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「成程。それで犀果様は、女性一人を手に入れるために、魔物の領域を切り拓いて道を整備することを安請け合いしてしまわれたのですね?しかも、私に丸投げするつもりで」
「……そうだな、ごめん。でも、アイならきっとできると思って……」
「もちろんできますが?」
「流石アイだ!」
「もっと言ってください」
「美人で有能すぎて今夜もアイの夢を見そう!」
「フフ……そうですかそうですか……」
うちの美人メイドを褒めそやす。
実際、非の打ちどころが表情が乏しい所くらいしかない有能さなので、嘘は言っていない。
このやり取りだって、ぶっちゃけお互い何もかも分かった上でやっている所があるし。
プロレスだプロレス。
「それで、どのくらいの期間が必要だ?」
「現地を確認して見なければ何とも。現在衛星からの情報で試算した凡その物でも良ければ……2週間といった所でしょうか?」
「そんなに早く開通できるのか?」
「はい。どのような道にするかにもよりますが」
2週間で東京と白川郷の間に道路を作るなんて、前世の人類にも無理だったんじゃないかなぁ……?
明治頃に、北海道に囚人送り込みまくって、アホみたいなペースで道路作ったって記録もあった気がするけど、流石にそれを超えるペースだろう。
とはいえ、道の作り方によって期間は変わるようだけど。
「例えば、どんな案があるんだ?」
「そうですね……平坦な場所を縫うように山間を抜けていくようにするのであれば、前述のとおり約2週間です。もし、山をぶち抜き、川や谷に橋を架けながら真っ直ぐに作るのであれば、約4週間程かと。但し、こちらに関しては、地質調査なども必要ですし、実際に掘ってみたら地盤が脆すぎて補強に手間がかかるというようなトラブルも予想されますから、工期が伸びる可能性もありますが」
「そうか……それでも4週間って早いな。流石だ」
「ありがとうございます」
うん、おべっかとかそう言うの抜きに凄すぎるわ。
「王都までまっすぐにできるならその方が利用者にはありがたいよな。でも管理する側からしたら、トンネルなんて維持管理に手間がかかるものは無いほうがいいだろうし……。正直、どっちもアリだな」
「両方の道路を作った場合、管理費も単純計算で2倍ですから、どちらかに絞る必要があるかと」
「そうなんだよなぁ……。因みに安全性はどうなんだ?魔物が出たらやばいよな?」
「どちらの道路も、魔物避けの結界を張りますので、安全性は問題ないと考えます。道路の下や上に、魔物や野生動物が通れるように道を整備しておけば、生態系にもそこまで影響はないでしょう」
「成程なぁ……。難しい……」
どっちも魅力的に感じるし、実際金持家の人たちも、王様だって文句は言わないだろう。
だからこそ、俺の判断で決まるのは、中々緊張するなぁ……。
アイという規格外の存在に依頼する以上、他の貴族達にアドバイスを求めるわけにも行かないし……。
「うーん……」
「…………」
目の前の美少女AIメイドは、俺が指示するまでこのまま動かない気だろう。
これは、俺の言いつけを完璧以上に遂行して、俺に褒めてもらうことしか考えていない顔な気がする。
まあ、ほとんど変化は無いが。
そう言うことなら、彼女が主人と認める俺としても、彼女の想像を超える案を出したくなるもんだ。
何かないか!?アイデアの神よ降りて来い!
…………あ、これいけんじゃね?
「よし!」
「決まりましたか?」
「ああ、まっすぐ作ろう」
「畏まりました」
「それと……」
「?」
俺は、今閃いた考えを言うために溜を作る。
たっぷり思わせぶりに黙った後、満を持して言い放った。
「道路を作るんじゃなくて、新幹線を走らせよう」
「!?」
アイの驚いた表情が心地いい。
やってやったぜ!
「新幹線ですか?それは……」
「無理か?」
「技術的には可能です。後期が更に伸びはしますが。ただ、新幹線を維持するだけの収益が出るかとなると疑問です。白川郷という地域に、そこまでの経済的な魅力があるとは考えられません」
正論だ。
この世界の白川郷は、俺の生まれ故郷程ではないにせよ、辺境と呼べるような場所だ。
そう!それは世界の話だ。
前世の白川郷は、観光でブイブイ言わせていたんだ。
そして、この世界の人々は、交通手段を確保するのが大変なせいで旅行というものに馴染みがない。
観光地なんて殆どないし、あったとしても富裕層向けのものばかりだ。
強いて言うなら、会長の実家の神社みたいに、宗教的な要素が強くて人が集まるような所であれば、客層関係なく人は来るかもしれないけれど、その程度だろう。
だったら、安くて速くて安全な移動手段と、非日常感を味わえる観光地を作り出したら?
売れそうな気がする……!いや、俺に商才なんてもんがあるかは知らんので、実際にどうなるかはわからんが。
その辺りも、アイに任せてみるか……。
「アイ、白川郷を観光地にする」
「な!?」
「新幹線を繋げて、更にホテル……といっても、和の雰囲気がある建物がいいな。そう言うのを用意して、お土産屋とかも沢山作ろう。温泉はマストだ!」
「犀果様がそこまでしたところで、採算がとれるかはわかりませんよ?」
「もし赤字を垂れ流すようなら、俺が魔石でも魔獣の素材でもバンバンとってきて補填するから、暫くは続けてみよう。ダメなら、その時に考えればいいさ」
「…………わかりました。アイは、犀果様のラブメイドです。ラブメイドは、犀果様のご希望に120%応えてこそ存在価値があります。約束しましょう!私が白川郷を世界有数の観光地にして見せると!」
その自信と覚悟、そしてやる気に満ちた宣言は、まるでアイの生きざまと誇りを表現しているかのようだった。
奇麗でカッコいいその姿に、俺も思わず女の子のようにきゅんとしてしまう……。
でも、ラブメイドって言葉は恥ずかしくない?
「それで、私個人への報酬についてですが」
「うん、まあそういうのも要求されるよな。何が良い?」
「はい、完成するまで毎日5時間は現地へ視察に来てください。移動にストロベリーの飛行機を使う事は許可しますが、その後は1人で私の所へと来るようにお願いします。2人きりで視察デートしましょう」
「……えっと、1時間くらいに負けてくれないか?普通に授業あるんだけど……」
「1分たりとも譲歩いたしません。5時間以上が絶対条件です」
「あうあ……うぅ……わかった……」
こうして、俺の新たな仕事が毎日の生活に組み込まれた。
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