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511:

「そこまで!虫捕りは終了じゃ!全員、捕まえた虫は逃がしてキャンプへ戻るぞ!」

「「「「「ええええええええ!?」」」」」

「「「「「はーい!」」」」」


 もっとここで遊んでいたい男子たち。

 もうさっさとキャンプに戻りたい女子たち。

 それぞれの反応は、奇麗に2つに分かれた。


「夏の夜の思い出は、儚い物ね……でもそれが女を美しくするの……」


 例外も少しいたが。


 何はともあれ、あまりゆっくりもしていられない。

 何故なら、本日最後のイベントは、近隣住民にも時間を伝えてあるからだ。

 これを守らないと、後々面倒な事になりかねない。

 スーパーの閉店時間ですら、ちゃんと時間通りに終わらせないと苦情を出されるって話だしなぁ……。

 閉店時間の設定も周辺住民と話し合って細かく決められていて、夜10時とかではなく、夜9時45分閉店のスーパーが多いのは、それ関係の色々面倒なしがらみがあるからって噂だ。

 大変だなぁ……。


「あの……大試先生!この後何かあるんですか……?」


 俺が世間の難しさを痛感していると、未だに俺の腕にひっついたままの勝気ちゃんが、上目遣いで聞いてきた。

 まだ虫が怖いんだろうか?

 それとも、暗い森の中だからか?

 まあいいけども。


「ある。楽しみにしとけ!」

「……!あ……はい!」


 思ったよりも楽しみな顔になった。

 その期待を飛び越えるだけの演出をせねばな……!

 といっても、この後のイベントの演出は、ほぼ全てソラウの担当なんだけども。



 俺達がキャンプに戻ると、先ほどまでの大騒ぎの跡が奇麗になっていた。

 炭火の焼き台が全て片付けられ、アウトドア用の椅子が同じ方向に向けて並べられている。

 森が開けていて、遠くまで見えるその方角を見せたいという考えが見て取れる。


 仕事が終わって飲み会……女子会へと突入していたお手伝いの女性たちも、今は大人しく同じ方向を向いて座っていた。


 椅子に備え付けのドリンクホルダーには、ビールが注がれたプラスチック製のコップが入っているけれど。

「ふむふむ……今回は、缶や瓶よりこちらの方が雰囲気が出そうですねぇ……」との責任ドラゴンの判断で選ばれた提供方式らしい。

 といっても、その責任ドラゴン自体は、あまりお酒を飲まないんだけれど。

 ジュースを飲んでいることが多い。

 しかも、100%のものより60~80%くらいの物が好きらしい。

 お酒が嫌いなわけじゃ無く、お酒を飲むと何をするかわからないから怖いそうだ。

 それは俺も怖い。


「よし、子供たちよ!それぞれ椅子に座るのじゃ!ほれ!さっさと座れ!」


 ソフィアさんが、子供たちをドンドン急かして座らせていく。

 時間も無いので、大急ぎだ。


「ソフィア先生、何が始まるの!?」

「ふっ、それは見てのお楽しみじゃ!」

「なになに!?俺達何見せられるんだ!?」

「夜の森……学校のクラスのメンバーが一か所に集められて……まさかデスゲーム!?」

「んなわけないじゃろ……。はよう座れ!」


 殿を兼ねて最後尾を歩いてきた俺たちは、数列並べられた椅子の一番後ろに座ることになった。

 未だに隣には、勝気ちゃんがいる。

 その隣には、順平君が座った。

 チラチラと勝気ちゃんをみているが、勝気ちゃんは気が付いていないようだ。

 まだ暗いのが怖いんだろうか?

 このイベントの事を考えると、あまり会場を明るくできないからなぁ……。


 そんな事を考えていたら、俺を挟んで勝気ちゃんとは反対側に誰かが座った。


「むむぅ……」

「あ、聖羅か。救護テントは大丈夫そうか?」

「酔っぱらった人が何人か来たくらい。一番の重症者は先生だった」

「あぁ……」


 そういや、あの担任のために企画したんだったなぁ今回のこの虫捕りキャンプ……。

 途中退場させたけれど、素直に病院行っただろうか?

 サボり可能日数さえもらえるなら、あのおっさんの腰の事なんてどうでもいいけど。


 ガシッ


 腕が掴まれた。

 何事かと見て見れば、聖羅が腕に抱き着いている。

 何してるんだ?

 人前で恥ずかしいじゃないか……。


 でへへ……。


「ふっ!」


 何でいきなりこんなイチャつき始めたのかはわからないけれど、その後ドヤ顔をしながら勝気ちゃんの方を見ていたので、恋愛強者っぽいアピールがしたかったのかもしれない。


「ん!?んん!!」


 対抗したのか、俺の腕にしがみつく勝気ちゃん。

 でもな、キミのその行為は、聖羅とは全く違うぞ?

 キミの場合は、腕に抱き着いているだけ。

 聖羅の場合は、腕を極めている。

 絶対に抜け出せない状態になっている訳だ。

 これが、大人の力だな!

 痛いもん。


『ザザ……あぁー……テステス』


 俺が片手のうっ血を心配し始めたタイミングで、通信機から声が聞こえてきた。


『そろそろ準備は宜しいでしょうか?』

「大丈夫だ。頼むぞソラウ」

『畏まりました。それでは……第五の絶滅改改改改改!』


 ソラウの返事に続くように、遠くの夜空に何か明るい物が打ち上げられた。

 それを見た子供たちは、やっとこれから何が起こるのかに気が付いた様子だ。

 たった数秒の間に、顔がワクワクに染まる。


 そして……。


 ドオオオオオオオオオン


 空に花が咲き、その少し後に響く爆発音。

 ソラウが拘って作り上げた花火だ。

 火薬の調合からデザインまで、とにかく本人が興味の赴くままに作りまくった花火たちが、どんどんと上がり始めた。


 普通の花火大会であれば、『どこどこの提供で~……』などと間に休憩を入れられてしまい、熱も冷めてしまうものだけれど、今回の花火は、提供俺、製作ソラウな為、無粋な間は殆ど存在しない。

 それぞれの花火の良さを引き立たせるために、あまり同時に打ち上げるような事はしていないけれど、あまり間断なくとにかくポンポンと打ち上げられる花火に子供たちは大興奮だ。


「あぁぁぁあぁ……花火を見ながら飲むビールは最高ですねぇ」

「教会から逃げられてよかったですよねぇ……」

「私……お祭りで屋台出すお仕事しようかな……」

「「いいね!」」


 なんて声も女子会ゾーンからは聞こえるけれど、とりあえず皆のいい思い出にはなれただろう。

 流石ソラウだ!

 ちゃんと炎色反応で色が移り変わる高度なタイプの花火になっているし、事前に『ふむふむ……ここまで面白いとは思いませんでしたねぇ……花火造り……』とハイテンションだったので、本人も満足してくれていると思う。


「大試先生!奇麗だね!」

「だなぁ……」

「大試、花火と私、どっちが奇麗?」

「花火を見て目を輝かせている聖羅かな」

「わかった。花火に集中する」

「流れるようにイチャイチャされちゃう……!」


 勝気ちゃんに何か悪い影響が出ている気がしないでもないけれど、本人たちはエンジョイしているようなので、口出しするのは止めておこう。


「夏の夜空に一瞬だけ咲く花……荒々しくも繊細な花弁は、まさに私みたい……。いつか私も空に咲いてみたいわ……」


 順平君を挟んで勝気ちゃんの逆側に座っている不思議ちゃんが何かを言っている。

 彼女は将来何処を目指しているのだろうか?






感想、評価よろしくお願いします。


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