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「すごいじゃない……すごいじゃない!!!」
新幹線のテストに付き合って白川郷駅までやってきた俺とリンゼは、そのままダムへと移動した。
この移動も、新幹線ではないけれど電車を利用して行われる。
こっちに関しては、完全自動運転となっているので、ギャーギャー騒ぐ義兄(仮)2人はついてこなかった。
そして、ダムについたにも拘らず、ダムには全く関心を示さずにリンゼが俺を引っ張ってやって来た場所が、このダム湖の畔だ。
具体的に言うと、水で沈んでまだ1週間程しか経っていないエリアで、草や木がそのままの姿で水に沈んでいるのが見える。
更には、その障害物たちの間や陰に潜む巨大な魚影までが、透明度の高い水のおかげで見えている。
「あの場所にルアーを投げ込めば……でも、油断すると根掛かりするわね……いっそ根掛かり上等でやるのも手だけれど、やっぱりそれはプライドが許さないし……!」
早速、このエリアの攻略法を頭の中で組み立てているらしい。
釣り人にも色々な人がいるけれど、リンゼの場合は、ゲームみたいに色々と自分で考えて、それが成功するのが楽しいタイプみたいだ。
スポーツフィッシングが好きなんだな多分。
俺も気持ちはわかるけれど、俺の場合は釣れた魚を食べる事や、自然の中で釣りという行為をする事自体も好きな雰囲気重視なので、釣りに対する熱量は大分違う。
ただ、喜んでるリンゼの事が世界で一番好きな人間は俺であると宣言したい!
「リンゼ、ダム湖の周りには舗装された道路があって、そこを電動カートで走れるから、まずは色々な場所を見てみたらいいんじゃないか?俺なりに色々考えて環境も変えてあるから、試してみてほしい」
「ホント!?わかったわ!行くわよ!」
言うが早いか、俺の手を引っ張って走り出すリンゼ。
もう甘酸っぱい雰囲気なんて微塵も残っていないけれど、これはこれで幸せなので良し。
「ここは!?」
「砂地と水草の絨毯が続いてる部分だ。例のサーモンだけじゃなくて、いろんな魚が住んでる辺りだな」
「水面でのアピールが重要なエリアね!」
「ここは!?」
「流れが強めで、岩も多い場所だな。大き目の魚もいるし、岩の下に隠れているタイプの種類もいるから、他では味わえない釣りができる」
「渓流釣りに近いかもしれないわね!」
「ここは!?」
「岸の近くでも水深が深めの場所だ。小魚の群れと、超大型の魚がいるぞ」
「遠投技術が活きてくるわね!大きいルアーを存分に使えそうだわ!」
「……ここは?」
「ザリガニが釣れるとこ。あっちは、手長エビコーナー」
「そう……まあ、嫌いじゃないわよ?」
「因みに、ここで釣れるザリガニや手長エビを餌にすると、技術とか関係なく入れ食いレベルでそこそこのサイズのサーモンが釣れるエリアも作ってある」
「ああ、良いんじゃない?観光できた家族連れとかには人気出そうよね」
「更に言うと、あそこで料理も出してくれる。昼食にしよう。まだオープンしていないから、2人きりだし」
「……まあ、悪くないんじゃない……?」
「あ、手が恋人繋ぎになった」
「そんなこと一々口にしなくていいのよ!」
「ちょっと……ちょっとちょっとちょっと!」
「見つけましたかお嬢さん……」
「やっぱりアレってアレよね!?ボートよね!?」
「その通り。しかも、見た目は割とよくある個人用モーターボートみたいな感じだけれど、実際にはアイが作った絶対に転覆しないオーパーツみたいなボートだから安心だぞ」
「どうしよう!?乗る!?乗っちゃう!?」
「任せるぞ」
「じゃあ一緒に乗るわよ!」
「了解」
そうして、ボートに乗って色々な場所を回って、リンゼの口から出た感想が冒頭のボキャブラリーが壊滅した発言だった。
今は、ボートから降りて桟橋に立っている状態だ。
ダム湖には、桟橋が何カ所も設置されており、ボートについている端末で指定すれば、自動でそこまで連れて行ってくれる。
ボート自体すべて貸し出しの物なので、降りた人々は、そのまま散策に入れるんだ。
仮に桟橋にボートが接岸されていなかったとしても、桟橋に設置された端末で呼び出せば、自動でそこまでボートがやってきてくれる機能もある。
「気に入ってもらえたか?」
「もちろん!ありがとう!」
「リンゼが喜んでくれたなら、俺としても嬉しいわ」
「……確かにこのダム湖も結構いいけれど……。それより、アンタとこうして2人でデートできたのが嬉しいわ……」
ちょいちょいハイテンションから素に戻って顔を真っ赤にするところも可愛い。
「いくら貴族の間で釣りが流行ってるって言ったって、アタシみたいにのめり込んでるような女の子なんていなかったし、そもそも男の子となんて遊ばなかったしで、誰かと一緒に釣りをするのってちょっと憧れてたのよ」
「へぇ?じゃあ、今日はその夢がかなったのか?」
そんな可愛い夢があるとはなぁ。
ってか、釣り友おらんのか……。
「どうかしら?結局今の所、釣りしてないしね」
「あ、そういえばそうだったな?やらないのか?」
「……やりたいけれど……もう暫くはいいわ。もう少し……あと2時間くらいはこのままでいい」
「なんでだ?」
「デートっぽく2人でいたかったからよっ」
手は恋人繋ぎをしたまま、プイっと顔を背けながら言うのが反則的に可愛い。
これだもん、爆殺されても許しちゃうよなぁ……。
因みに、将来的にはリンゼが釣りしている所を撮影し、このダム湖のPRに使うつもりだ。
そのため、今日はその下見も兼ねている。
物凄く広いため、どこで釣りがしたいかを先に決めておいて貰わないと時間が溶けていきそうだったので……。
このダム湖の釣り事業に関係した被写体として、リンゼ以上の逸材を俺は用意できない。
あぁ……早くリンゼメインのCMを色んな所で流したいなぁ……。
そして自慢するんだ……「あの娘俺の婚約者なんすよ!」って……。
「お前みたいなモブっぽい顔の男にそんな婚約者がいるわけねぇだろ」って何も知らない人に言われそうな気もするが……。
まあいいさ!
ぶっちゃけ、ここの釣り場が人気出るかどうかなんて俺にとっておまけでしかないんだし。
リンゼのために作ったようなもんだからなぁこの釣り人用の施設群は。
リンゼが求めていないなら、ただのダムように作られた水たまりだ。
「……ねぇ、ここって誰か人来る?誰にも見られないわよね?」
「あー……ソフィアさんが腕時計の中で酔って寝てるのと、魚を調理してくれたり治安維持してくれるおそーじ君カスタムたちを除けば、今はまだ誰もここには来ないかな?アイも今日は秘密基地作ってるし」
「秘密基地って何よ……?まあいいわ。誰も来ないなら、ちょっと腕組ませなさい?」
「……いいけど……そこまで顔真っ赤にするほど照れてるんだし、無理しなくても……」
「無理してでもアンタの近くに居たいのよ!ほら!」
湖の畔で、時間を忘れて景色を見るのも良いもんでした。
ただ、本当に時間を忘れてしまったため、辺りがかなり暗くなって怖かったです。
その内、湖に船浮かべてそこから花火で打ち上げるイベントでも企画しようかな?
感想、評価よろしくお願いします。




