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522:

「大試君、私は今年で26歳になる。18歳で、鉄道成分を吸収し過ぎて急逝した親戚の後を継いでGRの社長となった私は、今までに一体幾つの新規路線を作ったかわかるかい?


 目の前で、流石はリンゼの兄貴と思える程のイケメンパワーを発しながらも、ハァハァと荒い息と涎を垂らしながら、アルベルト義兄さんが俺に尋ねた。

 何かのテストだろうか?

 とにかく、彼のヤバい所をすべて無視して、冷静に答えよう……。


「さぁ……?そこまで鉄道自体の数が多いとは思えませんし、1つか……多くても2つじゃないですか?」

「成程ね……」


 そう言いながら、若干悲しそうな顔になるアル義兄さん。

 その雰囲気のまま、俺に答えを告げる。


「0だ。0なんだよ大試君。私は、今まで一度も新規路線を開拓していない。先代の社長である親戚は、30年現役であったにもかかわらず1路線を増やすに留まった。先々代は、そもそもこの会社を立ち上げた者であるから、当然新規路線を作り上げたのだが、それでも3路線を作ったに過ぎない」


 ポケットから出したハンカチでヨダレを拭いたアル義兄さん。

 ヨダレ用にハンカチ持ち歩いてんのかな?


「この魔物が跋扈する世の中で、鉄道を作り維持するというのは、途轍もない負担となる。経済的にも、人材的にも、思わず笑ってしまう程の途轍もない負担だ。だから、私も正直諦めていた。所詮、自分に新しい物など作れない。ただこうして決められたダイヤを守るだけの、つまらない男として終わるのだろうと。何より、私は将来ガーネット家を動かす者だ。今でこそ父が辣腕をふるってくれているが、彼が本格的に引退したら、私は今の職を辞する必要がある。鉄道会社というのは、それほど時間に余裕がない職業なんだ。それなのに……それなのに……!」


 悲しそうに、淡々と話していたアル義兄さんが、目をカッと開きながら、俺との間にある机に身を乗り出すように出てくる。

 表情が怖い。


「まだ殆ど開拓されていない土地を山間部の秘境まで一直線に新幹線を作るだって!?しかも、道筋を作り、更には線路自体も規格を決めさえすれば作るだと!?キミは、神か!?後光がさしているのか!?おう神よ!我に幸運を与えてくれてありがとうございます!今まで神なんて頼らなくてもダイヤの乱れは1年に10秒以内になるように頑張って来たが、今更ながらに貴方の存在を信じざるを得ない!はっはあああああ!」


 どうしよう、発言を挟む隙がない……。


「新幹線!新幹線がお望みだったんだったね!?その辺りの詳しいスペックは、まだまったく決まっていないという事で良かったかな!?」

「まあ……そうですね。新幹線が一番速い鉄道だって聞きましたし、何より今まで何年も既に運用されているという実績があります。1日に途轍もない距離を走ることが前提の乗り物において、その信頼性はとても重要ですから、全く新しい物よりは、既存の新幹線の発展形が個人的には望ましいと考えていますね」


 高速鉄道なんて、完璧とまで思えるほどの信頼性が命と言っても過言ではない。

 速く走れるけど、結構な確率で事故って死ぬような乗り物に誰が乗りたい物か。

 安心且つ速い列車が欲しいんだ。

 運用するスタッフだって、全くの新しい物よりは、既存の要素を引き継いだ車体の方が仕事しやすいだろうし。


「キミは……理解ってるねぇ……!」


 何故か俺の答えは、アル義兄さんにとって高評価だったらしい。


「そう!新幹線に限らず、列車という存在は、事故を起こさないことが重要なんだ!日頃の保守点検!培われた技術の積み重ね!例え古くなったとしても、それと同時に運用ノウハウが増すことで、逆に性能も到着までの時間も改善していく!これこそが鉄道の神髄!もちろん、全くの新型車両というのも魅力的だ!魔力モーターカーという、少し空中に浮遊させることで、地面やレールとの摩擦を減らし、最高速度を爆上げさせる試作機を投入したいという思いが無いといえばウソになるさ!」


 何でこの人こんなに必死にしゃべってるんだろう?

 めっちゃ唾飛んでくるんだけど……。


「だけどもだ!やっぱり実際にお客様を乗せて動かすというのであれば、今はまだその手の新型車両の出番じゃない!今新規路線を作るのであれば、間違いなく既存の新幹線の発展型を走らせるべきだ!それが分かっているキミが、新規路線を!それも、山を貫き、谷に橋を架けてくれるというんだ!ここまでお膳立てしてもらえて、私たちGR職員が燃えない訳が無いんだ!みんな大興奮だよ!私は、別に社長としての功績とか、自分自身での偉業を起こすことに興味はあまりない!だけれど!新規の路線を作り出す仕事に携われるというのでれば、例え家族全員と二度と会えないとしても参加したいな!」


 もう、アル義兄さんのハァハァがすごい。

 部屋の中が生ぬるくなっている気がする。


「大試君」


 そんな中やっと落ち着いたのか、イケメンオーラを再度纏ったアル義兄さんが、真面目な顔でこう言った。


「妹と……リンゼと婚約してくれてありがとう」


 初めてのアル義兄さんとの会話は、凡そ妹の夫と義兄間で交わされるような言葉では無かった。

 新しい鉄道を作らせてくれるからって理由で、俺とリンゼが婚約したことに喜んでいるとは……。

 それでも、感謝してくれているみたいだし、恩は感じていてもらおう。

 いつか、何かで返してくれるかもしれないし!


「いえいえ。俺としては、そこまで鉄道自体に思い入れは無かったので、替わりに運営してくれるのであれば、それに越したことは無かったんですよ」

「鉄道自体に……思い入れが無い……?」


 直後、俺の顔の横を通っていく鉛玉。

 俺が引き上げられた身体能力をフルに使っていなければ、その鉛玉は俺の眉間にぶつかっていただろう。

 貫通はできなかっただろうけれど……。


「……あ、ごめんごめん。鉄道を貶す言葉が聞こえた気がして、つい反射的に撃ってしまったよ」


 鈍色の魔道銃から一筋の煙が昇る。

 よし!地雷が本当に危なそうなので、発言には気を付けるぞ!


「テープカット……どんな気分なんだろうねぇ……」


 目がイってる。



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― 新着の感想 ―
ハァハァし出した兄様の腹を抉るようなアッパー仕返すのはセーフだと思うからやっちゃいなYO 多分それで正常に戻るはず
こんにちは。 ホントに撃って来やがった!? ダメだこの義兄さん、早く何とかしないと……無理かww
いきなりスポンサー様を撃とうとするなよw
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