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この話、こんなに長い期間書くつもりなかったんですけど、誰がこんなに引っ張ったんですかね?
セレモニー会場へと着くと、来賓席も記者席も既にほぼ満席状態だった。
ほぼ、というのは、王様の席だけは空席だからだ。
あの人、今日も本当に城ほっぽりだしてやってきて、そのまま新幹線で白川郷までいって泊まろうとしていた所を有栖に怒られて、シクシクと泣きながら政務中らしい。
自業自得だとは思うが、同時に大変だなとも思う。
王様って……なりたくないよな……。
「あああああの、大試さん!?どどどいうことでですの!?」
隣で振動するタイプのマッサージ機を最大出力で使ってしまっているような声を上げている金髪ドリルさん。
どうやら、未だにこの状況に理解が追いついていないらしい。
面白いけれど、流石にそろそろ状況説明が必要か。
「白川郷新幹線の開通式が始まるから、俺達もさっさと代表者席につこう」
「白川郷新幹線って何ですの!?」
「王都と白川郷を繋ぐ新幹線だよ」
「なんでそんなものが出来上がっているんですの!?」
「だって、絢萌さんが作ってくれってお願いしてきたじゃん」
「私は、何とか白川郷と王都の間に道を作って、行き来をしやすくしてほしかっただけですわ!それがどうして新幹線なんて大層な物を!?まだ2カ月経っていませんわよね!?」
「え?だって、やっぱりやるなら全力だろ?」
「普通全力出したても新幹線なんて通せませんわよ!」
「じゃあ、いらなかった?」
「当然あったら嬉しいですわ!」
うん、とりあえず喜んではくれているみたいだ。
これで、俺が彼女を大股開きのままステージに叩きつけてしまった件への償いは、多少なりともできただろう。
「お姉様、落ちつきなさいな」
「薫子!貴方はこのことを知っていたんですの!?」
「知っていたわよ?」
「どうして教えてくれなかったんですの!?」
「お姉様が知ったら、多分遠慮して、途中で計画がポシャっていたからよ」
「当然ですわ!新幹線なんて、いったいいくらお金がかかると……!」
「未舗装の道だって、あの山と森しかない場所を通すには、いくらでもお金がかかるわ。今更よ。それに大試先生は、それに見合う儲けを得られるだけの算段も立てているみたいだし」
「確かにそうかもしれませんけれど……白川郷とのあいだに新幹線があったって、採算がとれるわけありませんわよ!」
「そこは大丈夫よ。白川郷リゾートにお客様がいくらでも来てくれるから。というか、既に予約客分の利益だけでほぼペイできる計算らしいわ」
「白川郷リゾート!?」
「えぇ、とても美しい所だったわね」
絢萌さんの隣で、フリフリドレスを着た薫子ちゃんが説明してくれた。
本人はもっと大人っぽいデザインにしたかったらしいが、小学生にそんな背中が開いたドレスなんて禁止です。
そういうのは、あと数年は隣のダイナマイトバディのお姉さんに任せなさい。
「一応言っておくけど、絢萌さんたちのお父さんにも許可は取ってるからな?観光地と新幹線を作るから許可くれって言いに行ったのに、『娘たちをよろしくお願いします』って不思議な返事をされたんだけど、何か勘違いされている気もする」
「お父様!!!!?」
「あ、そのお父さんの方は、管理地を空けられないからって事で今日は不参加だぞ。その代理として、絢萌さんが金持家の代表として参加することになってるワケ」
「ワケ、って……」
魂が抜けたような表情で口が開きっぱなしになっている絢萌さん。
レディがそんな顔しちゃいけません。
薫子ちゃんがヤレヤレって顔してるじゃないですか。
まあ、そりゃいきなり「お願いされたから新幹線通しました!観光地も作りました!えへ☆」って言われたら、誰でもこうなるだろうけれども。
『皆様!白川郷新幹線開通、そして、白川郷リゾート開業式へのご参加、誠にありがとうございます!本日の司会進行を担当させて頂きます、仙崎花梨と申します!よろしくお願いします!』
アイドルちゃんの声がスピーカーから会場中へと響き始めた。
この後X810プロの皆には、ドームのこけら落とし公演でライブもしてもらうから、ついでに司会をお願いしてみたら喜んでやってくれることになったんだ。
因みに、美須々さんは、白川郷の駅で最初のお客様を出迎えるためにあちらで待機中だからここにはいない。
いやぁ……皆協力してくれて助かったわ。
マネージャーにしたあのしっかり者っぽいメガネの先輩は、「誰にハニートラップ仕掛ければいいんですか?」とか聞いてきたので、協力をお断りしておいたけれど……。
今話題沸騰中のアイドルの突然の登場に会場も湧いている。
それにしても、とうとう始まったな……。
長かった……。
1カ月以上、アイへと声援を送り続けたこの生活も終わりか……。
「感慨深いなぁ……」
「あわわわわ……」
「お姉様、顔がギャグマンガみたいになっているわよ?深呼吸できるかしら?」
「ひっひっふー……!」
「お姉様、それ、ワザとやっているんじゃないのよね?」
俺の感慨に付き合ってくれる者は、どうやらいないらしい。
……まあ、だろうね!
『まず初めに、白川郷新幹線の発案者にしてオーナーである、犀果家令息、犀果大試さんからご挨拶を頂きたいと思います!』
あぁ……。
正直この手の人前で何かやるのってあんまり得意じゃないんだけれど、いっぱい練習したし、がんばるか……。
俺は、ステージの上の端にある席から立ち上がり、真ん中の演台へと進んだ。
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