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マル義兄さんの所を後にした俺は、早速とばかりにGR本社へと突撃した。
アポイトメントに関しては、マル義兄さんがとっておいてくれているらしい。
そもそも、この世の中で新規の新幹線を用意しようって言う人間なんて殆どいないので、「よし来い!」くらいの食い気味の勢いで会えることになったらしい。
タクシーで辿り着いたその場所には、高いビルが聳え立っていた。
……あれ?ビル……ビルなんだよな?
よく見ると、形が電車の車両を地面に縦にして突き刺しているようなデザインなんだけど……。
ま、まあいいか。
鉄道を管理している会社だもんな。
このくらい普通普通。
なにせ、元を辿ればゲームの世界をモデルにしている訳だし?
安直にこういうアホみたいな建物を作ったとしても何もおかしくない……はず!
社長が重度の鉄道オタクで、ちょっと過激派らしい事とは関係ないだろう……多分……。
俺は、制服の下にこっそり着ている魔道防弾チョッキを確認した。
うん、しっかり着ている……俺は大丈夫……。
正面の自動ドアを通ると、広々とした空間に出た。
とはいえ、人間は殆どいない。
警備員の制服を着たムキムキのおっさんが3人と、同じく警備員の服を着た女性が1人立っている。
あとは、受付に女性が2人立っているだけだ。
静かすぎてちょっと緊張する。
ここで仕事している時にお腹壊したら、相当な音が響くだろうな……なんてどうでもいい事が頭に浮かんでしまうくらいシンっとしているな……。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします」
受付まで進むと、片方の女性がそう聞いてきた。
美人だなぁ……。
なのに、なんで髪型が新幹線の先頭車両なんだろう……?
重くないのか……?
マリー・アントワネット並みに盛ってるじゃん……。
「犀果大試と申します。今日は、御社の社長様とお約束していたのですが……」
戸惑いを隠すように答えてみた。
すると、俺の言葉を聞いた受付の女性、それも2人ともが、目をカッと開いた。
「犀果様ですね!話は伺っております!至急ご案内いたしますね!」
「総員!乗客が来たわ!指さし確認をしつつ時刻通りにご安全にご案内せよ!」
「「「「発車いたします!」」」」
うわビックリした!?
何これ何これ!?
警備員っぽい人たち4人が俺を取り囲んで手をつないだと思ったら、そのままの陣形で動き始めた。
そうなると、俺も動かざるを得ないわけで……。
そのままエレベーターへと入った俺は、ビルの最上階へと連れていかれた。
「え゛~……次はぁ~、終点~社長室~、社長室~。お降りの方は足元にご注意くださ~い」
最上階に近づいてきたとき、1人だけいる女性の警備員さんが、駅のホームで聞こえてきそうな声の出し方でそんな案内をしてきた。
もしかして、いにしえに聞くエレベーターガールってやつでしょうか……?
いや、台詞的にはバスとか路面電車の添乗員みたいだけどさ……。
ぴろりろり~
最上階についてエレベーターから俺が降りると、ホームに電車が付いた時みたいな曲が流れ出した。
どうやら警備員の方々は、ここで降りる訳では無いようだ。
ピリリリリリリ
俺が、その不思議な光景に頭を混乱させていると、電車の扉が閉まる前のアラームが鳴り響く。
ビクッとしていると、エレベーターの扉が閉まって行った。
えぇ……?
これ考えた奴誰だよ?
やかましすぎる……。
まあいいや。
俺がここに今日来た目的は、新幹線の運用について話をするためなんだ。
気分を切り替えて行こう。
でないと、一つの油断とミスで、額がデカいだけにいくらの損失が出るかわからないからなぁ。
最上階のエレベーターホールには、エレベーターの出入り口と非常階段の入り口以外、車掌室とかかれたデカいドアしかなかった。
あれ?
社長室じゃないの……?
ま……まあいいや。
他にドアないんだし、ここで合ってるはず。
俺は、恐る恐るノックをしてみることにした。
コンコン
「どうぞ」
中から男性の声が聞こえた。
若さを感じるけれど、そこに渋みもあって、やり手の若手社長っぽい声だったなぁ。
「失礼します」
俺は、ドアを開き、室内へと体を滑り込ませた。
「いらっしゃい。キミが、リンゼの婚約者の犀果大試君だね?」
中には、車掌さんみたいな服装の男性がいた。
あー……。
うん、服装に関してはスルーしておこう。
「はい、犀果大試です。リンゼには、いつもお世話になっております」
「ああ、良いよ良いよ、そんなに硬い挨拶なんて。いずれ義理の弟になるわけだしね」
マル義兄さんに聞いていたけれど、確かに人当たりが良さそうだ。
だが、油断はできない。
ここからの会話は、地雷原でダンスをするようなモノだと思って臨まないと……。
「自己紹介が遅れたね。私が、ガーネット家嫡男、そしてリンゼの兄であるアルベルト・ガーネットだ。うちの妹と仲良くしてくれているようで、私も嬉しいよ。もう少し早く会っておきたいとは思っていたんだけれど、どうしても仕事が忙しくてね……。鉄道に関する仕事は、そう言うものだと思って諦めるしかないんだろうかね」
そう言ってアル義兄さんが名刺を差し出してきた。
……肩書が、社長の後に(車掌)って書いてある……。
うん!つっこまねぇ!
俺は今日、ツッコミの仕事はしねぇ!
地雷原でそんな事してられっか!
「それで、俺がここに来た理由なんですが」
「あぁ、話はある程度聞いているよ。ただ、キミの口からも直接聞きたいんだ」
本題に入ろうとしたら、部屋の中の雰囲気がガラッと変わった。
さっきまでのフレンドリーな雰囲気から、ピリッとした物へ。
少なくとも、アル義兄さんの表情は先程までと同じようにニコニコした物なんだけれど、凄味が増しているような、そんな感じ。
「さぁ、じゃあ早速始めようか。新しい新幹線の話を」
そう言った彼の口から、ちょっとヨダレが垂れていた。
あ、これ、ハラペコの動物の目の前に好物をぶら下げた時の緊張感と同じだわ。
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