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「俺が……真理奈を救うんだ!」
「順平!何勝手な事言ってるのよ!?」
どうしよう……誰なのかわからない女性を賭けて、決闘を申し込まれてしまった。
うーん……。
今更、それ誰?って聞くのもなぁ……。
そうだ!
「おい、ふざけるな。勝手に女を賭けるなよ。真理奈?に失礼だろうが。賭けるなら、自分の誇りだけにしろ」
よし!これで、俺が勝ったとしても、その真理奈とかいう女性の事をどうこうする必要はない!
ってか、勝気ちゃんの反応から察するに、真理奈って人は勝気ちゃんの関係者だったりするんだろうか?
例えば……姉?
近所に住む年上の美人な幼馴染に惚れていた順平。
しかし、そこにいきなり出てきたチャラ男にNTRされて……。
いや、だから会ってねぇし!
となるとだ、俺が昨日今日会った中に真理奈って女性がいる可能性が高い。
誰だ……?
うーん……。
一番確率が高いのは……はっ!
もしかして、あの意識高い系の女の子か!?
確かにあの娘は、自分の美しさを磨くことに余念がないのもあってか可愛かったもんな!
真理奈ちゃんっていうのか。
勝気ちゃんは、目がキリっとしている感じだけれど、あっちの子は、ちょっとタレ目な印象だったなぁ。
成程……順平君の好みは、ああいう感じの女の子かぁ。
昨日から今日にかけて、女性的に完璧なスタイルに成長している大人の女性たちがいる中で、そちらに目もくれずに幼馴染の女の子のために戦おうとするとは、中々青春しているじゃないか!
何より青春っぽいのは、俺を置いてきぼりにして、本人だけで盛り上がっている辺り。
「誇りって……それじゃ真理奈を助けられないだろ!」
「知るかよ。そもそも、真理奈はお前に助けてほしいのか?お前が自分の勝手な考えで暴走しているだけじゃないって、自信もって言えるのか?」
「うっ……!」
俺の言葉に少し冷静になったのか、順平は顔を顰める。
そして、勝気ちゃんの方をチラッと見た。
「順平……」
「……!」
悲しそうな顔をしている勝気ちゃん。
その表情に何を見たのか、再び闘志を燃やす順平。
どうする?
青春の続きするか?
それより、コーヒー牛乳とハニートースト食べない?
「……わかった。大試さん!俺と、男の誇りを賭けて決闘だ!」
「はぁ……わかった。いいだろう」
めんどくさい奴だな!
とはいえ、決闘から逃げるのはなぁ……。
子供たちの手前、そんな情けない姿を見せたくないというのもあるけれど、何より勝負事で負けっていう結果自体がなんだか嫌だし!
うーん……。
ボコボコにしたら、流石にあの担任のオッサン怒るかなぁ……?
アンタの息子から始めた事なんだって言ったって納得しないよなぁ……。
あ、もしかして、ここで必要になるのか?
振り返ると、聖羅に言われて出しておいた木刀が2振り地面に突き立っている。
これなら、最悪でも死にはしないか……?
……いや、本気でやれば確実に死ぬけど、殺さないように努力しましたって言い張れるか……?
俺は、順平の足元に木刀を1振り投げた。
「武器は、その木刀を使え」
「アンタの用意した武器なんて使えるか!どんなズルい事されてるかわからないじゃないか!」
「別に使いたくないなら使わなくても良いが、お前、武器持ってんのか?」
「うっ……」
持ってないのか……。
「い……いいだろう!この木刀で戦ってやる!」
そう言って、勢いよく世界樹製木刀(神剣)を拾うガキンチョ。
お前なぁ、それ1本で歴史が動くくらいヤバイ代物らしいからな?
大事に扱えよ?
まあ、叩いても焼いても傷一つつかないだろうけど。
「なら、ルールを決めるぞ。使っていい武器は、その木刀のみ。相手をギブアップさせるか、気絶させたら勝ち。殺してしまったら、問答無用で負けだ。いいか?」
「わかった!」
本当にわかってんのか?
この木刀、叩かれたら普通に痛いんだぞ?
いくら勝気ちゃんが見てるからって、勢いだけで言ってないか?
そういうアピールは、真理奈ちゃんがいる所でやらんとダメだろ。
……でも、そういうわけのわからなさが青春なのかもしれない……。
フッ……青臭くて、嫌いじゃないな!
「さぁ、いつでもかかってこい」
「う……うおおおおおおおお!」
嫌いじゃないけど……。
「ていっ」
「へぶっ!?」
負けるつもりも無いんだ。
俺のデコピンで軽く吹っ飛ぶ順平君。
地面を転がった後、倒れたままぴくぴくしている。
死なない程度に手加減はしたけど、今の一発で立てなくなったようだ。
「おれは……まりなを……」
それでも、まだ諦めていないらしい。
でもさ……別にこの決闘がどうなろうが、真理奈って人とはどうにもならんと思うんだ……。
だって、未だに誰かわからないんだもん……。
「順平!」
そんな順平の姿を見て、勝気ちゃんが走り寄る。
彼女は、順平君のおでこを触り、症状を確認しているようだ。
反応から察するに、そこまで酷い事にはなっていないようだな……。
こっちから見た感じ、ちょっとたん瘤になりそうかな?ってくらい。
最悪、聖羅に治してもらえば大丈夫!
それはそれとして、俺が勝ったんだから、もうその真理奈がどうとか言うの止めて戻ろうぜ?
皆でコーヒー牛乳にしよう。
「……ごめんね、大試先生」
なんて考えていたら、俺の考えを読んだかのように勝気ちゃんが返事をしてきたのでびっくりした。
「私、今はまだ先生の所にはいけない……。コイツ……順平を放ってはおけないなって思っちゃったから……」
ん?
いや、流石に俺もこの状態の順平君を放置していくつもりは無いが?
聖羅の所に連れて行くつもりだったんだけど……?
でも、まあいいか。
「そうか」
「うん……本当にごめんね……。でも、先生の気持ち、すごく嬉しかった……。だから……また何時か、先生の所に行くから……。できれば、それまで待っていてほしいな……」
「あ、うん」
そこまでしなくても、コーヒー牛乳くらい自宅で作れるだろ?
時間がかかるなら、無理にここで飲まなくても……。
そんな事を言う暇もなく、勝気ちゃんが順平君に肩を貸して立たせた。
「ほら!行くわよ!まったく……私がいないとダメダメね」
「う……うるさい……!俺だって……俺だって!」
「はいはい、後でゆっくり聞いてあげるわ」
そうしてキャンプ地点へと戻っていく彼らを見送る。
うーん……よくわからないけれど、青春……だったよな?
ヤバイ……青春がどんなものかわからなくなってきた……。
青春って何だ!?
「朝から青い果実が2つ、瑞々しい姿を見せていたわね」
自問自答しながら、コーヒー牛乳を作りに行こうとしていると、またも後ろから声が掛けられる。
皆、なんで背後から声をかけてくるんだろうか?
そこに立っていたのは、真理奈ちゃん(仮)だった。
「ごめん、うるさくして起こしちゃったか?」
「いいえ、私は美容のためにいつもこの時間に起きているの」
「そうか……」
真理奈ちゃん(仮)は、手にマグカップを2つ持っている。
漂ってくる香り的に、コーヒーだろうか?
「青い後味から口直しするために、漆黒の雫は如何かしら?」
その内の片方を俺に差し出してきた真理奈ちゃん(仮)。
見れば、中身はやっぱりコーヒーだったようだ。
……ブラックの。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「砂糖とかミルクはいれないのか?」
「私、もう子供じゃないの」
「そうか……。俺はこれから牛乳と砂糖ドバドバ入れようと思っているし。ソフィアさんなんかたまにコーヒーに練乳とアンコ入れてるけど、キミはブラックで良いんだな?」
「…………偶には、白と黒の調和を見るのもいいかもしれないわ……」
そして俺たちは、早朝からコーヒー牛乳と、ついでにハニートーストをキメた。
うーん……やっぱうめぇなぁ……。
「ところで、真理奈ちゃん的に順平はどうなの?彼氏にしたい男子?」
「真理奈は、年上の男が好きなの」
「へぇ……」
「あと、私の名前は、薫子よ」
「えっ」
間が持たなくなったので、とりあえずコーヒー牛乳をおかわりした。
いやぁ……まさか真理奈ちゃんが勝気ちゃんだったとは……そんな甘酸っぱい展開だったのかあれ……。
すげぇなぁ……。
目の前に意中の女の子がいて、それをオープンにしたうえで決闘を申し込んでくるとか……。
「あ」
「どうしたのかしら?」
「いや、木刀結局使わなかったなって。聖羅は必要になるって言ってたのに……」
俺は、使い終わって近くの木に立てかけてある木刀を見てそんな事を思い出した。
そんな俺の視線を追って、薫子ちゃんも木刀を見た。
「……美しい……!」
なんか、今回の虫捕りキャンプ中で一番目がキラッキラしてるな……。
……そういえば、名前間違った負い目もあるし……あげようかな?
「木刀、いる?」
「……いらないわ。私、刀はシンメトリー、双剣しか認めない主義なの」
「2本、いる?」
「…………」
数分後、フンスフンスとご機嫌で木刀2本持って構える女の子がそこにいた。
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