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532:

 とうとう俺とアイだけでできる部分の観光地化は完了した。

 あとは、ここで働く人々が、それぞれの分野で仕事をしていくだけだ。

 ホテルや旅館、ドーム、それに魚の養殖場や牧場の職員まで既に現地に向かう準備は完了してもらっている。

 皆が住み込む社宅も用意してあるし、観光用とはまた別の、働く人たちのためのお店なんかもすぐに営業を開始できるように準備してある。

 それらに先立って、金持さんに頼まれた当初の目的である王都と白川郷間の移動手段についても、正に現在最終試験の真っ最中だ。

 これが走らないと、現地に作業員を運ぶのすら苦労するので、とにもかくにも優先している。

 車体自体は完成しているし、線路もアイによって太鼓判が押される程の完成度を誇っている。

 しかし、マル義兄さんさんとアル義兄さんの双方からの意向で、安全性の確認のためのテスト走行を繰り返しているんだ。


「おおほほおおほおおおお!はしってりゅうううううう!」

「兄さん!兄さん早く代わってよ!」

「いやだあああああああああああああ!」

「約束だろ!?ダダ捏ねないでよ!」


 目の前で、将来的に俺の義兄となるイケメン2人が、新幹線の運転席を巡って取っ組み合いの喧嘩をしている。

 なんだこれ?


「……悪いわね大試。この2人、揃うと大体こんな感じなのよ……」

「リンゼ、俺が見ているのは、幻影とかじゃないんだよな?」

「残念ながらね」

「イケメンの無駄遣い過ぎるだろ……」

「まあいいんじゃない?何かあったら自動運転に入るんだし、こっちはこっちで楽しみましょう?」

「それもそうだな」


 俺とリンゼは、車内販売のメニューを実際に体験して課題が無いかを試している所だ。

 因みに、販売してくれているのは、おそーじ君カスタム。

 何処とは言わないが、デカい監獄みたいなところで相当数が稼働している為、信頼性という意味ではかなりの物だ。

 元々は、シオリが生活していた施設で使用されていたお掃除用ドローンだったけれど、それがなんか恐竜人間たちに鹵獲された後最終兵器扱いされていた所、俺が鹵獲した奴だ。

 紆余曲折を経てマル義兄さんに貰われていったあと、色々な改良を施してから量産されたせいで、今は流暢に話している。

 カタコト感がなくなったのはちょっとだけ残念だけれど、マル義兄さんが血の涙を流しながら「必要な事なんだよ大試君!流暢に喋れないロボットに世間は厳しいんだ!」と力説していたので、仕方ないんだろう。


『お飲み物は如何ですか?』

「ワインをくれ」

『申し訳ございません。18歳未満の方へのお酒の提供は禁止されております。ソフトドリンクメニューからお選びください』

「おお!ちゃんと俺が18歳未満だって判定してくれたな!」

「アタシは、コーラがいいわ。炭酸強めね」

『畏まりました。どうぞ』

「ありがとう。んっ……あら?本当に炭酸の強度まで調整できるのね。市販のコーラよりかなり刺激があるわ。あとでお代わりも貰えるかしら?」

『お気に召したようで光栄です』


 今日の出発前、マル義兄さんがかなり自慢していたこのおそーじ君カスタム、『添乗員君』だけれど、確かにかなりの性能のようだ。

 飲み物だけじゃなくて、駅弁も販売してくれるので、俺のイメージする新幹線っぽさ的にも大満足だ。

 もっとも、この席はお客さんが乗る場所じゃなくて、VIP席をも超えた特別席である『運転席の後ろシート』だから、そう言う意味では新幹線っぽくはないかもしれない。

 だけど、運転席の後ろに座れるようにしてほしいという希望が殺到したため、どうしても作らざるを得なかったんだ。

 ここだけの話だけど、その希望の3分の1の出どころはGRで、更にその中の5分の1はアル義兄さんらしいけれども……。


「来たぞ!トンネルだ!突っ込むぞ!」

「トンネルはいる瞬間くらい代わってよ兄さん!」

「ダメー!」

「幼児退行した振りしないでよ兄さん!」


 こんな義兄で大丈夫か?


「リンゼ、何かもっとこうした方が良いっていう希望はあるか?」

「そうね……ちょっとエアコンがキツめかしら?手が冷えて来たわ」

「そうか?さっきリンゼが設定温度下げてたような……」

「ええそうよ?それで、手が冷えてきたのよ」

「なるほど。じゃあ温度をあげるか?」

「そこまでする必要はないわ。こうすればいいのよ」


 そう言いながら、俺の手を握ってくるリンゼ。

 顔赤くするくらい恥ずかしいならしなければいいのに。

 こっちだって恥ずかしいんだが?


「よくもまあこんな甘い事を……」

「いいじゃないの!最近アンタ白川郷のほうに掛かりっぱなしで、アタシとあんまり会ってなかったじゃない!」

「それは……その……ごめんなさい……楽しくて……」

「はぁ……別にいいわよ。それと、釣りデートには期待してるから」

「そっちは任せてくれ。すごい魚を解き放ってるから、リンゼも大満足できると思うぞ。ダム湖全域で釣り出来るし、貸しボートも使えるんだ」

「は!?それって……ルアーも当然使っていいのよね?」

「もちろん」

「最高じゃないの!?全力でルアーフィッシングが楽しめる淡水域って案外無いのよ!水深があんまりなかったり、遠投を楽しめる程大きくて重いルアーに食いつく魚がいなかったり、釣りを禁止されていたりでね!それがダム湖全域でつっていいって!?ありがとう!大好き!」

「想像の100倍くらい喜んでる……」


 俺の首に抱き着きながら大喜びしているリンゼ。

 本当に釣りが好きなんだなコイツ……。

 これだけ喜んでくれたら、俺としても嬉しい。


「大試君!うちの妹とイチャつくのはいいがね!それよりも新幹線の窓から見える景色を楽しむ方が重要じゃないかな!?みたまえ!どこまでも続く暗いトンネルに浮かぶ非常灯の灯りを!」

「いいから交代してよ兄さん!」

「ええい大人げない!私が運転するといっているだろう!?」

「だからさっきからずっと兄さんが運転しているじゃないか!そろそろ僕にも代わってくれたっていいだろ!?」


 …………これだけ喜んでくれたら、俺としても嬉しい。


『オーナー、カップル用ドリンクも提供できますよ?』

「……じゃあ、俺とリンゼで1杯。あと、あそこで喧嘩してる男2人にも1杯出してやって」

『畏まりました』


 ハート型のストロー、案外値段高いんだよなこれ……。


「これも美味しいわね!最高だわ白川郷リゾート!ほら、大試も飲みなさい!」

「お……おう……」


 ストローが届く位近くで見るリンゼの喜んだ顔は、最高に奇麗でした。







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最近出番少なかったから リンゼのイチャイチャ助かる
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