンゼだな。
アイツだけは、俺の隣にいるのが女神様だってわかるだろうし……。
ってか、リスティ様側も、色々やらかして自分に世界を運営するなんてクソ面倒な役目を押し付けたリンゼに対して未だにキレているかもしれないし……。
まあ、とはいえ、今日のこの神社は、敷地内に関係者以外立ち入り禁止のお休み状態。
関係者も、それこそロリキツネ耳人外美少女巫女しかいないから、案外ここでリスティ様を召喚したのは正解だったかもしれない。
誰にも見られずに済みそうだ。
「はわ!?」
見られずには済まなかった。
社務所から出てきたロリキツネ耳人外美少女巫女が固まった。
ギギギっと油を差していない機械みたいな音がしそうな動きでこちらを指さして。
「白、これには深い訳が……」
「神気が半端無いのですうううううううううううううう!?」
俺が思っていた内容とは違う要素で驚いていたらしい。
耳と尻尾の毛がすごい逆立っているように見える。
可愛い。
「ひぃぃ!?」
そして、その神気が半端ない女神様の方も、引きこもり続けた代償でコミュ障気味な為、俺の背中に隠れてしまった。
アンタ……そんな可愛い声で悲鳴上げられたのか……。
両者動かなくなってしまったので、仕方なく2人とも引っ張って社務所内へ。
そこでお茶を入れつつ、席に座らせた後も「アワワワワワ……」と言っている白と、俺が作業をしている間座らせようとしたのに、俺の背中から離れずついて回る女神をテーブルにつかせて話し合いをすることにした。
「……女神……様……なのですか……!?」
「そ……そうだけどよ……文句あんのかよ……!」
「いえ!?いいえ!?許してください!」
「あ……!ちがっ……!別にオレも怒ってるわけじゃねぇから……!」
一方は、女神相手だとわかって恐慌状態。
もう一方は、コミュ障。
地獄か?
仕方ないので、俺が白に事情を説明した。
それはもう簡単に……。
「つまり、女神様……リスティ様にこの世界を楽しんでもらえればいいのです?」
「まあ……平たく言えばそうだな。ただし、本人がまだこんな状態だから、あんまり人の多い所は難しいし、時間も1日1時間しかない」
「なかなか難しい問題なのです……」
「……」
落ち着きを多少取り戻したらしい白と、借りてきた猫のようにぬるめのお茶を飲んでいるリスティ様。
とりあえずは、会話ができる状態になっただろうか?
この騒ぎで10分ほど時間を浪費してしまったけれど、ここで白に事情を説明できたのは、案外悪くない展開かもしれない。
今この神社の敷地内にいるのは、俺とリスティ様、そして白だけなんだから、彼女にさえ協力してもらえるのであれば、堂々と行動できるし。
「というわけで、俺とリスティ様は、これから1時間弱適当にブラつくから」
「わかったのです……」
「悪いな……オレのせいでびっくりさせちまった……」
「いえ!?大丈夫なのですよ!むしろ、あまり普通の人間として過ごせない身としては、気持ちがわからないでもないのです……」
「……そうか、お前も……」
何故かちょっとだけ仲良くなっている雰囲気の白をその場に置いて、俺とリスティ様は、社務所の外へと出た。
まだまだ外は暑い。
今年は早くからかなり暑くて、夏!って感じの気温だったけれど、8月の後半になってもそれは変わっていない。
しかも、今日は晴れ。
川とかプール、海で泳げたら気持ちいいだろうなぁ……。
残り40分ちょっとでその準備をするのは難しいけれど……。
やっぱり散歩しか無いか。
そんな事を考えながら歩いていると突然、手に感じていたリスティ様の温もりが無くなった。
何かと思えば、今度は腕をしっかりと組まれた感触が来る。
驚いてそちらを見れば、不安そうなリスティ様の顔が見えた。
「……悪い。こうやって誰かの暖かさを直接生身で感じるの初めてでよ……。手繋ぐだけじゃ物足りないというか……。だから、こうしてていいか……?」
「あ、はい」
本当に神は質が悪い。
感想、評価よろしくお願いします。




