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新幹線のテープカットでは、目を真っ赤にした絢萌さんが登場しただけで「おめでとう!」って声援が飛んでたり、アル義兄さんがテレビに映せないような顔をし続けていた人で大騒ぎだった。
そして、新幹線に乗り込んで白川郷リゾートの方に移動してからも、美須々さん含む人気アイドル達による出迎えやライブで盛り上がり、その後も各観光地の説明やPRなど、お客様たちは大盛り上がりだった。
一部……というか、3分の1くらいの方々は、白川郷駅について早々、ダム湖の方へと移動していったけれど……。
あのアングラーたちも、こっちのメイン観光地の方に多少は滞在してくれるように何か考えておかないともったいないかなぁ……?
まあ、ダム湖の方の宿泊施設群は、サービスも最低限なのに宿泊費用馬鹿高いから、提供する側としてはコスパがすごく高くてありがたいんだけども……。
それはそれとして、だ。
俺は現在、大きな問題にぶち当たっていた。
「なあ聖羅、俺のあの行動って、そう言う意味になるの?」
「なる」
「いやあのさ……?俺は、絢萌さんを喜ばせるための演出で色々しただけでさ……?」
「大丈夫、大試の働きで絢萌はとても喜んでいた。あとは、最後の一押しをするだけ」
「一押しって……既に婚約を申し込んだ感じになってるんだろ……?」
「うん、私と薫子で演出を考えたら、大試がアドリブでもっと抉るようにキメてくれたから助かった」
「抉るように……。しかも、もう一押しって?」
「あんな人前じゃ無くて、ちゃんと真剣な婚約を結ばないとダメでしょ?」
「ダメなのか……」
「ダメ」
「そうか……」
「大試は、絢萌さんの事好きでしょ?」
「好き……うーん……。いや、見た目は100%好きな要素だけでできているし、性格もすごく好ましいから、そりゃ結婚できるならしたいよ?でも、婚約者6人目は流石に誠実さが……」
「それも大丈夫。大試の婚約者、つまり私たちだけど、私を頂点にすごい仲がいいから問題ない。というか、問題ない人しか私が認めてない。それに、候補者はまだまだいっぱいいるから、6人目なんて大したことない」
「そ……そうか……」
おっかしいなぁ……。
聖羅に言われると、何の問題も無いように感じてくる……。
どう考えても、俺より恋愛ごとに関してイケメン度が上だし……。
普通、女性側がそう言うの嫌がるもんじゃないの?
今更か?
うん……。
「だから、はいこれ」
「……指輪のケースか……」
「うん、私たちとおそろい」
「成程……」
つまり、さっきみたいな演出じゃなく、本当にこっぱずかしい事をしろって事だな?
しかも、向こうを含め、俺以外の皆は、既に俺が婚約を申し込んだって認識なんだな?
把握した……。
「それとね、大試は忘れているみたいだけれど、こういうリゾート地って呼ばれる場所には、必要な施設がある」
「必要な施設?」
「結婚式場」
「あぁ……」
そういや前世でもあったなぁ……。
観光地で結婚式するやつ……。
あれさぁ、旅行好きな人なら、招待されると喜ぶんだろうけれど、コミュ障で人込み苦手な人間にとってはキツいんだよなぁ……。
え?コミュ障ならそもそもどこでやろうと結婚式は鬼門だろって?
そうですね。
その通りです。
「大試には、誰も教えてなかったけれど、アイが主導で、女性陣みんなの意見を参考に豪華なチャペルが完成してる。貴族の人たちの結婚式でも使える規模で。それとは別に神前式用の神社もあるけど」
「チャペルが……そう……。そういや、タヌキたちが作ってたな神社……」
知らない所で動いてるんだなぁ世界ってのは。
俺が完璧にコントロールできるわけがなかった。
だって、俺の周りの女性陣、俺よりよっぽど優秀だもん。
彼女たちができるキャリアウーマンだとしたら俺なんて、見た目だけ立派だけど、警備中に美味しい餌を投げ込まれたら尻尾振って怪しいやつを通しちゃうバカ犬程度のもんだ。
大きくても小さくても胸に視線が吸い寄せられやすいし、頭にキツネ耳がついているだけでもトゥクンってなる。
「はぁ……。よし、わかった。ぶっちゃけ、前に1回絢萌さんには結婚を申し込んでるし、尻込みするのも今更だよな」
「うん。だから頑張って。あの娘は、大試の将来に必要な女の子だから。あと、薫子ちゃんも将来的には婚約者になるから」
「……ん?ちょっとまて。薫子ちゃんもってどういうことだ?」
「だって、大試が薫子ちゃんも面倒見るって自分で言ってた」
「自分で……?」
全く記憶に御座いません。
いやマジで。
「大丈夫、あの娘も、将来すごい美人になる。大試が大喜びする女の子になる。まあ、大試は、自分の事を好きだって言ってくれる女の子だったら、基本誰でも好きになっちゃうチョロい所あるけれど」
「あ、うん……」
それは、まあ、そう。
異性に好きって言われたら、好きになるよね?
「でもさ、やっぱり倫理観とか、そういうのがね?それに、姉妹2人ともとか法的にどうなの?」
「大丈夫、問題がある女は、私がシャットアウトする。法律が問題なら、私から王様にかけあう。任せて」
「聖羅が頼もしすぎる」
「大試の一番のお嫁さんになる女は、その位じゃないとダメだから」
「俺の嫁のハードルがいつの間にそこまで上がったのか知らないけれど、ありがとう」
「どういたしまして」
そうして俺は送り出された。
リゾート内を自動で動き回る電動カートによって。
行き先は、例のチャペル。
俺の婚約申し込みが、その施設の最初の利用となるらしい。
既に、相手は呼び出してあるそうで……。
そうして辿り着いたその荘厳な施設。
圧倒されつつも、扉を開けて中に入る。
すると、夜の暗い施設内の奥、祭壇のようなところに一人の女性が立っていた。
天窓から差し込む月明かりをスポットライトに、神秘的な雰囲気まで感じる姿で。
これ、すごい色々考えて設計されてるんだな……。
すごいわアイ……。
「あ、大試さん……」
「お待たせ」
「い、いえ!今来たところですわ!」
俺は、絢萌さんと向かい合った。
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