545:
神の現世への降臨。
それは、古来より神話のネタとして使われてきたテーマであり、同時にとても厄介な出来事だ。
だって神だもん。
神が来ちゃうんだもん。
そりゃ何かとんでもないことが起きるよ。
それが、人々にとって良い事であれば問題はないんだろう。
だけど、もし人々が困る類のものだった場合、その規模は、軽く天災クラスのことになる。
だって神だもん。
神がやらかすんだもん。
まあ、神様が降臨する類の神話にも色々あって、本当に人間のためだけにやってきてくれるという人間本位のものから、人間を罰するためだけに降臨するというやっぱり人間を特別扱いしている、人間が考えたんだろそれってものまで様々だ。
中には、人間の男に惚れちゃった神♂が、その男の子供生みたいからって、TSするだけでは飽き足らず、動物に変身してレイプしたりなんていう頭がおかしいのもある。
アイヌ民族の伝承だと、動物は皆神様で、この世界に遊びに来ているという認識らしいし。
宗教によって、神様がこの世界に降臨するというイベントの種類は、本当に多岐にわたる。
では、リスティ様が降臨する場合はどうだろうか?
本人……本神?は、多分遊ぶことしか考えていない。
1日1時間の制限付きとはいえ、俺がリンゼに爆殺されて転生してからの10年以上閉じ込められていたあの林と竹林と鍛冶場付きの小屋という限定空間から出てこれるんだ。
恐らく気分は、すでに完全にパーリィナイだろう。
それはいい。
喜んでる女性は大好きだ。
大人の女性が子供のようにはしゃいでいるのは大好物だ。
でもだよ?
神様なんだよ?
しかも、この世界を運営する神様。
創生の神ではないけれど、世界神だ。
そんな方がこの世界にやってきたら、確実に何某かのてんやわんやが起きる。
俺の第六感がそう言っている。
他の五感もそう言っている。
当初俺がリスティ様を召喚できる剣がほしいって言ったのは、前世の世界で、リンゼが割と普通に人間として社会に溶け込み存在していたと本人から聞いたからだ。
リスティ様でもそういう事ができるんじゃないかと思って、だったら剣でそれができないかと言ってみただけ。
できないならできないで、新しいガチャチケを無理に使わされることもなくなるかもしれないし、できるならできるでリスティ様が喜びそうだなと軽い気持ちで言った。
だけど、リスティ様の言葉から考えるに、この世界を運営している神様が降臨するのは、俺が考えていたよりもかなりの大事らしい。
それを無理やりに可能にしたらしいリスティ様だけど、多分ぶっつけ本番のノリと勢いでやらかしているんじゃないかって気がするんだ。
だって神だもん。
神様ってそんな感じだもん。
そんなリスティ様が、俺に何の説明もせずあの神の世界から追い出して、しかも何かの力でチケットを使わせるほどのウッキウキ状態。
もう、これは止められない。
止めるわけには行かない。
止めたら多分あの神様泣いちゃう。
世界を運営している神様が本気で泣いたらどうなるんだろうか?
涙が海になって大洪水的な神話ができたりしないだろうか?
わかんねぇなぁ……。
そして、この世界にリスティ様を召喚したとして、そのリスティ様に何かあった場合もどうなるんだろうか?
分霊だとか分身だとかだとしても、神様は神様だ。
召喚の内容的に、そこは絶対だ。
それに万が一にでも危害が加えられた場合、やっぱり涙が海になって大洪水とかにならないだろうか?
いや、そこまで行くともう地球が破裂したりするかもしれん……。
何より怖いのが、俺が神の世界から追い出される寸前に言われた「頼むぞ」の言葉。
何を?
何を頼まれたの?
ここしばらく俺以外と話してないとかなんとかも言ってたよな……?
うーん……。
話し相手?
遊び相手?
ボディーガード……?
どれだとしても、なかなかにスリリングな状況だ。
俺のせいで世界がやばい?
うーん……うーん……。
「まあいいか。ほい召喚っと」
俺は、考えるのをやめた。
今この神社は、お休みとなっている。
狸たちは、白川郷リゾートに作った神社を本格的なものにしようとあっちでせっせと作業中らしくて、今こっちの神社にいるのは、社務所で電話番をしているアルバイトの狐狗狸 白さんくらいだ。
アルバイトながら、狐耳ロリ巫女のため、雰囲気としては100点満点中200点をつけざるを得ない。
あれがあの安倍晴明ロボの娘なんてなぁ……。
話が逸れた。
なにはともあれ、今ここでリスティ様を召喚したとしても、無関係な誰かに目撃される心配は殆ど無い。
びっくりするのは、腕時計の中にいるソフィアさんくらいか?
なら大丈夫。
いけるいける。
多分!
俺が召喚しようと念じた瞬間、リスティと遊ぶ剣が光り輝く。
この剣の名前もなんとかならんかったのか……?
神様を召喚できる剣とか、国宝どころか世界中で伝説の存在として祀られるクラスの遺物だろうに、名前のせいでしょぼく感じてしまう……。
剣の光が、剣先から徐々に溢れ出し、それが人の形になっていく。
段々と物質化していくその光が収まると、そこには、白くて少しフリフリ多めのワンピースを着た女の子がいた。
歳の頃は、俺や聖羅たちと同じくらいに見える。
ただ、顔はリスティ様をちょっと幼くした感じ……か?
「……リスティ様でいいんですよね?」
「お……おう……」
「随分可愛い姿になりましたね……」
「いや……大人の姿のままだと流石に降臨するのは厳しくてな……。肉体年齢をお前と同じくらいにしちまえば、ギリギリいけるっぽかったから……」
「……へぇ……」
まあ、正直、世界神が降臨しちゃった場面なんで、もっと色々言うべきことはあるんだけれど、俺の脳みそは今思考をかなり鈍らせているから、ろくなセリフが出てこないし、出そうとも思っていない。
だって……下手なこと言って怒らせたら世界がやばいし……。
「服、似合ってますよ」
「そうか!?作ったは良いけどよ!普段の俺には似合わなそうだからってお前の前でも着てなかったんだ!でもこの姿だと割といいだろ!?」
「えぇ。確実に最高クラスの美少女ですね」
「だ……だろ……?んふふ……」
この世界から、このニヘラってるかわいい女神様が退去するまで、あと59分。
感想、評価よろしくお願いします。




