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543:

「じゃあ、絢萌は私が連れていくから」

「え!?聖羅さん!?」

「急だなぁ……」


 俺と絢萌が婚約を交わしてホワホワしていたら、いきなりの聖羅来襲。

 時間的に考えて、これからパジャマパーティーという名の女子会が開かれるんだ。

 聖羅をトップとして、複数人の婚約者たちが仲良くやっていくためのすり合わせ……的な事が行われているんだと思ってる。

 聖羅たちがたまに教えてくれる内容的には、そういう感じ。


「絢萌には悪いと思うけれど、大試はこれから忙しい」

「そ……そうなんですの……?」

「そうなのか?」

「うん」


 って思ったけれど、ここから絢萌を連れていく一番の理由は、俺がこれから忙しいかららしい。

 何それ?

 聞いてないよ?

 俺、忙しくなるの?

 馬車馬の如く働かされるの?


「絢萌のために、大試がプロポーズする時間をとったけど、そもそもこんな大々的な観光地とか新幹線を作ったのに、夜に挨拶もせずにプラプラしていて許されるわけがない」

「それは……そうですわね……!」

「えぇ……?」


 誰にも何も言われずにするっと抜けてこれたから、てっきりその辺りはアイたちが受け持ってくれたのかとばかり……。


「というわけで、大試はこれからファムに連れまわされて色んな所を飛び回ることになる。絢萌は、薫子と一緒に、私たちとお泊り。一番いい部屋を取ってあるから。王子様より上の部屋」

「それはいいんですの!?」

「良い。良いか悪いか決めるのが大試だから」

「そうだな。聖羅が良いって決めたなら、良いって事だ」

「すごい意思決定速度ですわ……」


 世の中、即断即決は重要だぞ?

 特に俺たちが将来切り拓いていく事になる開拓村周辺の大自然だとな。

 反射する速度で思考していこう!


「話は終わったにゃ?じゃあ行くニャ」

「あ、余韻とか何も無しでいくのな?」

「ニャーはちょっと今モヤモヤだからそんなの待ってやらないニャ」

「え?なんでそんな機嫌悪いんだ?」

「口閉じてないと舌噛むニャ!」

「あ、はやっ」


 あっという間に俺はテレポート。

 俺の手を握っているファムの爪が食い込んで痛い。

 どうしたんだろうか?

 腹へってんのか?

 って聞いたら猶更怒りそうだから止めておこう……。


 飛んだ先は、白川郷ホテル。

 本日の夕食は、大ホールでの大宴会となっている。

 初日だからね!王子も貴族も皆一か所でワイワイと楽しんでくれ!


 うん、やっぱり俺がプラプラしている余裕無さそうだな……。


「おやおや?大試さんではないですか。来てくださったのですね」


 その声に振り向けば、和装に身を包んだソラウがいた。

 今日の宴会は、ソラウに何から何まで任せてある。

 料理長として張り切った彼女は、服装も拘ってくれたらしく、尻尾穴がついた着物をビシッと着て、大広間でライブクッキング中だったようだ。

 生後まだ1年経っていない筈なのに、その色気はそれはもう破壊力があり、ソラウが料理をしているコーナーは凄い列になっていた。

 とはいえ、ソラウの調理速度が速いため、大して待たずに列が消化されて行っているんだけれど。

 因みにソラウの隣のコーナーでは、ちょっと着崩した着物のキオナさんが、インドのスイーツを作りまくっていた。

 カレーじゃないのか……。


「調子良さそうだな」

「ダンジョン産食材の天ぷらに皆さん興味がおありの御様子です。味も保証しますよ?」

「じゃあ、俺にも一皿くれ」

「かしこまりました。天つゆと藻塩がございますが、どちらになさいますか?」

「フッ……藻塩で!」


 その方が玄人っぽい気がするし。

 どっちかっていうと甘めの天つゆを衣がふやけるくらいかけた方が好きなんだけども……。


「ではでは、後で味の感想を教えてください」


 そう言って渡された皿には、油や水気を取るための紙の上に、エビと小さめの白身魚の天ぷらが乗っていた。

 並んでいる人たちの邪魔にならないように横に避けてから、立食形式なのでそのまま食べてみる。

 エビは俺、隣のファムには白身魚だ。

 エビはやらん。

 エビはおれのだ。


 サクッ


「うっま!?あっま!」

「あっつ!あっついニャ!美味しいけどあっついにゃ!」


 美味しかったです。

 ボキャブラリーが少なくてすまない。

 頭も尻尾も食べるから許してほしい。


 そこからは、本当にあいさつ回りばかりだった。

 アル義兄さん夫妻にマル義兄さん夫妻、ガーネット夫妻。

 王子と妹(仮)様。

「なんで我々に新幹線の運転依頼してくれないんだい!?」と騒ぐ理衣んちの家族たち。

 その他もろもろの人々と挨拶をして、俺は次の場所へと向かった。



「みんなー!そろそろラストナンバーいくよ!」

「「「「美須々ちゃああああああああん!」」」」


 次に向かったドーム会場の舞台袖。

 そして今、目の前のステージでは、こけら落としライブが終わろうとしていた。

 まあ、ここからアンコールとかもあるのかもしれないけれど。


「天瀬院P、問題はありませんでしたか?」

「あら、しゃちょ……犀果さん。最後の最後に来られるという事は、この後ライブで色々ガードが緩くなった私たちをお持ち帰りして、そのままオールナイトでニッポンポンですか?」

「ちげーよ。ライブが成功したかどうか確認しに来てるだけだよ」

「そうですか……」

「なんで残念そうなんだ……」

「ありがたいことに、全て順調に進行しています。アイドルの皆さんも、こんなに大きい会場で、しかもこけら落としだなんて大役を任されて大喜びでしたから」

「なら良かった」


 アイドル物のアニメとかマンガだと、ライブ中に問題が起きて、それをアイドルたちがスタッフに代わって解決するようなイベントがよく発生するけれど、そんなトラブル、無いなら無いほうがいいだろうしなぁ……。

 てか、そこはスタッフがなんとかせーよと。

 それと比べて、このステージの運営は、量産型のアイたちが頑張ってくれているから問題ない。


「控室と裏通路にホテルから料理一杯持ってきたから、皆で食べてくださいね」

「ありがとうございます。有難くいただきます。ところで、本当に私たちをぺろりと平らげなくても宜しいのですか?」

「いいっつってんだろ。今日は疲れただろうからゆっくり休め」

「はぁ……かしこまりました……」


 ちょっとだけ不満そうな天瀬院を残し、俺がその場を後にしてファムの方に行こうとしたその時。

 舞台袖の俺に気が付いた美須々さんが、ステージからウインクを投げてきた。


 うん、アイドルのウインクは破壊力すごいなぁ……。

 ドキっとしたわ……。

 とりあえず手を振って答えたら、嬉しそうにしていたので良かった良かった。



 その後もファムと方々を飛び回り、最後にやって来たのはダム湖のホテル街。

 街っていっても、本当にやすっぽいホテルが立ち並んでいるだけで、他の観光施設なんて無い。

 だから、本来であればこの周囲が真っ暗になった時間に活気なんてある筈が無いんだけれど……。


「フィイイイイイイイイッシュ!!!!」

「なんて奴だ!10号のPEラインを切られたぞ!?」

「へっ!てめぇが下手糞なだけだろ!俺の竿とリール捌きを見ろ!」

「お前なんて一回もアタリきてねぇじゃねぇか!」

「あぁ……ネットで調べてチャンチャン焼きにしてみたけど、うめぇなこれ……」

「やーん!すごい大きいのかかってるー!」

「アンタそれ……地球釣ってるわよ?」


 暗いはずのこの場所が、釣り人達が持っていたり設置した灯りのせいで、やけに明るくなっていた。

 ってかお前ら、夜釣りしてんのかよ……?

 暗い所で釣りは危ないぞ……?


「馬鹿ばっかりニャ」

「すごい根性だよな。リンゼは多分今聖羅たちと一緒にいるはずだから、ここにはいないだろうけれど、俺と一緒に最初に来た時には、やっぱり夜でも釣りしようとしてたし……」

「よっぽど好きなんだにゃ」

「金さえ落として無事帰ってくれるなら、是非やってくれって思いはするけれどな」


 結構上位のはずの貴族たちもたくさんいるみたいだけれど、皆釣りに夢中で、今挨拶に行ったらキレられそうだったからやめておいた。

 楽しんでくれ!


 大急ぎでリゾート内を飛び回った俺たちが、ホテルにある関係者用の宿泊エリアに戻ってきたときには、もう日付が変わる頃だった。

 疲れたなぁ……。


「じゃあありがとうなファム。ゆっくり休んでくれ」

「そうするかニャぁ……。あーでも、聖羅達の話し合いにニャーも参加するつもりなんだよにゃ」

「そうなのか。でも、結局の所あの集まりに参加して何話すんだ?曖昧に答えられるだけで、具体的に教えてもらえたことが無いから、ちょっと気になってるんだよな」

「……教えないニャ。じゃあにゃ!」


 あっという間に消えるファム。

 聞き出すことはできなかったけれど、しょうがないか……。


 俺は、自分用の部屋の中へと入った。

 宿泊客たちは、初めてここにきたんだろうけれど、俺はもう何度かこの部屋に泊まっているから慣れたものだ。

 といっても、別に豪華な部屋ってわけじゃ無い。

 ちょっといい目のビジネスホテルみたいな部屋だ。

 ほぼ1ルームで、窓際に謎空間があるのと、ユニットバスじゃないトイレと風呂があるのが特徴だ。

 部屋の方は、ほぼベッドで占有されている辺りが、なんともビジホ感があっていいんだ……。

 アイが作った秘密基地とどっちに泊まろうか悩んだけど、今日はこっちにしておこう。

 秘密基地は、秘密でやってきたときに使うんだ。

 今日は、大っぴらにこっちに来ているんだから、ちゃんとどこに俺がいるかわかるようにホテルに泊まるべきだろうから。


 そう思いながら、ベッドへとダイブ!

 ふひぃ……と、自然と声が漏れる……。


「あー疲れたなぁ今日……」


 誰もいない筈の部屋に、俺の声だけが響く。

 セレモニーに、プロポーズに、あいさつ回りにと、大忙しだったぜぇ……。

 でも、充実した1日だった……。

 婚約者1人……将来的には2人なのか?

 とにかく、増えちゃったけど……。

 倫理的にどうかと思わないでもないけど、ちゃんと責任とるからセーフって事にしてもらおう!

 なんて、自分で自分に言い訳していると、俺しかいないはずの部屋の中、それもベッドの上に、ボフンっと何かが落ちてきた。

 何かと思えば、ドレスの美女だ。


「……何してんですかソフィアさん」

「……いつの間にか初日が終わっとることに気がついて呆然としとるんじゃ」


 ソフィアさんは、激しく露出の多いドレスを着ている。

 この日のために、拘りに拘り抜いて仕立てたそのドレスを披露するのを楽しみにしていた。

 ハズなんだけど……。


「どうしてもうパーティーも何もかも終わっとるんじゃ!?大試が自室に戻っとるとか計算外なんじゃが!?ワシのドレス姿を世に知らしめないのがどれほどの損失だと思っとるんじゃ!?」


 激おこぷんぷん丸である。


「いや……朝から酒飲んで酔いつぶれて、時計の中で寝てたのはアンタでしょ……」

「何故起こさないんじゃ!」

「起きなかったんですよソフィアさんが……」

「酷い!あんまりじゃ!」

「酔いつぶれて半日以上寝てる方があんまりだと思うんですが……」


 それでもまだまだウダウダいうソフィアさんをなだめかせ、そのまま再度ベッドで寝落ちさせてから、俺は床に転がり落ちて寝た。

 おかしい……。

 俺の部屋なのに、ベッドが他の女性に占拠されていて使えないなんて……。

 いや、ソフィアさんの横に寝るスペースならあるんだけど、あの格好のソフィアさんの横で寝て理性が維持できる自信ないし……。



 こうして、怒涛の日々が一旦の区切りを迎えた。

 概ね好評頂けたらしく、どこに行っても笑顔で溢れていた。

 あぁ……あの笑顔を見て嬉しく思うっていうのが、観光業のやりがいなんだろうなぁ……。

 とはいえ、やりがい搾取にならないように気をつけて行かねば。

 ホワイト企業を目指す犀果家ですよろしく。


「あぁ……最高級の絨毯だから寝やすいなぁ……」

『お休みなさいませ犀果様』

「うん、おやすみアイ……。あんまりスマホから勝手に覗くのは良くないと思うけどな……」

『初日の為、安全確認中です。お気になさらず』


 今夜聖羅や絢萌さんたちが何を話し合っているかの次くらいに気になるわ……。






感想、評価よろしくお願いします。


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>「ニャーはちょっと今モヤモヤだからそんなの待ってやらないニャ」 めっちゃ嫉妬してるファムさんキャワワ
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