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とりあえず、金持さんたちにお願いされた交通手段というか、王都と白川郷の間を繋げる手筈は整った。
ただ、新幹線を維持するためには、経済的な条件もクリアしないといけない。
俺が金を出し続けるようなベッタリな状態をきっと金持さんは喜ばないだろうし、何より俺にとって面倒だ。
ならば、あの地域自体に金と人が回るようにしなければならない。
そこで考えたのが観光地化な訳だ。
「とはいえ、どうしたもんかなぁ……」
「大試ぃ、ウチのカレー美味しくなかったー?」
「いや、それは旨い。魔王様に比べたらやっぱりまだまだだけど、なんか落ち着く味だわ。なんというか……家庭料理のカレーっていうのかな?」
「ホント!?嬉しい!」
「でもなぁ……このカレーを白川郷に作るホテルとかレストランで出すのはリスキーなんだよなぁ……。俺は気にならないけれど、やっぱり旅行先では、その土地の食材をふんだんに使ったものが食べたいって言いだす人が案外多いんだよなぁ……」
まあ、前世知識だから、この世界ではそうでもないかもだけど。
旅行になれてる人そんなにいないし。
「うーん……じゃーあ、レストラン2つ作ればいいんじゃないの?」
「2つ……?」
「うん!和食メインのレストランと、色んな地域の料理を出すレストラン作ればいいんじゃない?」
「ふーむ……」
言われてみれば、別に1つに拘る必要も無いのか。
前世の日本でヴュッフェ形式をバイキングと呼び表すようになった原因の有名ホテルのレストランだって、確かいくつかあったはずだしな……。
「でもそうなると、今度は何料理を作る料理人を探せばいいのか更に難しくなるな……。エリザは、流石にまだプロとしてやっていける訳じゃ無いだろうし」
「そうだね~。ウチ的には、やっぱり手料理ってなると仲のいい人に食べてもらいたいって気持ちが強いかな~?パパの作ったカレーをお客さんに出すのは好きだけどね!」
俺は今、外食産業の事を考えるのであれば、やっぱり飲食店に赴くべきだろうと考えて、魔王風カレーを食べている。
勿論ラッシー等も添えて。
今は、魔王様が食材の買い出しに行っているらしくて、作り置きのカレーをエリザが提供してくれている。
ところで、いつの間にそんな可愛い制服採用されたの?
サリーみたいな感じなのに、和服っぽさも入ってる。
おまけに着ているのがゲームの女キャラらしく超美少女のエリザだから、それはもうすごい事になっている。
まあ、それはいいか。
心のアルバムに永久保存しておくだけにしておこう。
「エリザさぁ、滅茶苦茶腕のいい料理人で、しかもスカウトしたらホイホイついて来てくれそうな都合のいい知り合いいない?可能であれば、和食も含め色々なメニューが作れる人が良い」
「え~?うーん……ウチ、そんなにコックさんの知り合いがいるわけでもないもん……」
「まあ、そうだよな……」
「あ!でも、良い人1人知ってるかも!」
ダメもとで聞いてみたは良いけれど、そりゃ知らんわなとため息をついたその時、エリザが心当たりを思い出してくれたらしい。
そんな都合のいい人がいるのであれば、是非ともお声がけしたいもんなんだけど?
「心当たりがあるなら紹介してくれないか?」
「紹介してもいいけど、大試とももう顔見知りのはずだよ~?」
「そうなのか?俺は、今の所全く思い当たる節が無いんだけど……」
「そう?でも、もうすぐ戻ってくると思うよ!」
戻ってくる?
それはいったい……?
ポポーポポポポ、ポポーポポポポ
そう俺が聞き返そうとした時に、入店を知らせる例のあの曲が流れる。
このカレー屋、味の完成度は高いにもかかわらず、そこまで客が多い訳では無い。
理由は知らないけれど、この学園が終わった時間帯に俺以外の客がいることなどかなり稀だ。
だから入り口を見てみると、案の定というか、客では無かった。
「戻ったッスよー」
「おかえりー☆」
店に入って来たのは、この『王風カレーのサタン』最初の雇われ店員だったキオナさんだ。
2号店を出したらそこの店長になる予定だったんだけれど、魔王様が忙しくて新店舗の選定が終わらず今に至っているらしい。
詳しく聞いたわけではないけれど、日本出身のユキオナゴとかいう魔族らしい。
雪女みたいなもんだな。
ただ、見た目からはそんな印象は全く受けない。
出すとしたら氷系の技じゃなく、パンクロックの歪んだ音の方が似合いそうなファッションだ。
エリザ曰く、メイクを落とすと、この刺々しい顔から一転して正統派美女になるんだとか。
ちょっと見てみたい。
「あれ?大試くんまーた来てたんスか?」
「ちょっと新しく飲食店というかレストランを作りたくて、その参考になりそうな事が無いかなと思って」
「あー、景気良さそうっスねー。あたしもあやかりたいっスわ。魔王様、二号店の場所中々決めてくれないから、未だにただのバイトリーダーっスもん」
「バイト、2人しかいないのに?」
「店長とバイトリーダーと平バイトしかいないっス!しかも平バイトは店長である魔王の娘だから、あたしも軽はずみに命令とかできないんすよねー!」
「もー!そんな事気にしなくていいって言ってるのにー!」
「いや気にするっスよ!日本生まれ日本育ちとは言え、あたしだって魔族なんすから!」
「魔族の領域の魔族たちは、案外魔王を敬ったりはしてない奴多かったけどな……」
「そうなんすか!?」
その後もパンクロックお姉さんと楽しくお話ししながら近況報告をしあう。
オリジナルで作ったというソフトクールカクテルパフェ(ノンアルコール)を振舞われ、俺と一緒にバイト中のはずのエリザまで食べていた。
「そうだ!大試君、その観光地に王風カレーのサタン2号店作らないっスか?山間の歴史ある観光地なんスから、和食出すところが多くなると思うんスよ。そこで!お正月の3日目辺りに出されたカレーがやけに美味しくなるようなもので、敢えてそういう場所でカレー屋を出すのもアリじゃないっスか!?」
ふむ?
それは確かに一考の価値があるかもしれない。
俺だって多分連泊したら3日目辺りに和食に飽きてカレー屋行っちゃうもん。
でその次の食事はまた和食で喜ぶんだ。
「大試!さっきの話!」
「ん?さっきの?」
俺が捕らぬ狸の皮算用で色々考えていると、一緒にパフェを食べていたエリザが、キオナさんを指さしながらそう叫ぶ。
人を指さしたら行けませんよ!
「……って、あ!そうか!なんか丁度いいかも!」
「でしょ!?」
「え!?え!?なんスか!?何興奮してるんスか!?」
都合のよさそうな料理人が目の前にいた。
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