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新幹線造りの朝は早い。
夜明け前に起床。
この時期は、4時前には大分明るくなるので、それに合わせ色々と準備をする。
そして、ランニングと素振りをシュバババババと終わらせると、何となくプロテインを飲んで体にいいことをした気分になってからシャワーを浴び、ジャージから学生服に着替える。
この時点で、時刻はまだ5時前だ。
魔法学園は、8時40分までに教室に入っていればセーフ。
ならば、今から3時間以上何をするのかといえば……。
「さんきゅーイチゴ!」
「うーん……がんばってねますたぁ……」
「眠そうだな……」
「うーん……あとでむかえにくるねー……」
イチゴに送ってもらって、新幹線開通予定地へと降り立った。
今の俺には、毎日5時間、アイと2人きりで過ごすというノルマが存在している。
とはいえ、ぶっ通しで5時間というのは、なかなか確保するのが難しい。
だったらどうするかという事で考えたのが分割だ。
今日で言えば、朝の内に3時間以上稼げるわけで、これなら放課後に2時間アイと一緒にいるだけでいいので、時間を確保するのが楽になる。
もっとも、アイと2人きりでいるからといって、行動に何か制限を掛けられるわけでもないため、そこまでデメリットも無いんだけども。
周りが大自然すぎて、ある程度目的を持って準備をしていない限り何もできないという点を除けば。
「お待ちしておりました、犀果様」
「お早う。今日も早起きだなー……」
「私は、いつもこの時間には起きておりましたので。ストロベリーやピリカとは、メイドとしての本気度が違いますので」
「本気度……」
あの家の中で、メイド服着てるのにメイドの仕事してるのは、下手をするとアイだけか……?
アイは、すぐ寝坊するし、ピリカは、料理は多少するみたいだけれど、胸が邪魔で仕事がし難いみたいだし……。
猫耳メイドに関しては、マジでメイド服着ているだけだ。
下手をすると、朝食前から居間のソファーの上でテレビ見ながら煎餅齧ってる。
あ、そういや、ソラウはかなり真面目に仕事してたな。
時々尻尾を食べさせようとして来たり、どこからか謎の魔物を狩ってきて料理に入れようとするけれど……。
亀の2人は、仕事を始めようとはするけれど、2人とも同じことしようとして喧嘩になって結局仕事にならないんだよな……。
「アイ、お前がいてくれてよかった……」
「………………………………」
珍しく驚愕しているように目を見開いたまま固まったアイ。
その後、アイ至上最高クラスの笑顔になる。
お前、そんなに表情動いたんだな……。
「私も、犀果様に見つけて頂けて幸せです」
「そう言ってもらえるとありがたいけどね。つっても、俺にできることなんて、こうして一緒にいることだけなんだけども」
「それが、私にとって最高に嬉しい事なのです」
「そっか……」
そう言ってもらえるなら、1日に5時間付き合うくらいまったく苦じゃないな!
「それじゃあ今日も作業を見せてもらおうかな」
「はい、本日はまず、あの山をぶち抜きます」
「気軽に言うよなぁ……」
アイが指さした先にあるその山は、夏だというのに天辺に雪が残っているのが見えるような大きな山だった。
この山、名前もまだ決まっていないらしい。
前世の世界と違って、魔物の領域が多すぎるせいか、地図がちょっとショボいんだよなぁ……。
地上型の迷宮だと、山が産まれたり無くなったりも頻繁に起こるらしいし……。
因みにリンゼ曰く、元になったゲームの一部ダンジョンで、マップが毎回変わるのを参考に反映した結果らしい。
なんだっけ?ローグライク?
面倒な要素好きだよなぁゲーマーって。
「どうやってトンネル掘るんだ?かなりデカい山だし、穴掘るだけでも相当大変なんじゃないか?」
「問題ありません。これを使います」
そう言ってアイが取り出したのは、おもちゃみたいな無駄にSFチックな銀色の銃だった。
「これで穴を掘るのか?」
「というより、照射したビームが当たった地点の物質を圧縮し、強固な壁へと加工しながら進む道具ですね」
うん、俺にはさっぱりわからない技術の塊だということだけは分かった。
「早速やっていきましょうか」
「了解。どんなふうにトンネルになっていくのか、ワクワクするな!」
「では、お楽しみください。照射!!」
シュン……ゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!
アイが気合を入れて引き金を引いた瞬間、地面が揺れた。
地震みたいだけれど、原因はわかっている。
目の前で、その光景を目撃していたからだ。
直径……30mくらいか?
そのくらいのビームが、アイの持つ小さな銃の先端から飛び出し、巨大な山に穴を穿っている。
天変地異でも起こっているかのように、見る見るうちにトンネルを掘り進んでいるのがわかる。
掘ると表現したけれど、これが本当に掘るという行為に該当するのかはわからない。
だって、半透明なビームを通して見えるトンネルの先端が、すごいスピードで見えなくなっていっているからだ。
ビームが当たっても爆発するわけでも、火が出るわけでも無いようだけれど、それでもこの地響きって事は、何かしらで破壊が行われているんだろうなぁ……。
例えば、圧縮された鉱物が、尋常ならざる威力で壁に貼り付けられて行っているとか。
「すごいなこれ……まさにビームじゃん……ロボットでも倒せそうだ……」
「確かに一時期このタイプの掘削ビームによって大型兵器が姿を消しましたが、アンチ掘削ビームが開発されたことにより、逆に大型兵器の時代が再来するという流れがあったようです」
「へぇ……熱いな!」
「もっとも、それらすべてストロベリーの前では無力だったわけですが」
「やっぱりアイツ半端ないな……」
「そして、そんなストロベリーから欠点を取り去って、良い子になったのが我々です」
「やっぱりアイは有能だなー!」
「もっと言ってください」
「よ!お嫁さんにしたいAIランキング堂々の第1位(当社比)!」
「やる気が出てきました」
前世の世界と比べると、この世界の山は、無駄に高いように感じる。
多分、ゲーム制作者たちが絵面重視で作ったせいで、日本アルプスが日本ヒマラヤくらいになっているんだろう。
そんな所を山脈ぶち抜いて、まっすぐトンネルを作ろうっていうんだから、普通の人間からしたら冗談にしか聞こえないだろうな……。
「アイ!ビーム撃つ姿もカッコいいぞ!」
「スカートと髪が風でたなびく様が個人的に自信があるのですが?」
「確かに!荒々しさの中に神々しさとチャーミングさがある奇跡的な光景だ!」
「そこに気が付くとは、流石犀果様です」
ボディービルの大会で、選手たちに独特の台詞で声援を送るオッサンたちのように、段々とアイを褒めるのが楽しくなってきた俺は、その後も毎日5時間以上アイの魅力を叫び続けた。
感想、評価よろしくお願いします。




