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「薫子ちゃん何それ!」
「その木刀どうしたの!?」
「それは、大人の女の秘密よ」
「「よくわからないけど、カッコいい!」」
日が昇って、子供たちも徐々に起きてきた。
男子は、もう一度クワガタを捕りに行こうとしている奴らが多い。
一方の女子はというと、木刀を2本持ってポーズをとる女の子の周りに集まってきている。
ワイワイと賑やかだ。
「どう?この木目……美しいでしょう?」
「奇麗……高級な家具みたい……」
「木刀ってこんな感じだったんだ?てっきり、もっと安っぽいと思ってた」
「お土産屋さんとかで5000GPくらいで売ってるよね」
「でも、この木刀は、すごく高級感があるって言うか……迫力あるよね!」
「皆、良い目をしているわね?将来が楽しみだわ…フフッ」
ご機嫌な様子で木刀を見せびらかす薫子ちゃん。
それにマイナスな感情を出す娘もどうやらいないようで、いいなーと言い合う女子たち。
仲良きことは良い事だ……。
ってか、木刀喜ぶのなんて男子だけだと思ってたわ。
もっとも、その喜びは買ってから30分くらいしか続かないだろうけれど。
嵩張るし案外値段高いし、何より使いどころがない。
まあ?
俺が出した木刀は特別製なんで?
持ってるだけで勝ち組だと思いますけどね?
「フフっ……あの娘たちも木刀の魅力に気が付いたみたい」
俺が、木刀サークルの姫たちを見ていると、いつの間にか横に並んでいた木刀サークルの女王が呟いていた。
「これが目的で、俺に木刀を用意させてたのか?」
「別に、こうなると最初からわかってた訳じゃない。でも、大試が木刀を用意しておいてくれたら、何となく良い事が起きそうな気がしたから」
「相変わらず、聖羅の勘はすごいな」
ドヤ顔も美人な聖女様。
ちょっとついてる寝ぐせを手櫛で直してやると、途端にすごく嬉しそうな顔になるのがまた可愛い。
好き……。
「ところでさ、あの娘が薫子って名前だって知ってたか?しかも、順平班にいたもう一人の女の子の名前は、真理奈っていうらしいぞ。俺、全然知らなくて名前間違っちゃったんだよな」
「大試、よっぽどのことが無いと相手の名前なかなか覚えないもんね」
「すごく優しくされたとか、いっぱい喋ったりすると覚えるんだけどなぁ……」
「因みに、私は薫子ちゃんに大試がどう接するのか気になってた」
「そうなのか?」
「うん」
どうって言われてもなぁ……。
なんか、見てて面白い娘だなとは思うけれど、それ以上の事はなぁ……。
「彼女の苗字は、金持」
「かもち?へぇ、馴染みのない珍しい苗字に聞こえるな……あれ?でも、どこかで聞いたような……?」
頭を捻っても、どこで聞いたのか思い出せない。
かもち……かもちー……?
うーん……。
まあいいか!
思い出せないもんは思い出せないさ!
その後は、朝食に皆でハニーチキンを作ったり、ある程度気温が上がってきたら、比較的川の流れが緩やかな所で、交代で釣りをしてみたり、アウトドアを満喫した。
子供たちも、皆楽しんでくれたようだ。
勝気ちゃ……真理奈ちゃんと順平君が手を繋いでいて、青春だなぁと感じたり、あのデスメタルTシャツの少年が釣り餌を食べようとしてファムに頭ぶっ叩かれているのを眺めたり、薫子ちゃんが木刀に釣り糸と釣り針をつけて大きいナマズを釣り上げた奇跡の瞬間を目撃したり、俺としても色々思い出深いイベントだったなぁ……。
担任が途中退場したのが本当に悔やまれる。
まあ、腰はなぁ……。
とはいえ、時間とは有限な物だ。
お昼ご飯に、釣った子も釣れなかった子も当たるだけの焼き魚を食べた後、バスで学校まで帰ってきた俺達。
ここで、親御さんたちが迎えに来てくれる手はずになっている。
本来であれば、自分たちで歩いて登校してくる距離に住んでいる筈の子供たちだけれど、流石にこれだけしっかり遊んだ後だと、疲れて寝落ちしている子も多いだろうからという配慮だ。
どうしても保護者の予定が付かない子供に関しては、バスで家まで送ることになっているけれども。
「では皆さん!大試先生たちにお礼を言いましょう!せーの!」
「「「「「ありがとーございました!!」」」」」
そんな〆のあいさつを最後に、子供たちはそれぞれの保護者の元へと駆けて行った。
みんな笑顔になっているし、それを見て親御さんたちも大喜びに見えるから、今回のホストとしての役割は完ぺきにこなせたんじゃないかな?
くくく……。
まあ、一番媚び売らないといけない相手はここに居ない上に、その人の息子をデコピンでフッ飛ばしたりしたわけだが……。
達成感と、若干の遣る瀬無さに苛まれていると、服の裾を引っ張られた。
見ると、真理奈ちゃんがいる。
彼女は、顔を赤くしながらこう言った。
「先生……またね?」
「ああ、またな」
「うん!」
とは言ったが、俺は今後あの娘とどう付き合っていけばいいんだろう?
ってか、順平君が泣いてるからやめたれよ。
彼のやらかしは中々だったけれど、好きな娘の目の前で、好きな娘が惚れ……あー……気になっている?男相手に、女の子への告白を兼ねた決闘を申し込むとかさ、本当勇者だよ……。
まあ、いいか……。
あのくらいの歳の女の子が、年上の男に興味持っちゃうのは、はしかみたいなものだって聞いたことあるし、なんとかなるさ……。
「先生、この美しい剣、大切にするわ。また何時か、会いましょう?」
「お、おう、喜んでくれて何よりだ。またな」
薫子ちゃんは、余程木刀が気に入ったらしく、偶々俺が持っていた荷物整理用のマジックバンドを帯剣用の帯代わりに上げたら、それに木刀を差して意気揚々と歩き回っていた。
もう既に長さを調整する事もできるようになったようで、彼女にピッタリのサイズになっている。
うーん……ゲームの世界の登場人物らしく、彼女もかなりの美少女だからか、小学生女子が木刀2本装備しているというちぐはぐな恰好でも様になるなぁ……。
彼女も保護者が迎えに来たようで、一直線にある人物の方へ歩いて行った。
その先には、金髪縦ロールで、俺が非常にアレな事をしてしまった相手が校門から歩いて来ていた。
「あらお姉様、迎えに来てくださったんですのね?使用人に任せれば宜しいでしょうに」
「はぁ、何を言っているんですの……?家に使用人を雇う余裕がないこと位わかっているでしょうに……」
「言ってみたかっただけよ。それより、今日も美しい縦ロールだわ」
「あ……ありがとう……。ところで薫子、その木刀はどうしたんですの?」
「素敵な殿方に貰ったの。お姉様も親しい方だったはずだわ」
「私と?男性と親しくなった事なんて無いんですけれ……ど……」
金髪縦ロール……金持絢萌さんと目が合ってしまった。
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