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「お……おおお!あの巨大な山を本当にトンネルがぶち抜いている!?」
「あー、あそこは難所でしたねー。貫通するのに丸1日かかったらしいんで」
「はははは!常識が壊れる音がするぞぉ!」
「いや、このドドドドドって音は、ビームが岩盤を打ち抜いてる音です」
「あああ!この地面を伝う破砕音!何が起きているのかさっぱりわからないけれど、私の中に流れるガーネットの血に響くなあああぁ!!!」
新幹線を作ることが決まったので、現時点での工事の進捗状況や、整備してある現状の線路の予定地を視察してもらうためにアル義兄さんさんを連れてきた。
俺達がやっていることが、ただの絵空事ではなく、実現可能な事であるという証明の為でもある。
1カ月やそこらで、新規の新幹線を山間部ぶちぬいて開通させるっていきなり言われたら、普通だったら正気を疑われるだろう。
だから、現地で自分の肌で感じて貰いたかったんだ。
因みに、マル義兄さんも一応誘ったんだけど、「ダメだね!これから新幹線にかかりきりになるから、その前に妻とイチャイチャしまくりたいんだ!!!!」と断られてしまった。
夫婦仲が良いようで宜しいんじゃないでしょうか?
この業界に入って既にそこそこの年月が経っているアル義兄さんさんだけれど、0から新規で新幹線を作っている場面を見るのは初めてだそうなので、ずっと興奮しっぱなしだ。
とりあえず、ヨダレは拭いてほしい。
「それで、当の作業をしているメイドの女性には会えるのかな?是非ともお話を伺いたいんだけれど」
「無理ですね」
「技術的な機密でもあるのかい?」
「いや、セクシィでキュートでチャーミングなビームの撃ち方を研究しつつ作業を進めているらしくて、余りその姿を俺以外に見られたくないそうです」
「よくわからないな。何を言っているんだい?」
「可愛く見られたいけれど、その見られたい相手は不特定多数の異性じゃないらしいんですよ」
……自分で言ってて恥ずかしくなるな。
「まだレールは設置していないようだけれど、ここから追加で設置できるんだよね?」
「もちろんです。どういう技術を使うかは業務上の機密とか言う奴なので教えられませんけど」
俺も知らんし。
「わかったよ。ただ、こちらとしても全く未知の工法というのには不安がある。作業が終わったら、徹底的に検査はさせてもらうよ?最低でも、検査だけで1カ月は欲しいかな。できれば、検査用の専用車両もあると有難いんだけどね」
「あー」
そう言えばあったな前世にも。
黄色い新幹線だったかな?
「でも、お高いんでしょう?」
「もちろん。だが、考えてみてくれ。もし常日頃の検査を怠り、人が死ぬような事故が起きてしまったら、大試君が計画している事業にも相当なダメージがあるんじゃないかな?」
「まあ、そうですね……。うーん、必要経費と割り切るか」
「ふふふ……そこで相談なんだが!」
俺が高額出費の増加にため息をついていると、待ってましたとばかりにアル義兄さんが声をあげる。
まるで、買ってほしいお菓子を親に強請るのに都合のいい言い訳が頭に浮かんだ時の子供のような表情で。
「そのドクターイエロー、私たちGRが提供しても良いと考えている」
「え?」
「もちろん、条件はあるがね」
「条件……?でも、そんな高額の物を提供してもらう程の条件って……」
「なに、大したことではないんだ」
そう言うと、スーツの内ポケットから、黄色の新幹線の模型を出してきた。
あー!これだこれ!この世界にもあるのかこの新幹線!
へぇ……。
「1日1回、私はこの検査車両に乗車して、王都と白川郷の間を往復したい!無論、操縦も私が行う!安心してくれ!免許はあるし、何より殆どが自動運転だ!仮に自動運転を切っていたとしても、事故が起きそうになったら勝手に自動運転に切り替わり、安全に停止するようになっている!だからお願いだ!」
「えーと……つまり、会社としてっていうか、自分の趣味でって事です?」
「そうだ!といっても、GRの資金から出すという体ではあるが、GR社長である私のポケットマネーで購入して提供するんだ!」
「いや、まあいいですけど……。社長がそんな勝手なことしていいんですか?王都と白川郷間を最終的に何分で往復できるようになるのかまだわかりませんけれど、その間は確実に会社の社屋内に居ることができないわけですよね?しかも、毎日って言ってましたし、仕事に影響出るんじゃ……?」
「そんな事で文句を言う社員がいるわけないじゃないか!GRは100%ガーネット家が出資している会社だよ!しかもだ!社員は、皆鉄道が大好きなんだ!多分この検査車両での往復を業務の一環として導入出来たら、自分も乗りたいと大勢の社員たちが私の所に押しかけるだろう!というより、最新の検査車両を動かしてみたいと思えない社員をGRでは採用していないからね!」
どうなのその会社?
「わかりました。では、その検査車両もマル義兄さんにお願いしておきましょう」
「それには及ばないよ。もう既に話は通してある。大試君にOKを貰えなかったら、将来的にガーネット家の屋敷の庭に展示される事になっていただろうね」
「怖い見切り注文ですね……」
絶対高価なものをそんな簡単に……。
「あぁ……素晴らしい経験だ……。間違いなく、私は今人生最大のイベントに立ち会っている!」
「いやいやいや、弟や妹が産まれた時とか、結婚した時とか、お嫁さんが出産する時の方が大きなイベントになるんじゃないですか?」
「確かにそれらも重大なイベントだが、私の中にある計測器が振り切れる以上最大のイベントと表現するしかないんだ!」
「そうですか……」
まだトンネルと線路予定地見ただけなんだけどもな……。
「さて、じゃあ視察を続けようじゃないか。というか、もっと先まで見てみたいんだけど構わないよね?」
「あ、今日はもう無理です。お帰り下さい」
「何故だい大試君!?ここまで来て!?ここまで来てかい!?」
俺の言葉に、先ほどまでの大興奮から一転、絶望の表情になるアル義兄さん。
でも、無理なんだ。
だって……。
「今日は、マル義兄さんやアル義兄さんの所に行く必要があったので、掘削作業を行っているメイドとの視察デートのノルマが熟せていないんですよ」
「よくわからないな。何を言っているんだい?」
取引の話さ。
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