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絢萌さんから、白川郷と王都間の道を作ってほしいと頼まれてから数日後、俺は、薫子ちゃんに例のファミレスへと呼び出されていた。
つまり!なんと!俺の数少ないスマホの連絡先が増えたのだ!
まあ、それは良いとして……。
「うちのお姉様、美しいでしょ?」
「……まあ、そうだな。その妹にこんな風に話していいのかは知らんが」
挨拶も早々に、答えにくい事を聞いてくるチミっ子。
将来絶対美人になるでだろうなとわかるくらい既に美少女な彼女だけど、その姉である絢萌さんは、まだ高校生であるにもかかわらず、既にもう、なんというか……男をぶち堕とす事が可能な体になっている。
顔もいいし、あと金髪!
その金髪を縦ロールにしているのもすごい!
「顔だけの話じゃ無いのよ」
「……確かに、出る所出てるし、性格も良いと思うし、モテるんじゃない?」
「私もそう思うわ。だけれど、彼氏なんてできたことは無いし、それ以前に友人が出来たことも無いわ」
「そうなのか?ってか、そんな事勝手に俺に教えたら絢萌さん嫌がるんじゃないか……?」
「仕方がないわ。私がこれから大試先生にお願いすることを考えれば、必要な情報だもの」
そう言いながら、ドリンクバーから取って来たコーヒー(ミルクと砂糖をこれでもかと入れてある物)を上品に口に含む薫子ちゃん。
うんうん、コーヒーはその位のバランスが美味しいよな!
「私たちの家が、僻地の名ばかり貧乏貴族な事は、お姉様から聞いているわよね?」
「そこまで酷く言われていた訳じゃ無いが?」
「でも事実なの。金持家は、没落貴族と言える状態だったのよ。管理地は、もはや競争力のある特産品も無く、消えゆくだけと言われている有様。そんなときに、私のお父様が、薬や健康食品の材料である単価の高い素材たちを栽培することでお金を作ったの。それを知ったおじい様は、お父様にお母様と結婚するようにお願いしたのよ。白川郷のために、自分の後継者として働いてくれないかってね。おじい様自身では、もうどうしようもないと考えて。お父様も白川郷の事が好きだったから、悩んだ末に了承したそうよ」
「へぇ、平民から貴族になったのか」
「そういうことね」
普通ならそうそうないだろうけれど、追い詰められた貴族の家と、儲けた商家の間でならあるのか。
でも、色々問題でそうだよな……。
俺のそんな考えを表情から感じ取ったのか、自嘲気味に薫子ちゃんが話す。
「えぇ、大試先生の考えている通り、大変だったわ。実際には、おじい様からの要請であったにもかかわらず、お父様は、『金で貴族位を買った』と散々言われているもの。まあ、それは私たちもだけれど」
「そんなもんかぁ……。どうする?言ったやつら処す?」
「……ちょ……ちょっと処すのは考えさせて……。話を戻すわね……?」
ちょっと震えながら咳払いをするロリっ子。
「周りからそんな心無い事を言われ続けて、それでも私たち家族は必死に管理地の発展のために頑張ったわ。だけど、どうしても他の土地へと続く道が無いことで躓いてしまう。結果、何とかお父様の手腕で最悪よりはマシ程度に収まっている状態で続いているだけの終わった土地。そんな評価が、白川郷の実情だったの」
「処すか」
「処すのは待って」
「わかった」
優しいなぁ薫子は。
「お姉様は、自分の家族が、心無い言葉を掛けられる事に憤慨していたわ。あの人、自分に対して何か言われてもそこまで気にしないのに、自分の大切な人たちが悪く言われるとプンスコ怒るのよね」
「あぁ、そういやそうだな。前にも有栖の件で怒ってたわ」
「それで、お姉様は決意したみたいなの。立派な貴族令嬢になって、周りから馬鹿にされないようにしてやるって。お姉様が馬鹿にされ無くなれば、自然と家族も馬鹿にされなくなるだろうって。あの喋り方と縦ロールは、そのためにお姉様が考えた武器。お姉様のイメージするお嬢様の要素なの」
「へぇ、俺の中でも、お嬢様って言えばアレだなー」
「でしょう?実際にあんな金髪縦ロールですわ口調のお嬢様なんて、貴族社会に殆どいなかったけれど」
「だなぁ」
インパクトすごいよね。
俺は好きだよアレ。
「結局、そんなお姉様を周りの貴族たちが認めることは無かったわ。強いて言うなら、貴族令嬢たるもの強くあるべき!って考えで鍛えた拳を一部の人間から認められていた程度かしら」
「頭のドリルより岩盤を砕けるんだっけ?」
「えぇ。面白いわよ」
「面白いくらい拳で岩盤砕くお嬢様か……」
それは面白いな。
「大試先生、私は、お姉様が大好きなの」
「それはわかる。大好きなんだろうなとは思ってた」
「えぇ。あの人は、どんな時でも私の前に立って、私を護ってくれた。自分が魔法学園に通う事が決まったら、私も王都で勉強できるようにって言って、私を背負ったまま白川郷から王都まで徒歩で突破するくらいだもの。妹として、女の子として、こんなに素敵な女性は他に居ないと思うわ」
「カッコいいなー」
「……なのに、周囲がそれを認めないのが許せない」
ソーサーに乗せられたコーヒーカップがカタカタと音を立てる。
薫子ちゃんの小さな手が、怒りで震えているせいだ。
「別に、興味がないならそれでもいい。だけれど、何も知らないくせに、私のお姉様を侮辱するのは我慢ならないの」
「やっぱり処すべきだろ」
「処すのは流石に……。だから、大試先生には、別の方法でお姉様を助けてあげてほしいの」
「助ける?いいぞ。絢萌さんには、その……色々アレな事しちゃったしな……」
「フフっ。責任は取ってあげてね?」
責任……責任かぁ……。
友達になるとかなんとか言ってたけど、結局何かしている訳でも無いし……。
やっぱり結婚か……?
責任の取り方って他にある……?
対人能力低い俺にはわからんよ……。
「お姉様は、美しい。それを理解している大試先生だからこそ、お願いしたいわ」
そう言って、カップをテーブルにおいてから手を膝に置き、頭を下げる薫子ちゃん。
「お姉様を最高の女性だって皆が思うような、そんな演出をしてほしいの。あの人は、中身の美しさは自前で持っているから、本当に演出だけでいいわ。それだけで、この国の人々は、お姉様の素晴らしさが理解できると思うから」
「演出……お姫様みたいな感じでってこと?」
「プリンセス……いいわね!お姉様は、実はフリフリプリプリな服も好きだから悪くないわ。まあ、あの人の体は大人の女性としての魅力で溢れすぎているから、フリフリプリプリな服は少し似合わないのだけれどね」
そんな事を子を思う母のような表情で語る薫子ちゃん。
あの……キミ、小学生だよね?
どこでその色気みたいなの覚えてきたの……?
「わかった。彼女の素晴らしさを世に知らしめる最高の舞台と演出を用意しよう」
「本当!?ありがとう大試先生!」
「というわけで、ここで飯を食い終わったら、早速薫子ちゃんの体の採寸をしよう」
俺の言葉に、表情が固まる薫子ちゃん。
直後、顔を赤くしながら目線を逸らす。
「……私の体で払えるなら、構わないわ」
「ガキンチョが何言ってんだ……。フリフリプリプリな服は薫子ちゃんに着てもらうから。俺に頼んできた以上、薫子ちゃんにも頑張ってもらうぞ?絢萌さんのサイズもこっそり測ってもらわないと、ドレス作れないしな」
「……酷いわ。私の女としての部分を弄んだのね」
「何言ってんだ……。口の横、パフェのチョコついてるぞ」
薫子ちゃんの顔を拭いてやってから、俺達は悪だくみを再開した。
その後も数日おきに、新幹線開通式まで開催される事になる。
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