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今日は、白川郷新幹線の開業日だ。
オープニングセレモニーに参加するお客さんたちが押し寄せている。
といっても、この新幹線の行き先が白川郷だということは、まだどこにも発表していない。
「犀果家がガーネット家と協力して作り上げたリゾート地へと続く最新の新幹線」という事になっている。
何でかって?
皆と金髪ドリルをビックリさせるためだよ?
『犀果様、そのまま直進してください』
「了解」
インカムから届くアイの声に従い、人込みをかき分けていく。
俺の婚約者たちは、皆一般人にも顔を知られているけれど、俺の場合は、私服でウロウロしている分には、誰にも声を掛けられない。
名乗ると皆すぐ「アイツだ!」って顔になるんだけれど、やっぱり他のキラキライケメンフェイスとか美少女フェイスばかりの中で、前世とほぼ同じ普通顔なのが悪いのかなぁ……?
いや、変装せずに歩き回れるからいいんだけどさ。
そうして人ごみの中を進んでいくと、スーツ姿の女性と、作業着姿の金髪ドリルが見えた。
「犀果様、こちらです」
「ありがとう、アイは仕事戻っていいぞ」
「了解しました。本体の方は、既に準備室でスタンバイオッケーです」
「わかった。すぐに連れて行く」
いつものメイド服ではなく、今日はできるキャリアウーマンスタイルの量産型アイ。
タイトめのパンツルックにメガネ、長い髪を編み込んでからお団子にしている様が美しい。
「ありがとうございます」
「何がだ?」
「見た目を賞賛された気がしましたので」
「……うん、カッコいいぞ」
やっぱり俺はもっと顔芸を学んだ方が良いんだろうか?
すぐばれる……。
アイが離れていくのを見てから、作業着金髪ドリルの方へと顔を向ける。
「さて、おはよう絢萌さん」
「おはようございます大試さん……。あの、この騒ぎは一体何なんですの?」
「これ?新しく新幹線が開通するから、そのイベントが今日あるんだよ」
「そうなんですのね……。私、なんだか場違いな気がしますわ……」
「そんなこと無いぞ。むしろ、今日は自分が主役くらいの気持ちでいこう。俺達だって、折角白川郷に行く道が出来たからここに来たわけだし」
「は……はぁ……。その道は、出発地点がここなんですの?」
「そうだな。たまたま新幹線の駅と近かったらしい。まあ、地理的に道や線路を作りやすい場所って案外被るから、しょうがないな」
「まあ、そうなんですのね……。うぅ……こんな作業着姿、あまり貴族の方々に見られたくありませんわ……」
どうやら、自分の格好が恥ずかしいらしい。
確かに、周りの貴族、特に男からの視線がかなり集まってるもんな。
でも、それは作業着がこの場にそぐわないからとかじゃないと思うんだ。
狙っているのかわからないけれど、ちょっとパツパツ目の作業着のせいで、エロさがすごいからだと思う。
まあ、それもこれも、アイがミスリードを重ねて、白川郷まで徒歩で向かう事になると思わせたせいなんだけれど。
ただ流石にアイも、本人が動きやすい服装って事で勝手にこんなエッチな服装を選んでくるとは思わなかっただろう。
とはいえ、これはこっちにとって渡りに船と行った所だな。
準備室に連れ込む理由が出来た。
「それなら、出発前にちょっと休憩して行かない?そこの建物の中に、部屋借りてるんだ。飲み物とかもあるし、この人込みが解消されるまで少し待とう。そこまで急ぐもんでもないしさ」
「そうなんですの?それならば、お言葉に甘えますわ……」
そうして絢萌さんを怪しい建物の中に連れ込んだんだ。
「待っていたわお姉様」
「……薫子!?なんでここにいるんですの!?」
「メイクアップの為よ」
「どういうことですの!?」
姉妹、感動の再会である。
薫子ちゃん曰く、2時間ぶり。
朝ごはんは、白いご飯に納豆だったそうだ。
薫子ちゃんの後ろから、ニョキっと出てくる陰。
我が幼馴染、聖羅である。
「絢萌、ドレスに着替えて」
「聖羅さん!?ドレス!?」
「ほら、早く。アイも手伝って」
「かしこまりました」
「あの!?ちょっと!?大試さん!?」
「じゃあ後でな」
俺に助けを求めるその顔をスルーしつつ、俺は俺で準備が必要なので部屋を出る。
そして、隣の部屋に入ると、そこには義兄たちがイケメンブリをカチッとした服装で上げていた。
「大試君、例の姫君は上手く誘い込めたのかい?」
「はい、今となりでメイクアップしています」
「そうか、それはよかった。これで、ちゃんと新幹線の名前が発表できる。私も感慨深いなぁ……。テープカット……おほほほぅ……!」
上の義兄のイケメンさが崩れた。
セレモニー中にこの顔が出ない事を願う。
「大試君、僕のワイフも新幹線の最初のお客さんに招待してくれてありがとう!ハネムーンに丁度いいよ!」
「この前どこか行ってませんでした?四国でしたっけ?あれハネムーンじゃないんですか?」
「リゾート地なんてものができたならそっちが本番ってことにするよ!」
「フレキシブルですね」
頭が柔らかくていいな。
女性と違い、俺の準備は20分ほどで終わる。
服を着て、ずいっと入って来たアイに髪型を多少整えて貰えば完了だ。
そのまま待機していると、1時間ほどで扉が叩かれた。
「犀果様、準備が整いました」
「わかった。今行く」
向かった隣の部屋。
中には、大人っぽいドレスを着こんだ絢萌さんと、フリフリのドレスを着た薫子ちゃんがいた。
「あの……結局これはなんなんですの……?」
「ドレスだよ。似合ってる」
「そういうことではありませんわ!?ありがとうございます!」
俺は、顔を赤くしている絢萌さんと、私たちがここまで育てましたって顔をしている聖羅と薫子ちゃんを引き連れて、特設ステージへと向かった。
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